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2024-07-22

270.違法オンライン賭博 ネット時代の対応策③

我が国でもオンライン賭博等は当然違法行為であり、2020年以降警察庁・消費者庁は連名で「日本国内ではオンラインカジノに接続して賭博を行うことは犯罪です」というロゴ・ポスターを公表し、ネット等でこれを頻繁に目にするようになってきている。
啓蒙・啓発なのだろうが、効果があるのかは解らない。
警察庁発表によるとオンラインカジノに関わる賭博事犯は過去3年間で2020年16件(121人)、2021年16件(127人)、2022年中10件(59人)、2023年107人と殆ど無きに等しい数字でしかない。
摘発数が少ないのはネット上の違法行為の特徴で摘発と立件が難しいからだ。
これら公表された摘発の過半は固定施設に設置されたパソコンからネットに接続させて遊ばせるインカジと呼ばれる胴元とその顧客で、何らかの明確な端緒情報を把握できたり、別の犯罪捜査の過程で浮かび上がってきて違法賭博に繋がったりして、立件・逮捕に至ったという背景にあるものが殆どになる様だ。
そもそも賭博を提供するオンライン事業者も顧客からも協力等は得られない。
警察が各種捜査活動を駆使して証拠を収集することになるのだが、証拠等単純に集まるわけがない。
被害者のいないオンライン上の違法行為である以上、違法行為を立件すること自体が難しく、余程の事情が無い限り、表に情報が洩れる可能性も無い。
また端緒情報を警察が得て、捜査行為を通じ、証拠を把握し、例え立件できたところで、単純賭博罪容疑である場合には、略式起訴かあるいは不起訴になる可能性すらあり、こうなると立件価値がどれほどあるのかも疑わしい。
要は、個人がオンラインカジノに参加したところで、対処の手法が無いということになるわけで、積極的にとれる対策として、オンライン賭博は違法行為として、国民を啓蒙・啓発しているだけではないかと思えてくる。
本来かなりの数の日本人が違法オンライン賭博に参加し、巨額の賭け金が違法事業者に流れるとともに、不正・いかさまやマネーロンダリングの可能性等も噂されているのだが、正確な統計数値も無ければ、実態の解明もなされておらず、手をこまねいているだけなのかもしれない。

国会においてもオンライン賭博の違法性に関しては質問主意書や解答等は過去何回も行われているが、質問もあたりさわりのないもので、回答も「取り締まりを強化している」、「全国の都道府県警に適切な指示をしている」、「違法であることの啓蒙啓発に努めて参りたい」等お互いに「やっている感」を出しているだけに過ぎない様にも思える。
取り締まりを強化」といったところで、都道府県警察レベルでは、強化せよといわれても如何なる手段を取りうるか理解できないのではないだろうか。
2023年4月から5月にかけて衆議院消費者問題に関する特別委員会で複数回に亘リ、オンライン賭博の課題が国会にても議論されているが、政府答弁は当り障りのない禅問答に終始し、具体の対策をとっているのか否かは解らない。
5月25日には河野大臣がオンライン違法賭博に関し、関連省庁と調整し、下記対応の検討を要請したとの答弁があったがこれは正鵠を得た対応だ。
即ち、警察庁に対しては「取り締まりの強化、違法行為の周知徹底・対外的広報」、金融庁に対しては「金融機関との連携強化、(警察庁への)違法事業者の情報提供、警察庁との連携強化、情報提供あった場合の未登録事業者への警告」、総務省に対しては、「サイトブロッキングの検討、適用の適否と対応措置の検討」、経産省に対しては「違法事業者通報、警察庁との連携強化、クレジットカード関連国際ブランドを通じた連携強化、決済代行事業者への警告、取引停止勧告」、内閣官房に対しては「依存症対策への取り組み強化」等になる。
各省庁の考え方やアプローチが解り興味深いとともに、言っていることは極めてまともなのだが、霞が関的には検討するというのは何もしないことに等しい。
もっとも、その後、しっかりとしたフォローアップの動きがあるのか等の情報は現在に至るまで無い。

問題の根は、金融庁も総務省も経済産業省も一定の法律を所管し、金融決済業者やネット通信関連事業者、クレジットカード業界等の事業者を認可したり、規制したりしているが、違法事業者や違法事業者を自ら積極的に調査し、摘発する権限は無いことに尽きる。
これは警察庁の所管で、端緒情報なり違法事業者の情報を入手した場合には警察庁と連携・協力し、捜査や摘発は警察に委ねるという仕組みが現在の制度だ。
違法行為の明確な情報があれば当然警察庁に連絡したり、協力したりするのだろうが、そもそも認可行政の省庁には市場を常時監視し、違法行為を積極的に調査・摘発する権能も組織もない。
法的根拠もなければ義務もない。
例えば、金融庁は資金移動業を規制するが、登録や免許を受けていない合法的な決済代行事業者も存在し、彼らが違法行為をしたか否かを摘発・逮捕する権限は無く、これは警察の権限になる。
消費者庁は不当景品表示法に基づき、違法な賭博を宣伝する広告主体の違法・不法行為は調査し、警察庁に摘発・協力はするが、広告主体ではない同じ宣伝・広告を担っているブローカーやアフィリエート等は明らかに広告主体を幇助しているにも拘らず法律の対象外となる故、規制もできないとしている。
勿論警察庁が証拠を固められれば賭博幇助として摘発・立件することは可能だ。
総務省による違法賭博サイトのブロックやサイト閉鎖、経産省によるクレジットカード決済の禁止等も関連民間事業者に対する協力要請なら今の制度の枠内でもできるだろうが、強制権をもって行うには当然新たな法律の根拠が必要となるだろう。
2023年5月4日の上記衆議院の消費者問題に関する特別委員会で河野大臣は(問題の対応は)「ひとえに警察庁の覚悟と体制にかかっている」という発言をし、警察庁に責任をなすりつけたような発言をした。
警察組織を効率的・効果的に動かすには予算も組織も必要であるとともに、警察だけではなく他の規制官庁による積極的な対応・協力・連携が全ての前提になる。
ややこしい省庁連携・協力等はできる限り避けたいというのが官僚の本音だ。
彼らが動くようなMotivationを与える法制度を考える時期にきているのかもしれない。

(美原 融)

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