2024-07-15
269.違法オンライン賭博 ネット時代の対応策②
米国におけるオンラインで提供されるスポーツブックにとっての課題は、州内で許諾を受けた事業者とサイバー上に共存する形で海外から違法スポーツブックを提供する事業者が州内の住民に賭博サービスを提供していることにある。
許諾も受けておらず、規制の対象外、かつ税金も納めない主体がネット上に共存しているわけで、本来かかる事象が認められるべきではない。
一方州民は自由にこれらオンラインサイトにアクセスできるわけで一種のグレーゾーンとして合法事業者と違法事業者が混在する状態が継続してきたことが現実だ。
ところが2024年5月30日にミシガン州の規制機関であるミシガン州ゲーミング管理委員会(MGCB)は中米キュラソに本拠を置くオンラインスポーツブック事業者の大手企業であるBovada(サイトはBovada.com) の親会社・運営会社であるHarp Media BVに対し、業務活動停止命令(Cease and Desist Letter)を送付したことを公表した。
ミシガン州合法インターネットゲーミング法(Lawful Internet Gaming Act),ミシガン州ゲーミング管理歳入法(Michigan Gaming Control & Revenue Act)並びにミシガン州刑法( Michigan Penal Code)に違反し、違法なスポーツブック並びにオンラインカジノ等を州民に提供することを直ちに停止し、関連する業務を本書状受領後14日以内に停止すること、これに従わない場合には適切な法的措置(罰金、刑法上の犯罪としての摘発等の厳格な罰則)をとるとある。
さて「適切な法的措置をとる」等といっても、相手は外国にいる外国事業者だ。
州法の規定では外国に存在する事業者に適用できる手段はない。
いかなる手法をとろうとしているのであろうか。
法的にはミシガン州ゲーミング管理歳入法(MGCRA)は規制機関(MGCB)に対し、「広範囲のかつ独占的な権限」を付与しており、オンラインサイトを根絶できるあらゆる権限を保持していることは疑いない。
問題は如何なる現実的かつ効果的な手法をとれるのかだ。
Bovada社が州内に何らかのリエゾンとなる主体を有していたり、広告・宣伝・勧誘等に関するアフィリエートが州内にいたりすれば、これは違法行為の幇助として簡単に摘発できる。
同社幹部のリストを入手できれば、彼らが米国内の空港に立ち寄った段階で捕縛することも可能だ。
この他、州内のインターネットサービスプロバイダーに対しサイトブロック要請を出したり、クレジットカードや電子マネー等の決済事業者に対し、支払い停止要請等を独自の権限で実行したりするかもしれない。
規制機関がこれら関連主体に対し、違法行為に協力しないことを要請するだけで、おそらく一定の効果はある。
かつ特定できるこれら違法オンライン事業者のベンダー、協力企業等も同じ範疇に入る対象になる。
またこれに合わせて、Social Mediaの主催者や大手プラットフォーマーの協力が得られれば、Bovada社に関する広告・宣伝・勧誘等をブロックし、実質的に州民がかかるサイトに関する情報アクセスを遮断することもできないことはない。
勿論何もしなくとも州の規制機関の行為がもたらすアナウンスメント効果はある。
少なくとも州民は違法サイトとなるとアクセスをためらうとともに、海外事業者のサイトアクセスに関し、行動を自粛させる効果は十分あろう。
またBovada社の様な大手オンライン違法海外企業を狙い撃ちにすることで、他の海外違法オンラインサイトをも委縮させる効果もありうるという期待はもてる。
制度内で対応できるあらゆる法的解釈により、対象者を追い詰めていくという戦略なのだろう。
オフショアからのオンライン賭博を明示的に州法の中で禁止しているのは米国ではデラウエア州、ニュージャージー州、メリーランド州、ネバダ州、ニューヨーク州等だ。
これら州でも一方的に外国オンライン事業者を違法とする判断と措置をとっている。
もっとも州によって法の執行の在り方には差異があり、どこまで、何を、どう規制しているのか、効果的な法の執行ができているのかは不明だ。
特段の法の執行をしていない州もある。
違法事業者も禁止されている以上新たな顧客を取ることはやめたが、既存の顧客には継続してサービスを提供しているというサイトすらある。
表面的には存在しなくてもサイバー空間に存在し、顧客がアクセスすればネットにアクセスできてしまうため、余程のしっかりとした仕組みを構築しない限り、法のループホールができやすいと共に、実質的に締め出すことは難しいのが現実だ。
但し、米国の一部州ではミシガン州の様に規制上の法の執行をより厳格にするという方向性にある。
2024年6月に今度はコネチカット州規制機関(Sport Betting Division of Dept of Consumer Protection)がミシガン州と全く同様にBovada社に狙いを定め、同社に対し州内における業務活動停止命令(Cease and Desist Letter)を送付したことを公表した。
規制当局は、これは第一段階に過ぎないとして本格的な法の執行を行うことを既に公言している。
今後如何なる法の執行と摘発がなされるかはやはり市場の注目を集めそうだ。
州境を超える制度的な課題は本来連邦政府がこれを取り上げ、全米共通の規範を設けることが筋なのだろう。
制度としてこれができない状況が続く限り、州レベルで州政府がイニシアチブを取り、州民を守り、違法行為を摘発し、税収の遺漏を防止する様々な措置を取りうることが起こりつつある。
確かに今の米国の連邦制の仕組みにおいては、州政府が断固とした方針を取り、州政府レベルでSNS主催者や巨大プラットフォーム事業者に圧力をかければ、市場は動かざるを得なくなる可能性が高い。
果たしてこれが正しい方向といえるのかには懸念もあるが、ミシガン州やコネチカット州の今後の行動はパラダイムを変えることに繋がるかもしれない。
(美原 融)