2024-05-27
262.スポーツブッキング 米国過剰競争市場の行方①
Wynn Intra-activeは大手カジノ事業者であるWynn Resortの子会社でそのOn-Line Gaming部門になる。
Wynn BETはそのスポーツブック関連のブランドでもあり、この名前の子会社を通じ、様々な州においてスポーツブックを提供している。
過去、積極的に全米各地で事業を拡大してきたのだが、2023年8月に一部州からのオンラインによるスポーツブック、I Gaming事業の撤退、市場縮小化を発表し、大きな話題を提供した。
I Gamingに関しては将来的なその可能性を認めながらも、制度的には未熟な状況で、全米各地で認知されたわけでもないこと、スポーツブッキングに関しては、競争の激化に伴い、新規顧客を獲得するための膨大なマーケッテイング支出やプロモーションに関わる経費支出は、株主にとり、必ずしも適切な支出とはなっていないこと、より利益率の高い、良い投資機会が世界にはまだあり、こちらに企業としてのリソースを傾注すべきというのが撤退の理由だ。
これらに事業は、同社が企業としてのプレゼンスを保持する施設があるネバダ州、マサチュセッツ州では今後とも事業を継続する。
一方、アリゾナ州、コロラド州、インデイアナ州、ニュージャージー州、ルイジアナ州、テネシー州、バージニア州、西バージニア州からはできる限り早い時期に撤退するという。
顧客争奪のためのマーケッテイング支出が膨大な金額に達し、競争も激化し、果たしてこれが企業としての適切な資本の使い道といえるのかという疑問から、競争市場からの撤退を判断したものと思われる。
(2023年レベルでのWynn Bet上半期実績では、ハンドルは市場全体の0.47%の市場占有率、スポーツベッテイング収益としては市場全体の0.50%シェアということの模様で、市場占有率は大した数字ではない。)
尚、その後Wynn Intra-activeは2024年2月にマサチュセッツ州におけるスポーツブックを含むオンライン事業からの撤退を表明、但し、ボストンにある基幹店における対面施設としてのスポーツブック事業は継続するとした。
また同月にニューヨーク州における4スポーツベッテイングの4ライセンスを2500万㌦でPenn Entertainmentに売却(ブランドはESPN Betでニューヨーク州市場に参入)し、同時にミシガン州のI GamingビジネスをCaesars Entertainmentへ売却することを合意したことを発表した(譲渡金額は不明、顧客は全てCaesarsのプラットフォームへ移譲)。
この様に一端決断を下すと、米国企業の市場からの退出の動きはかなり早い。
オンラインによる事業は、特段固定施設があるわけでもなく、オンライン上のプラットフォームにてビジネスをしているだけである為、市場への参入にあまり時間と費用をとられないが、逆に市場からの撤退もあっという間にできてしまうという特徴がある。
Wynn Resortが当面の残留を決めた州とは、自らの巨艦施設がある州でもあり、この施設内で対面方式(リテール)のスポ-ツブックを提供している以上、これら州では当分の間事業は継続して提供するということだろう。
勿論状況次第では対面方式からの撤退もありうるのかもしれない。
一方、オンラインプラットフォームのみで競争市場に参入している州の事業は、市場占有率確保のために熾烈な競争に参加したところで割に合わないということの様だ。
この様に、新規市場(新たな制度構築をする州)におけるスポーツブック分野への企業の参入は、
- ① 固定客を確保するための激しいマーケッテイング・プロモーションのための支出が急増(Free BetやBonus)し、競争環境は厳しくなりつつある。
マーケッテイング費用は、課税前償却可能となる州もあるため、税金を払うよりは、プロモーションの支出を増やし、将来の顧客・収益を増やした方が企業としては中長期的に売り上げ・収益増に繋がるという戦略になる(この結果、金額次第では当初の1-2年は企業は利益を上げられなくなる)。
尚、プロモーション支出が課税の対象となる州でも競争上積極的なマーケッテイング施策は実施せざるを得ず、この場合には事業者にとり実効税率は上がってしまい、事業採算悪化につながりかねない(但し、州政府にとっては企業の負担により税収は増える)。 - ② よって巨額のマーケッテイング支出は短期的には企業としての株主配当の縮減、無駄な投資コストに繋がるわけで、生き残りのために必死なスポーツブック専業企業とそうでない企業の間には戦略上の祖語が生まれるのも当然となる。
- ③ 尚、ほかにも激しい競争の中でこの市場から撤退した企業も既に生じている(2022年2月Twin Spires、2022年10月Fubo Sportsbook、2022年11月Maxim Bet, 2023年7月Fox Bet等。
いずれも事業としてはペイしないという理由での市場退出である)。
2023年11月には大手欧州資本であるKindred Group(ブランド名はUnibet)が2024年第二四半期より北米市場からの撤退を決断し、公表した。
同社は、米国ではニュージャージー州、バージニア州、アリゾナ州、ワシントン州、カナダオンタリオ州で事業を展開していたのだが、段階的に市場からの撤退を図る模様だ。
撤退の理由は、企業の財務的なリソースをコアマーケット(欧州市場)に集中し、コアマーケットにて市場占有率を高める戦略を選択するということらしい。
(美原 融)