2021-01-13
55.インターネットカジノは陸上カジノを凌駕するか?
ネットカジノとはインターネットを利用して顧客に対し、カジノ賭博を提供する行為をいう。
賭け金の決済はクレジットカードや電子マネーが基本だ。
パソコンやスマホから無料ソフトをダウンロードすれば、何時でも、何処でも、何度でも遊ぶことができる。
ネットは空間的時間的ギャップを埋めるため、顧客にとっては極めて利便性の高いツールになる。
もっともことが賭博行為である場合、様々な課題を抱え、その制度や実践の在り方は単純ではない。
国境を越えたサイバー空間における賭博行為の提供は、そもそも規制や制度の対象になりにくいからだ。
名目的企業を軽課税国に設置し、ネットを通じ賭博行為をすることで、誰の規制も受けず、誰にも税金を払わず、いかさまや詐欺も簡単に成立しうると一般的には考えられている。
我が国の公営賭博では賭け行為自体にインターネットが利用されているわけでは無いが、賭け行為の周辺でインターネットが顧客の利便性を高めるために使われている。
例えば、競馬の馬券や競艇の舟券等の公営競技の投票券の購入、宝くじの購入等だ。
競馬場へ行かなくとも競馬は楽しめるし、場外馬券売り場に行く必要もなくなる。
宝くじもわざわざ売り場へ足を運ぶ必要もないわけだ。
これはあくまでも投票券の販売行為をネットで処理しているだけであって、賭博行為自体をネットで提供しているわけではない。
我が国のネットカフェ等でライブストリームにより画面に本物のデイーラーが登場し、クレジットカード決済等により、バカラ賭博を提供するようなことが行われているが、これはネットを空間的・物理的距離を短縮するツールに用いているにすぎない。
この意味では、単純賭博行為にすぎず、当然違法行為になり、わが国でも時々摘発されている。
狭義の意味でのインターネットカジノとは胴元がサーバーとゲーム・課金等のソフトウエアを管理・運営し、ネットを通じ、電子的に顧客と対面し、電子的にカジノ行為を提供する場合等になる。
日本のIR制度で考慮されている陸上設置型の伝統的なカジノは、Brick & Mortar型等ともいわれているが、この管理や規制、制度の枠組みとインターネットカジノを認め、これを規制し、管理する枠組みは、本質が全く異なり、後者は極端に複雑になる。
この二つは、規制の対象や範囲・規制の手法が各々全く異なると思った方が理解しやすい。
インターネットの場合、ソフトウエアを細工すれば、いつでも顧客をだますことができる。
顧客が大勝ちをした場合、直ちにサイトを閉鎖し、翌日別の名前で新たなサイトを立ち上げる等もいとも簡単にできてしまう。
クレジット番号さえわかれば、未成年が参加しても誰にもばれず、アクセスが容易な場合、賭博依存症を誘発しやすい環境にも繋がる。
かかる事情があるために欧州諸国では、この目的のためだけの特別の規制機関を創設し、事業者・職員廉潔性認証取得義務、サーバー並びに利用ソフトウエア設置場所限定・認証取得義務、規制当局によるサーバー・顧客情報のリアルタイム情報シェア、顧客の年齢確認等、ネットカジノの全てを規制と監督の対象にする国が多く散見される。
ネットカジノの規制や監督は欧州諸国が先行し、かなり精緻な仕組みができているが、米国ではまだ、ネットを利用できる賭博行為の対象が未だ限定されているため、事業者の廉潔性を確認する免許付与が基本で、欧州のように運営レベルまで深く入り、事業者を管理・規制するという州は存在しない。
過去の米国のカジノ事業者は、インターネットカジノは伝統的な陸上設置型カジノと競合することから反対の意思を示してきた企業が多いが、連邦司法省による法解釈変更により、州政府がネットによる賭博行為許諾が出来ること、スポーツベッテイングも既存法の解釈を変え州政府に許諾権があること等が判示され、ネットを通じたスポーツベッテイング、オンラインポーカーを制度的に許諾する州が一挙に増えつつあることが現実になる。
子会社を通じかかる動きに参入しつつあるカジノ大手企業もでてきたが、売り上げレベルから見ると陸上カジノを凌駕できる動きにはまだなっていない。
全ての賭博行為が認められているわけではなく、州毎に規制や仕組みも異なるからである。
原則一つの州内での州民に対する提供となるが、他の州との相互協定を締結した州の州民は両方の市場を一つとした事業者のオンラインサイトに参加できるというかなり変わったシステムになっている。
コロナ禍に伴う現状を考慮し、三密の象徴みたいな陸上設置型カジノは最早時代遅れ、今後はインターネットが主流という意見もあるが、世の中はそんなに単純には進まない。
ネット社会をどう規制するか、できるかに関しては様々な課題と選択肢があり、この最適解はまだ見つけることができていないからだ。
遊びの世界は当面デジタルとアナログが共存しながら進展していくと判断することがより適切と思われる。
勿論これは米国の事情にすぎず、国境のないサイバー世界にはオンラインカジノ事業者のサイトがごまんと存在し、日本語によるサイトも多い。
我が国ではこれらは全て違法・禁止の対象なのだが、単純な法の執行(Enforcement)ができにくいサイバー世界でもあり、実質的には野放しに近い状態が続いている。
この現実を見て、日本でもネット賭博は合法、これからはネットカジノの時代等公言したりする識者がいるが、適切な考えではない。
現在のIR実施法の枠組みではネットカジノ等当然不可能、なんでも認められる等はありえない。
もしこれを認めるとするならば、陸上カジノの法制度を完璧に創り、実践した後で、これらの経験を踏まえて、新たな法制度構築を考慮するということがあるべき方向性になる。
勿論このイニシアチブを政府ないしはカジノ管理委員会がとれるわけもなく、立法府主導で将来的に新たな立法措置を図るという手順になるのだろう。
(美原 融)