National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-09-29

30.IR:なぜ政治的論争が続く?

新たな政策や立法議論が政府や与党から提起される場合、国会で論戦がおこり、野党は反対に回ることが多い。
もっともこれは法律が成立するまでの話で、一端法律が成立してしまうと、喧々諤々の議論もまるで歌舞伎の芝居であったように、終息してしまうことが通例だ。
政府は淡々と成立した法の施行を担うことになり、単純な形でこれを覆すことはできなくなる。
勿論、後刻野党が選挙により支配政党になり、政権交代が生じれば、既存の法律を修正ないしは破棄する法律案を通すことができる。
確かにこれは可能だが実態は不可能に近い。
単純でないのは、法に基づき実際の利害関係者が動いてしまった後で国会による否定的な法律が成立してしまうと、当該利害関係者から国に対する損害賠償請求が生じかねないからである。
一端走り出した仕組みを途中でやめることは、相当の費用と負担を覚悟せざるを得なくなる。

ところがIR整備法の場合、法律が成立し、法の施行がなされつつあるのに、野党による強硬な反対論は終わりそうにない。
終わるどころか、恰好の政府追求対象として、IRを政府との対立軸に据え、様々な具体的行動を起こしている。
IR法廃止法案を国会に上程したり(2020年1月)、国会での継続的質問をしたり(2020年通常国会1~2月審議、8月閉会中内閣委員会審査)、問題を意図的に煽ったり(2020年9月立憲民主党党首による横浜市IR現地視察、IRを対政府対立軸にするという弁明)、地域社会における反対運動を後押し(2019年から20年にかけての横浜市の市民運動)したりしている。
なぜ継続的に、かつ執拗に問題視するのであろうか。
下記背景・理由等がある。

  • そもそも新たな賭博種を認める制度は賛否が分かれる政策論になる。
    政治信条とは関係なく、与党内部にも倫理観を理由に反対する人はいるわけで、(絶対的多数を構成できるわけではないが)賛意や共感を得られやすい特徴がある。
    常に反対する人が一定数いる施策は党派の立場を超えて、幅広い共感を得やすく、対立軸を構成しやすいわけだ。
  • 数が絞られた特定の場所に、特定の民間主体が独占的に業を担うというIRの構図は、利権を構成し、政治家や行政と民間との間で腐敗・汚職を起こしかねない誘因があるとする一般的な印象がある。
    野党やマスコミからすれば、事実はどうあれ、かかる政策は権力に対する格好の批判材料になる。
    国民から見れば忌避すべき対象になり、秋元議員事案のように、現職の国会議員がIRに絡んで賄賂を受け取ったり、証人買収を試みたりすることになれば、それみたことかと感情的なIR反対論が活気づく。
    煽って問題にすればするほど、世間の注目を浴びることになる。
    話題にすれば賛意を示す国民も多く、確実に耳目を集める。
    民意が忌避すべき対象、感情的に反発する対象となる場合、共感を得ることができ、これを最大限利用することが政治的な戦略になる。
    反対が通るか否か等は関係無いのだ。
    反対することに意義があり、政府に対し、強硬に対峙することこそがその目的になる。
    ダメもとと解かりながら、政府と敵対する姿勢を示すこと、やってる感を世間に示すこと自体が野党の政治目的になる。
    政治的にはこれが結果的に票に繋がる可能性も高い。
  • コロナ禍による観光産業の一時的停滞、インバウンド顧客の激減、政府観光政策自体の立往生等の環境の変化は、IR不要論に拍車をかける。
    こんなものを推進するより、しっかりコロナ対策をやれという主張に繋がるわけで、コロナ対策が完璧にうまくいっているとは思えない状況を鑑みると、その是非は横におき、国民の賛同を得やすい主張になるということを意味する。
    推進を図ろうとすると、やめるべきとする議論が起きる。
    政策の緊急度、重要性からすれば、中長期的な施策や緊急性が無い施策は劣後するということになる。
  • 反対論が常に継続する要因は制度の仕組み自体にも内在する。
    IRの場合、実際の法の施行に関与するのは地方自治体と民間事業者になり、国は区域認定とカジノの管理監督のみを担う。
    国の立ち位置は極めて間接的になる。
    国会での問題提起は話題にはなるが、実態は空中議論に終始することは目に見えている。
    一方、地域社会、地方公共団体レベルで反対の声が生じた場合、地域社会で多数派を構成すれば、IRの実現は確かに制度的には阻止することが可能な仕組みとなっている。
    地域社会や地方議会における地域合意形成手続きが制度的には埋め込まれており、区域認定申請またその定期的な更新には議会の同意が必要とされる。
    もし選挙で首長、議会の構成員の過半数を反対派が占める状況になったとすれば、IRの仕組みの前提を壊すことができる。
    議会で更新が拒否されれば、更新申請はできず、IR区域認定は失効に繋がり、カジノ免許も当然失効し、IR区域はなくなり、カジノ施設も営業ができなくなる。
    地域社会の合意形成が崩れれば、制度的に立ちいかなくなる仕組みが内在している(本来的に案件の安定性・継続性よりも、地域社会の合意形成により重点を置いた制度的仕組みになる)。
    合意形成が崩れるような案件ならば、潰してしかるべしという発想だ。
    かかる事情により、立法過程では国会だが、制度の施行過程では地方公共団体・地域社会が反対の場になり、多数派を構成できれば、全てをストップできるという仕組みは反対の声がでやすい性格を醸成していることになる。

上記は不断の合意形成への努力がIRの実現とその維持には必要となる事を示唆している。
議論はこれからも続くのであろう。

(美原 融)

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