2024-07-01
267.スポーツブッキング 全米大学体育協会による法改正要望の動き
米国大学体育協会(NCAA)は1906年に創設された、大学間スポーツ試合の競技規則の策定や管理、大学スポーツ試合の主宰を担う団体で、全米で約1100の大学やカレッジが加盟している。
健全かつ安全な大学生スポーツを提供する総元締めみたいな機能を担っているのだが、大学スポーツのビジネス化にも熱心で、今や試合のTV放映権等年間1000億円以上の収益を稼ぐ巨大な利益団体でもある。
勿論これら収益は加盟大学に分配され、大学教育やスポーツ振興に再投資されるとともに、大学生アスリートはNCAAに登録し、一定の資格を認知されない限り、NCAA主宰の大学スポーツ試合には参加できない仕組みになっている。
大学スポーツ試合がスポーツブック(賭博)の対象となることに対しては、NCAAは長年反対の立場にあったのだが、2019年連邦最高裁によるPASPA法棄却に伴い、180度方針を転換し、これを認知し、NCAAも加盟大学・カレッジも、今やスポーツブッキング業界や関連企業から様々な財政的な恩恵を受け、蜜月状態にあることが実態だ。
もっともスポーツブッキングの法制度は、各州がバラバラに制定してきたため、規制の内容もバラバラでここに統一感はない。
例えば州によっては大学スポーツをスポーツブックの対象にすることは認めるが、自州にある大学が参加する試合を賭博の対象とすることは認めないという州も多い。
これはかなり混沌とした状況を生み出している。
規制の厳格度が州毎に異なる場合、異なる州の大学間での試合に際し、何が認められているのか、認められていないのかに関し、困惑することが多くなるからである。
今や38以上の州がスポーツブッキングの法制化を実現し、異なる制度、異なる規制の下で大学スポーツ試合もスポーツブッキングの対象になってしまっている。
この結果、学生アスリートは公平ではない場(Uneven Playfield)に立たされており、脆弱な立場においこまれているのではないかという危機感をNCAAは主張し始めている。
これに伴いNCAAでは自らの組織内に設置した学生アスリート諮問委員会(Division 1 Student Athlete Advisory Committee)を中心として、既存の州制度をアップデートし、改正する運動をさまざまな州政府や州議会議員、各州規制機関、スポーツブック関係事業者等に対し、積極的なロビーイング活動を開始し始めている。
NCAAによるとNCAAが納得できる法体系の州はわずか1州のみで、その他は不完全ということになる。
不足している部分のモデル文案を提示することにより、少しでも各州の制度の内容がイーブンになるように図るという試みだ。
この目的は、賭博がもたらしうる害(Gambling Harm)が学生スポーツ選手に与える影響を縮減するとともに、学生スポーツ試合の競争の廉潔性を維持することにも繋がる。
アスリート、コーチ、公務員、大学関係者等をスポーツ関連のハラスメント、癒着、依存症等から守り、廉潔性を保持することを強化するということだ。
要望の要点は下記等になる。
✓ → 問題が生じたとき、生じそうなとき、明らかに問題となる行為を散見したとき、大学を含む関係当局、規制者・法執行当局に対する通報・報告ホットラインの設置を義務化すること(Mandatory reporting hotline)
✓ →スポーツ関係者に対するハラスメントを見つけ、特定化できるようスポーツブック運営事業者職員に対する教育を義務化し、実践すること(Mandatory education for operators to identify harassment)
✓ →スポーツベッテイング参加禁止者をより明確化し、特定化すること(Identification of prohibited bettors)
✓ →21歳以下の参加禁止(年齢制限措置を徹底すること)
✓ →スポーツブックの広告に関しては、問題が生じた場合のホットラインの存在、依存症対応、ハラスメントの禁止等の文言を入れること(Betting ad to include Hotline, problem gambling and prohibition of harassment)
✓ →スポーツブックの収益の一部をギャンブルがもたらす危害に対する教育支出に充当すること(Sport wagering profit to share a part of gambling harm education)
スポーツブック事業者の善意による行動を期待しても、必ずしもうまくいくとは限らず、業界としてのあるべき慣行のスタンダードもない以上、最低レベルの学生スポーツを保護する規定を各州が共通的に制度に盛り込むべきという主張になる。
尚、NCAAは2万人以上の参加大学アスリート学生、コーチ、行政官に対し、教育プログラムとして世界でも有数の賭博依存症関連防止のためのプログラムであるEPIC Risk Managementを実施している。
かつ1万3千以上の試合を世界最大の廉潔性モニタリングプログラムに参加し、常時スポーツブックの賭博行為をモニタリングを実施し、異常な賭け金行為やスポーツ試合の不正の有無等を監視しているとともに、18500人の大学スポーツ関係者をも毎年スクリーニングしている。
廉潔性が疑われる事案を防止し、かつ摘発するためのこのネットワークは州政府法執行機関、賭博規制機関、賭博関連事業者、キャンバスの事務官、特定のベンダー迄をも含んでいる。
学生アスリートの行動を様々な観点から監視・モニターし、おかしなことが起こらないような万全の体制を敷いているといってもよい。
これは逆に放置しておいた場合、やはりおかしなことが起こりかねないということを意味する。
大学スポーツ試合を市場にてスポーツブックの対象にさせるということは、それなりの覚悟と体制と監視の仕組みをも設けざるを得ないということだ。
(美原 融)