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2021-01-18

56.カジノのキャシュレス化は実現できるのか?

カジノは伝統的に現金を取り扱う日銭商売が基本だ。
現金をチップに交換し、チップを遊ぶ手段として用いるのだが、巨額の現金とチップとの交換が日々複数の場所でなされる業でもある。
顧客とキャッシャー(ケージ)、顧客とデイーラー、あるいは顧客とチケット払い戻し機械等の間で現金とチップやチケットの交換がなされることが通常のパターンになる。
人と人との接触が多いこと、金銭を通じた人間と人間との接触等も多い。
紙幣等は誰がどのように接触したのかは全くわからないわけで、COVID-19のような感染症が社会に生じた場合、リスク度という意味からは、現金との接触は好ましくない取引の典型になってしまう。
人と人との接触は少なければ少ない程よい、金銭も直接触るのは好ましくないということから、カジノの遊び自体からcash(現金)を取り除き、コンタクトレス、キャッシュレスにすればよいではないかということで、カジノのキャッシュレス化が一挙に注目を浴びるトレンドになりつつある。
先進諸国では生活に必要なあらゆる決済が小切手、クレジットカード、デビットカード、電子マネーでなされる習慣があるため、キャッシュレス化の流れは当然と思われている。
一方日本は先進国の中では唯一現金(キャッシュ)大国として知られている。
現金を財布と共に常に持ちあるき、現金で決済することが主流の日本は今や時代遅れでもあるのだ。

カジノにおけるキャッシュレス化とは、チップを無くし、電子化する、金銭のやり取りを無くし、全て何等かの手法で取引全体を電子化することを意味する。
様々な考えがありうるが、考えられる事例としてはチップの代わりに特定の非接触型顧客ロイヤルテイ―・カードに決済機能をもたせたり、スマホによる決済機能を活用したりすることで顧客サイドの利便性を考えると共に、これに答えられる遊びや機械・テーブルの仕組みを事業者サイドでも考え、実践すること等がある。
顧客サイドの電子化・キャッシュレス化と事業者サイドの電子化・キャッシュレス化を同時に開発し、実行することになる。
勿論キャッシュレス化は、一国の制度や規制によってもその許容度は異なる。
制度や規制は、昔のままの対応をベースに構築されており、電子化はこれを変えざるを得ない側面もはらんでいるといえる。

では我が国のIR整備法でキャッシュレス化は可能なのだろうか。
カジノ管理委員会による規則案の詳細が発表されてない状態でこの議論をすることには難しい側面もあるが、少なくとも整備法の法文に現れる表現はカジノにおけるキャッシュレス決済を明示的に認めているとは言い難い。
IR整備法第73条8項、10項は、顧客がチップを取得する支払い手段ないしはカジノ事業者が顧客とチップと交換できるものとして「現金または、元本の拠出があり、かつ容易に換価することができるものとしてカジノ管理委員会規則で定める払い手段」を規定している。
ではカジノ管理委員会が定めれば何でも可能なのかというと必ずしもそうではない。
①現金又は元本の拠出があること、②カジノ内部で自由に換金できること、③あくまでもチップの支払い手段に限ることという条件が付いている。
尚、居住者によるクレジットカード利用の決済はそもそも認められていない(一方「本邦内に住居有しない外国人である顧客」のみはクレジットカードの支払いを受けてチップの交付等ができるとされている。
IR背弥縫第73条9項)。
要は外部の資金ソースに非制限的に、自由にアクセスできる支払い手段は、賭博行為に起因する依存症を誘発しかねないから禁止という考えがこの裏にはある。
一定の要件を満たす電子的決済手段とは、事業者のカジノ施設内でのみ利用できる私的なロイヤルテイ―カードに一定の枠内の資金を予め拠出し、その範囲内で必要時にチップの購入のみにつかえるというものくらいしか思いつかない。
勿論これとて、制度・規則の範疇に入るか否かは検証が必要だ。
かつこれでは高額取引を前提としたVIP対応は難しい。
電子化とはチップにRFIDを入れるだけではだめで、利用する器具、ツール、機械を変えざるを得ない側面があると共に、全ての関係者の行動、仕組み、監視の在り方、規制、管理システムの在り方の根本を変えてしまう側面がある。
キャッシュレスとは単なるチップの電子化ではないのだ。
米国では様々なメーカーや電子関連ソフト事業者等が携帯電話や携帯できる端末器具・スマートカード等を用い、カジノ場内における全ての想定される決済を非接触行為で行うシステムや機材を既に開発している。
勿論これらが直ちに市場で受け入れられていないのは、規制当局の許容度とどこまで規制緩和ができるのかは、現時点では見えにくいと共に、事業者としても機材や器具・システムを全て入れ替え、内部管理手順を変えざるを得ず、かなりの投資と手間がかかるからでもある。

決済の電子化は時間の問題で必ず到来する。
一方その許容度は一国の国民の国民性でも異なるし、世代間でも異なりうる。
日本は中国・韓国等と比較すると恐ろしい程の現金社会で、現金への重視度は極めて高い社会になっている。
電子決済は若い世代間では常識だが、年長者・高齢者等はスマホ決済に対する躊躇は未だ高いのが現実だ。
恐らく時間の問題でこれは解決されることになるのだろう。
当面この感染症に対する明確な対処策が見えるまでは、フェースツーフェースの人間関係はできる限り避けるという衝動が生じていると共に、顧客の立場としては、利便性の向上、安全性、簡素化に対する要請は極めて強く、これらが規制や制度を将来的に変えていくことになるのだろう。
将来確実に変わることになるのだが、まだ時間がかかるということだ。

(美原 融)

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