National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 264.スポーツブッキング 米国スポーツブッキング法制の課題

2024-06-10

264.スポーツブッキング 米国スポーツブッキング法制の課題

米国ではプロアマスポーツ保護法(PASPA法)が連邦最高裁により破棄された時点以降は、各州が各州の判断でスポーツブッキングを認めるか否か、どう規制するかを決められることになった。
他の賭博種と同様に、連邦政府にこれを規制する権限は無いとして、各州の判断に委ねたわけである。
この結果、現時点迄に38の州、特別州でスポーツブッキングの許諾と施行を規定する法律が州毎に成立している。
但し、制度の内容はバラバラで国としての整合性は無く、各州が各々勝手に独自の理論で制度構築をしたということになる。
賭け事としてのスポーツブックは州内に居住・滞在している成人のみという前提で成立するのだが、スポーツ試合は必ずしも自州ではなく他州、あるいは外国でも行われ、これらも賭け事の対象になる。
この意味では全米各地から州毎に存在するオペレーターが市場を限定して、州単位でスポーツブックを運営しているわけだ。
一方カジノ施設内のスポーツブックスタンドのように固定施設として顧客に提供する場合もあるが、今や顧客の過半はスマフォを用い、モバイルで提供されるスポーツブックを楽しむことが主流になりつつある。
モバイルは州境国境も無いわけで、一国を単一市場とできるはずなのに、州際間の取引は連邦法で禁止されているため、極めて非合理な形でスポーツブックが提供されている。
これにチャレンジしているのがオフショアから提供される(米国の州から見れば)非合法スポーツブックの存在である。
州毎の制度は州民がネットを通じ海外から提供されるスポーツブックに参加したとして、これを違法として州民の行動を規制する法制度は連邦にも州にも存在しない。
州政府から見れば規制の対象外、税金も払わず、全くの違法状態でありながら、サイバー空間で他国から提供されるスポーツブックを禁止行為ではありながら、これを摘発し、罰する(Enforceできる)制度的枠組みが存在しないのだ。
AGA(米国ゲーミング協会)によれば、この違法オフショアスポ-ツブックの市場規模は米国内の規制市場の倍ほどの規模を有し、税収遺漏、マネーロンダリングも不正行為も摘発できず全くの無法状態になってしまっているという。

伝統的な賭博行為とは、限られた場所、閉鎖的な空間の中で限定的に行われる行為であったため、賭博制度とは全てこの前提で構築されている。
一方、インターネットやモバイルスマフォ等をツールとして用い提供される賭博行為とは、地理的、時間的、空間的制約が一切無いサイバー世界から提供される行為でもあり、旧態依然とした制度とは反対の極にある考え方であるといってよいのかもしれない。
米国のスポーツブッキングの実態は、モバイル, 試合中(In-Play)という慣行が主流になっているが、現在の州単位での制度や規制では対処できない側面や矛盾する側面があまりにも多すぎるのだ。
即ち、スポーツに対する不正、いかさま行為やマネーロンダリングの防止、違法海外オンラインサイトの国民への浸透への対応・違法行為の摘発、オンラインによる過度の賭博行為の是正、スポーツリーグや団体組織とスポーツブッキング事業者との適切かつ秩序ある関係等は州単位ではなく国としての共通の枠組みやガイドラインに基づき行動しないと効果が薄いのだ。
かつ法執行の制約となっている連邦法を改定し、既存の州政府による自主的な制度的枠組みを尊重しつつも、連邦司法省や法執行当局により強い権限を与え、州境をまたがる違法行為に関し、効果的な法の執行を担わせるためには何らかの国(連邦政府)としての制度的枠組みが必要になる。

果たして、バラバラな州毎の制度に関する国としての共通的課題を抽出し、州政府の独自性を担保し、国としての制度が本当にできるのかに関しては、連邦議会でも様々な試みや法案(2019年ハッチーシューマー法案)などが提出されているが、いまだ実現の見込みはない。
但し、提示された法案を吟味する限り、逆に現状何が欠けているのか理解できる側面も多い。
ハッチシューマー法案は連邦検事総長に権限を与え、スポーツブッキングを制度としてオプトインする州政府に対しState Sport Wagering Programの申請、その認証を義務づけているが、一種の遵守されるべき標準をガイドラインとして示し、各州政府による独自の制度が一定の規範の下に調整されることを義務付けている。
また連邦政府諸機関、州政府による法執行の権限を強化し、NPO法人としてのNational Sport Wagering Clearing Houseを連邦検事総長の指名で構成し、この法人がスポーツブッキング運営者からリアルタイムで全ての賭け行為のデータを収集し、データ・パターン・趨勢を分析し、関係者と協力し、不正行為摘防止・摘発の任を担う。
かつNational Exclusion Listを作成、維持し、不適切な主体、排除申告主体等の国としてのデーターベースを維持し、事業者がこれに常にアクセスできるようにする。
要は民レベルでバラバラであった不正行為のモニタリングや不適格者リスト等を全国一律で単一主体が担うという考えになる。
このClearing Houseには賭博行為に伴う連邦物品税(Excise Tax)から年上限300万㌦の無償援助が運営資金として与えられ、かつ健康保険省にも依存対策対応のための一定枠の予算付与が考慮されている。
尚マネーロンダリングに関しては、スポーツブッキング運営事業者はカジノと同じく疑似金融業者と規定され、カジノと同様に連邦政府機関であるFinCenが直接コントロールすることが前提となる。

何らかの連邦政府としての統一的なガイドライン的なものが必要とする考えはPASPA法廃棄以降、連邦議会議員の意見として継続して存在する。
未だもって実現に至らないのは、現実の動きが早く、市場があまりにも急速にバラバラに展開したため、何をもって国の標準とするかの考えが纏めきれなかったためであろう。
それに利害関係者の関係はあまりにも複雑すぎる。
果たして一刀両断にこれを連邦法で整理するという考え自体が米国民に受け入れられるか否かは懸念も多い。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top