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2024-05-20

261.スポーツブッキング 広告規制⑧米国事情

米国では企業の広告活動は基本的には個別企業が責任ある広告活動(Responsible advertising)を実践することが基本であり、法制度や規制の枠組みでこれを抑止したり、規制したりすることは適切ではないという考えが一般的だ。
この意味ではもともと制度的には、米国の広告規制は弱いか、そもそも存在しない。
広告やマーケッテイング活動はあくまでも個別企業が自らの倫理感、社会的責任に基づき判断して行うべきということなのであろう。
もっとも健康に明らかな危害をもたらしかねない煙草の広告を規制するという考えは消費者の強い意見が議会を動かし、連邦法としての規制法が成立したという事例はある(1965年に成立した煙草広告規制法~Cigarette Labelling & Advertising Act~2009年に成立した家族喫煙防止煙草管理法~Family Smoking Prevention and Tobacco Control Act~)。
賭博に関する広告も度を過ぎれば確実に未成年等の社会的弱者に危害を及ぼしかねないという側面もあるのだが、国が統一的な規制を設けるという考えは、現状存在しない。
広告やマーケッテイング活動は個別企業が自らの倫理感、社会的責任に基づき判断して行うべきということなのであろう。
広告をどう担うかは言論の自由の問題でもあり、またこれをどう受け取るかは、個人の選択の問題でもある。
過剰な広告が未成年等の社会的に脆弱な主体に悪影響を与えかねず、行き過ぎた広告は自粛させるべきとする意見とこれに反対する意見は、個人の自由を確保する考えと公共の福祉と安全をどう担保するかという考えのぶつかりあいなのかもしれない。
議論はあるのだが、米国最高裁は過去の判例では、広告規制は言論の自由という観点から否定的なポジションをとっている。

尚、現状迄スポーツブックの制度的導入を行った州は38州になるが、何らかの広告に対する緩い規制を設けた州は約1/3程度になる。
過半の州では先行したニュージャージー州(2023年4月の法改正で広告規制を導入)の事例に類似的で、①虚偽ないしは欺瞞的な高広告(False & deceptive advertising)の禁止、②広告に際し、賭博依存症対応ヘルプ電話番号の掲載義務、③未成年等の社会的弱者を対象とした広告、視聴者に多数の未成年が含まれる広告の禁止、④リスク無し、確実に儲かる等の誤解を生みやすい宣伝用語の禁止等になる。
マサチュセッツ州、イリノイ州、メイン州、コロラド州、バージニア州、コネチカット州(本年4月に法案を議会提出)等も程度の差はあれ、類似的な極めて緩い規制を設けている。
その他の州でも21歳以下が視聴しうるスポーツイベントの試合中のスポートベッテイング広告は禁止するという規定を設けた州もある(バーモント州2023年4月法改正)。
但し、規制としては豪州、欧州諸国等と比較すると極めて甘い。

より厳格な広告規制をという主張は主に、賭博依存症対応関連民間団体等からもなされており、この論争は米国内部においても、一部州では制度としての広告規制を導入すべきという議論に発展しつつある。
カンサス州議会は上院において2024年2月に超党派議案としてSB-432法案を上程した。
これはインターネットウエッブサイトにおいてスポーツブックの広告を全面的に禁止する法案になる。
法案としては既存の法律の一部を改正する内容(1ページの案文)になり、若年層に対する否定的インパクトへの対応、恒常的な広告へのエキスポジャーが社会的弱者にリスクのある行動を扇動しかねない事への対応が立法の目的になる。
具体の案文としては「プラットフォームに勘定を持つ個人が本人の意思によりアクセスする双方向的なプラットフォームの中で提供するコンテンツ以外のすべてのインターネットウエッブサイト、オンライン媒体、電子機器アプリケーションによるスポーツブッキング関連の広告を禁止する」とある。
個人の同意がある双方向的なプラットフォーム内での広告は認めるが、不特定多数の視聴者を対象とするネット及び電子媒体による広告は全て禁止という内容になり、かなり広範囲な禁止対象となっている。
果たしてこの法案が成立するか否かは現段階では不明だが、もし成立した場合には、他州において一つの前例として参照されることに繋がりうる。
但し、法の効果的な執行をどう担保するかについての課題は残っている。

尚米国でも連邦法として何らかの賭博広告規制の制度を作ろうという動きはあり、2023年2月民主党Tonko下院議員(NY)は広範囲なスポーツブック広告禁止法案(Betting on Our Future Act)を連邦議会に提出した。
連邦煙草広告規制法(Cigarette Labelling & Advertising Act)を模倣した法案で政策の実践を独立した政府機関である米国連邦通信委員会(FCC)の管轄下におき、FCCが管理するメデイア(TV,ラジオ、インターネット)における広告を全面的に規制する内容になる。
違反すると1934年Communication Actに対する違反行為となる。
勿論業界並びにAGA(米国ゲーミング協会)等のロビーイング団体はかかる広告規制には猛反対の姿勢でもあり、議会内部でも賛同を得られず、廃案になっている。
国レベルでの合意形成はやはり国民の危機意識や問題意識が向上しない限り前へ進まないのだが、米国はまだその段階にはない。
かつスポーツブックの許諾は州単位となるため、あくまで州政府が対処すべき問題で、連邦政府が直接この問題に関与すべきではないという連邦と州政府の権限所掌の問題としてこれをとらえる法律論も根強く、この意味でもハードルは高いといえる。
但し、米国ゲーミング協会(AGA)の委託調査によると2023年の業界によるスポーツブック関連広告総費用は11億㌦で前年比21%の減少となった。
5年前迄は僅か2290万㌦でしかなかったのだが、市場の拡大と共に急速に広告費用が拡大し、初めて減少したことになる。
広告に対する様々な社会的反発がもたらした結果であろうと考えられている。

(美原 融)

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