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2024-06-24

266.スポーツブッキング 米国Props Bet規制の動き

Props BetとはProposition Betting(提案ベット)の略語で、単純なチームによる試合の勝ち負けや最終的な勝ち点数等ではなく、賭博の対象となるスポーツ試合中に、試合の最終的な結果(即ち勝ち、負け等)に直接的な影響を与えない一定の事象が起こるか、起こらないかを賭け事の対象として胴元が提案する賭けである。
例えば、試合中の特定選手個人のパーフォーマンスを賭けの対象としたりする事例が解りやすい。
大谷選手が次のイニングでホームランを打つか、否か等だ。
あるいは特定投手によるストライクやボールの数、どちらのチームが最初に得点を挙げるか、アメフトの場合、試合中におけるタッチダウンの回数等もその対象になる。
要はなんでも賭けの対象にできる。
一般的には試合中の展開や選手のパーフォーマンスに関わる賭けが多いこと、複雑な判断を必要としない極めて単純な賭けであることが通例である。
それがために熱中する試合においては、試合中のProps Betはスマフォで簡単に賭けができることから、米国人の人気は極めて高い。

試合の最終結果に関係がないこのProps Betは、不正やいかさまの対象になりやすいという特徴もある。
選手個人による作為・不作為により、賭けの結果を変えることになっても、それが偶然の結果なのか、意図的な行為なのかが解り難いからだ。
この様な違法行為をスポットフィクシング(Spot-fixing)という。
選手が特定のイベントの結果を予め定められた結果がでるようにしてしまうわけである。
試合の結果を変えてしまうMatch Fixingや特定のチームに有利になるように図るPoint Shavingは複数の選手や関係者が関与しなければうまくいかないケースが通例だ。
これと比較するとSpot-fixingは確かに露見しにくい。
他の選手や関係者を巻き込むことなく一人の選手の行動で違法行為が成立しうるからだ。
このSpot Fixingは、選手本人が不正な賭け行動をするか、外部の不正者に情報を流し、彼らが賭けることになるが、常識的にはあり得ない可能性に高額の賭けをすることになり、これが起因となり、異常な賭け金行動として露見することが多い。
賭け金市場は複数の専門モニター会社が常時チェックしており、不審な行動は今や必ず露見し、大きな問題になる。
最近起きた事例ではNBAトロント・ラプターのバックアップセンターPorter選手のSpot Fixing疑惑で、同選手のパーフォーマンスが2024年1月26日、3月20日の二回に亘り、自身の健康状態を第三者に開示、これを情報として別の第三者がParlay Popsで8万㌦をオンラインで賭けたため、異常な賭け行為として、スポーツブック事業者とモニタリング会社の通報により賭け取引が凍結され、NBAの不正調査対象となった事案だ。
もしこの不正が実現したとすれば当日のNBA試合の最大勝ち金額(110万㌦)になりえたといわれている。
その後Porter選手はこの情報遺漏だけではなく、自らのチーム試合にも賭けていたことが露見し、4月にはNBAから永久追放処分となった。

試合中のProps Betは試合の最中に賭け行為が提案されることになり、如何なる賭け行為が提案されているかを選手は必ずしも知る立場にはない。
但し、今やSNSやスマフォ等様々な手段により選手が外部の者から何らかの手段で情報を得て、自らのパーフォーマンスを意図的に悪くするということはできない話ではない。
選手個人のパーフォーマンスが賭けの対象になることで生じた更なる問題は、選手個人に対するハラスメント(いやがらせ)である。
賭けに負けた、パーフォーマンスが悪い等と特定選手に対し、SNS等の手法により当該選手に対し、露骨なハラスメントをする行為になる。
これはプロの世界でも、大学アマチュアスポーツの世界でも頻繁にみられるようになり、大きな問題となりつつある。
これに対し、スポーツの廉潔性保持と選手に対するハラスメントを根絶するために、かかる行為を増長しかねないProps Betは規制すべきという声がNCAA(全米大学体育協会)より生じてきた。
大学スポーツ試合においても廉潔性に対する脅威になりうるという判断があるとともに、選手に対するハラスメント事例(なぜ勝てないのか、なぜ負けたのか等賭けに参加した顧客からの特定選手に対する嫌がらせ)が頻発するようになってきているという。
NCAAベーカー理事長は本年3月に法的なスポーツブックの施行を認めている全ての州で個別の選手を対象とするProps Betを禁止する法的措置を取ることを正式に要請し始めた。
これには本年当初のNCAA関連アマスポーツ選手の不祥事等も関係している。

既にメリーランド州、オハイオ州(3月以降)、バーモント州(3月以降)、ノースカロライナ州(4月以降),ルイジアナ州(4月に制度改定)では禁止措置が制度化されている。
また、2024年4月にはニュージャージー州でもCorrado上院議員が大学のスポーツ試合における選手を特定したProps Betを禁止する法案を提出し、賛同を集めつつある。
アリゾニア州、マサチュセッツ州、ニューヨーク州も禁止となる趨勢だ。
ミネソタ州等その他の5州では、スポーツベッテイングを認める法制を準備中だが、Props Betという賭けの手法自体を認めない方向性にある。
大学スポーツ試合で何らの規制をも設けていないのはワシントンDC,カンサス州、ワイオミング州、ミシガン州等の少数派でしかない。
その他の州は何らかの形で規制がなされている。
規制の手法には①提案できるProp Betのタイプを制限する(例えば自州の学生スポーツの試合は禁止対象とする)場合と、②全ての大学スポーツ試合においてProps Betを禁止する、あるいは大学スポーツ・プロスポーツを問わず禁止する場合等がある。
2023年の全米での集計数字によると、もし、Props Betを全米で禁止することになった場合、年間2億㌦の売り上げ減になるという。
単純にすべての州で全てのProps Betを禁止するということにはならないだろうが、一部の賭け行為は禁止対象になると共に、大学スポーツ試合の分野では禁止の対象とする州が過半となりうると想定されている。

(美原 融)

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