2024-06-17
265.スポーツブッキング 米国連邦スポーツブック物品税(Federal Excise Tax)
米国でスポーツブックの顧客賭け金(ハンドル)に課税される連邦物品税(Excise Tax)の元々の考えは、1950年代、賭博行為に犯罪組織マフィアが関与しているのではないかと考えられていた頃のマフィア封じ込め政策の産物でもある。
マフィアを締め出すために賭博の顧客賭け金額に対し10%の物品税を課し、申告・納税しない違法事業者を脱税容疑で検挙・摘発するツールに使おうとしたわけだ。
もっともネバダ州議員の反対もあり、合法的なネバダ州の過半の賭博種はこの対象外になることで制度化されたのだが、マフィアにとっての最大の収益源と考えられていたスポーツブックだけは残ったというのが実態になる。
違法スポーツブックはマフィア組織が全米各地で行っていた彼らの重要な資金源でもあり、これを根こそぎ摘発できる一つの手段でもあったわけで、今となっては前世紀の遺物みたいな税制になる。
税率は1951年の制度創出時点ではハンドルの10%、その後1974年には2%に削減され、1983年以降は再度0.25%に削減され、今日に至っている。
当然のことながら、これは税収を期待して設けられた連邦税制ではない
ところが2018年の連邦最高裁によるプロアマスポーツ保護法(PASPA法)棄却判断以降、全米のかなりの州でスポーツブック法制が構築・制定されるに至り、ほとんど忘れ去られていたこの連邦物品税が自動的に顧客賭け金に適用されるようになってしまった。
2023年には何と全米で総額$250MMの税収を徴収する規模にまで大きくなっている。
こうなるとは全く意図していなかったのだが、普通の州の当該スポーツブック関連税収をはるかに凌駕する税収規模になってしまったといっても過言ではない。
税率はハンドル(顧客総賭け金)の0.25%だが、GGR課税に換算すると決GGして低率ではなく、事業者の負担もかなり大きい。
米国で免許を得ている事業者はこの連邦税と別途州スポーツブック税(これはハンドルではなくGGRに対する課税)が課されることになる。
ところが、サイバー世界で違法に外国からスポーツブックを提供する海外事業者は、当然のことながらかかる連邦税や州税を支払っているわけでもなく、かつ、連邦政府も州政府も課税できる術は無い。
政府にとっては巨額の税収遺漏になると共に、まともな許諾を受けて運営している米国事業者にとっては競争上不利な状況に立たされているといってもよい。
業界団体である米国ゲーミング協会(AGA)を初め、全てのスポーツブック事業者は、そもそも何のために存在する連邦税なのか今ではその価値も無く、税目的も無い以上、このスポーツブック関連連邦物品税規定を廃止する主張を展開している。
ところが、一端できでしまっている税制をなくすというのは余程の政治力が無い限り難しいのはどの国でも同様である。
一方単なる廃止ではなく、この法律を残したまま、その税収を依存症対応策の連邦財源にすべきという新たな法案を議会に提出する動きが生じてきた。
2024年1月に連邦議会に下院議員二名が提出者として上程したGRIT法案(Gambling Addiction Recovery, Investment and Treatment Act, HR6982、賭博依存症回復、投資・治療法案)である。
この法案は民間の非営利団体である賭博依存症国家評議会(NCPG, National Council for Problem Gambling)の強力な支援と支持も得ている。
その内容は、このスポーツブック関連連邦物品税の税収の50%を賭博依存症に関わる連邦財源に振り当てるというものになる。
割り当て分の75%は既存の補助金付与プログラムであるSubstance Abuse Prevention Treatment Block Grant Programを通じて各州に無償援助(Grant)予算として依存症対応策や治療を支援するための補助金として配布し、残り25%は国の機関であるNational Institute of Drag Abuseに対し賭博依存症関連の調査予算として配布するという前提で、予算執行期間は10年間の時限とし、3年毎に担当大臣はこのプログラムの評価を議会に提出する義務があるというものだ。
法律としては一種の単純な予算割り当て法案になり、連邦税収の一部を特定予算支出のために割り当てる内容でもある。
スポーツブックから生まれる追加的税収である以上、これから生じうる社会的危害への対応施策として税収を使えばいいという考えであり、それなりの合理的根拠がある。
この法案は下院ではエネルギー商務委員会、上院では健康・教育・労働年金委員会にて審議される予定となっているのだが、今後審議予定、如何なる議論がなされるのか等に関しては未だ不明である。
米国ではスポーツブック法制は州単位の許諾法になるため、連邦政府として依存症対応のために何らかの制度や規制があったり、この目的のための何らかの安定的な財源があったりするわけではない。
勿論政策論としては存在しているが、国として財源を保持し、具体の支援を実践しているわけでもない。
また州を跨る活動を担う非営利組織(NPO)や対策のための民間団体等もあるが、民間の浄財や州政府の補助金等で運営されており、連邦政府の資金が入っているわけではない。
一方州政府の中には、許諾法の枠組みの中で、GGR税収の一部を賭博依存症対策に充当する規定を設けている州もあれば、GGR課税とは別にProblem Gambling Levyという形で依存症対応のための特別税を徴収している州もある。
米国ゲーミング協会(AGA)は業界団体としてこのGRIT法案に反対する意向を表明した。
依存症対応策に関する予算措置はそもそも州政府の判断で必要な財源確保ができているとして、これではリダンダントな制度措置になりうるという理屈である。
もっともAGA及びスポーツブック業界自体は、この連邦物品税(Excise Tax)自体が歴史的役割を終えた不要かつ過剰な連邦税制であるとして、この制度を残すことなく、破棄することを主張している。
確かにこの意味では連邦と州との間に整合性はなくなってしまう。
ここに問題の本質があるのかもしれない。
(美原 融)