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2024-06-03

263.スポーツブッキング 米国過剰競争市場の行方②

米国におけるスポーツブック事業は、2020年以降急速に発展してきた産業になり、大小様々な企業がこの新たな市場に参入することになった。
州毎の制度創出が基本となったため、州により新たな制度が作られるたびに州毎に熾烈な競争が展開するという結果をもたらした。
事業者の総数やプラットフォーム、スキンの上限数を法定する州も多く、まず州政府に認知されなければ参入もへったくれもない。
このためのロビーイングや広告宣伝・認知活動等が制度制定と並行して行われる。
認知され、免許を経ても今度は一定の市場内において市場のシェアをどう高めるかという顧客争奪競争が顧客を対象に始まってしまう。
人口の多い州は市場規模も当然大きくなるため、競争はかなり激しくなる。
ネットのプラットフォームをベースとするビジネスの世界では参入障壁は小さく、固定費を少なくしながら、市場に参入することが可能だ。
但し、各事業者が提供するオッズやサービス内容には大きな差異があることは少なく、如何に固定顧客を最初の時点で多くつかめることができるかが、競争上の焦点になっている。
このためには巨額のマーケッテイング費用、広告・宣伝、顧客に対する派手なプロモーションを実施せざるを得なくなる。
顧客の目につく派手なプロモーションを打てば打つ程、顧客によるアクセスの可能性が増えるからである。
3年弱に亘る市場の展開により、市場は大きく成長し、事業者間の優劣や市場占有率の状況も略見えてくるような状況が生じている。
事業者の規模、市場占有率、基本戦略等により、米国における事業者はいくつかのTiers(層、グループ)に分類できるということが認識されつつある。

即ち、

  • ✓ → Tier 1企業:この業界の大手となるDraft King, FanDuelの2社になる。
    いずれもDaily Fantasy Sportの分野のベンチャーとして企業し、10年間で大きく成長。
    この実績と顧客ベースを武器に、スポーツブックで先行企業として一挙に発展し、巨大化した企業になる。
    両社の全米における市場占有率は6~8割に達し、この分野での代表的な企業となっている。
    「とにかく如何なる犠牲を払っても市場占有率を高める」という戦略で、いずれの企業も巨額のプロモーションを支出し、当初の数年は赤字続きでFanDuelは2023年度になり、初めて通期での黒字を達成している。
    GGR課税のため、州政府にとり、売り上げさえあれば課税収入は入り、事業者が赤字か黒字かは関係ないことになる。
  • ✓ → Tier 2企業:Bet MGM, Barstool/Penn National Gaming, Bally’s等上位グループ5社の地位を占める。
    内Bet MGMは欧州最大手Entain社とのJVであり、極めて挑戦的な戦略で占有率を高めるための市場攻勢をかけており、状況次第ではTier1企業に入りうるといわれている。
    いずれも大手カジノ企業を親会社とする別事業部門となるが、カジノ部門からはかなり独立した運営がなされている。
  • ✓ → Tier 3企業:既存の陸上カジノ施設を保持し、既存施設のパートナーとの連携協力により市場参入を果たした企業群で、Caesars, Golden Nugget, Resorts, Hard Rock, Rush Street等になる。
    既存のカジノとの相乗効果をより重視する戦略をとっており、広告プロモーションに巨額の資力を割く余裕はない企業群ともいえる。
    純然たるスポーツブック企業とはいえないが、既存のカジノの実績等により新規市場では良いポジションにつきうる。
  • ✓ → Tier 4企業:オーストラリアや欧州諸国を中心とした新規参入企業になり、PointsBet, Kindred, Bet365, PlayUp等になる(内Kindredは既に北米国市場からの撤退を決定)。
    米国での認知度は相対的に低く、これら企業が今後如何なる戦略で市場を攻略していくのかの戦略はよく見えない。
    またこれら企業は海外でI Gamingをも提供しており、米国市場の今後の展開次第で積極的に動くこともありうる。
  • ✓ → Tier 5企業:部族カジノや地域に根差した陸上設置型カジノ施設事業者等になり、地域では名が通っていてもそれ以外ではブランドとして地位を得ているわけでは無い企業になる。
    基本的にはこれら企業は既存の陸上施設との相乗効果を狙っており、スポーツブックのみをとってみると他のTiers企業には劣後する。

この様に、事業の規模、背景となるビジネスインタレストが異なる多様な企業がこの業に参加し、熾烈な競争を市場にて展開している。
ややこしいことに、上記以外にもその他外国から全く税負担の無い違法なブラックマーケット企業も当然サイバー空間に存在しており、この競争に参加している。

そもそも州毎に市場が分断された米国のような市場では、人口が多いポテンシアルの高い州とそうでもない州に市場は分かれてしまう。
これでは全ての州で激しいマーケッテイング競争をすることは割に合わないと判断する企業もいる。
今までは全ての州で、同じレベルの努力をしてきたが、しがらみもあり、拠点とする固定施設もあり、市場全体としての確固とした重要性がある州以外は撤退するという選択肢も企業にとってはあるのかもしれない。
スポーツブック自体は本来薄利多売のビジネスが基本になり、ある程度市場占有率を高めないとあまりペイしないのが実態だ。
市場はまだ成長過程にあるが、参加する事業者の数は減少するか、淘汰されるか、あるいはM&A等により今後少なくなる可能性もありうる。
ある程度の市場規模と市場シェアを維持しない限り、ペイするに至らないのが実態となりつつある。

(美原 融)

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