National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-10-06

31.キャッシュレス・カジノ

コロナが終息した後のカジノにおいて果たして社会的距離(Social Distance)が守られるか否かは微妙だ。
もしこれを実践しようとすると、今までの施設レイアウトを根本的に変えざるを得ず、売り上げ減を確実にもたらしかねないからである。
当面の危機対応施策としては適切だが、これが永続的に固定化すれば、施設の事業性もなくなるリスクは高い。
こういう施策は長続きしないものだ。
一方、このコロナ騒動を契機に、今までも萌芽はあったが、今後加速しそうなトレンドもある。
カジノのキャッシュレス化である。
これにはレストランやショップと同様に、顧客が現金やチップを手で触り、やりとりすることをできれば忌避したい、現金はできれば持ち歩きたくないという衝動がでてきたからだ。
顧客から見ればこれは当たり前の考えで、現代社会では、クレジットカードやデビットカード、様々な電子マネー、スマホを使った決済等多様な支払手段が日常的に利用されている。
現金を持ち歩かない、あるいは現金決済を避けるというこの動きは、様々な社会活動において今後飛躍的に拡大する。
もっとも日本は先進諸外国と比較すると、まだまだ巨大な現金社会で、現金以外の支払い手段はまだ多様化されていない。
日常の支出に現金を用いず、小切手、クレジットカード、電子マネーで全て決済するという状況にはない。
スマホ決済や電子マネー、デビットカード等の利用はようやく、少額取引に関しては発展しつつあるという状況であろう。

カジノでの遊びの決済にも、同様に現金以外の決済手法がもっと沢山あっていいという事情が、顧客側にもまた事業者側にも生まれてきたのがコロナ騒動の一つの帰結になる。
勿論、如何なる決済手段をどう使うか、使えるか等は制度的制約要因や規制当局による考え方や認証の必要性等もあり、必ずしも全てが可能になるというわけではない。
一方、米国等では規制当局が積極的にその導入を認めたりする州が生じつつある(例:ニュージャージー州)。
現状では、未だに一部の州、一部の施設でしかないし、規制当局の判断にもよるが例えば、デビットカード・クレジットカード、あるいはアップルペイ、グーグルペイ、ペイパル等のスマホ決済等による支払い・チップ交換が試行的になされているという状況にある。

現金以外の非接触型決済手段の導入は、顧客にとり、①現金以外の支払い手段という選択肢を増やし、顧客の利便性を高めること、②公衆衛生上の顧客の関心やよりレベルが高まった顧客要求への適切な対応になること等のメリットを生む。
但し、電子的支払いによる安心・安全性をしっかり確保し、不正等が絶対生じえないという信頼性の提供等、顧客の不安を払拭できることが前提になってくる。
勿論これは事業者にとってみれば、電子機械、テーブル、チップ等の機械・器具を変え、顧客ローヤリテイ―カード等の仕組みやシステムをも変えると共に、ケージや実際のゲーム進行の慣行全てを組みなおせざるを得ないことを意味し、既存の事業者にとっては、とてつもない投資額となるため、おそらく段階的・部分的にしか実現できそうもない。
かつ全てが規制機関の認証の対象になる。
もっともこれから制度を作り、新たな事業者が投資をするような場合には、制度を含めてゼロからかかる仕組みを前提にしようとすればその実現の可能性はかなり高くなる。

一方、これが規制当局にもたらす課題は、当該国の制度にもよるが、様々な考え方やアプローチ、あるいは異論がある。
例えば下記諸問題等が挙げられる。

  1. カジノに係る制度や規制・監視の基本はあくまでも現金決済、ゲームにおけるチップの使用、機械ゲームにおけるTITO(Ticket-in Ticket-out)の利用等の慣行に基づいており、電子マネーを含む、電子決済手段の許諾は、規制と実務慣行双方をかなり変える必要性がある。
  2. 事業者毎に手段の採用や実務慣行が異なることも問題となるため、規制や手法はある程度業界統一的に環境を整える必要性もある。
    規制当局への高額取引報告等の煩雑な手続きは逆に電子化すれば、簡素化でき、トレーサビリテイも高まるというメリットもある。
  3. 規制をどうするか、不正行為や違反者をどう摘発できるか、法の執行をどうするか等の工夫が必要になる。
  4. 手持ちの現金内で遊ぶという上限がなくなる場合、効果的な依存症防止対策を別途考慮する必要があるか否か。
    利用上限設定を任意と、個人の責任でするか、規制でこれを決めるか、あるいは予め現金を電子的に預託させ、その枠内で電子マネーの利用を認めさせることにするか等何等かの対応を迫られる可能性もある。

尚、わが国のIR整備法だが、全てのゲームの決済・進行は現金を前提とし、現金と交換される物理的なチップ等が基本の制度となっている。
国会での質疑にもあったが、電子マネーを使うことは全く想定していない(最初から先端技術を用い、複雑な規制を実践することはハードルがあまりにも高すぎるからである)。
一方顧客ローヤリテイ・カードに一部決済機能をもたせ、一定の預託金の枠内で、顧客の利便性を向上させる仕組み等を想定している民間事業者もいる模様だ。
単純な白黒ではなく、別の観点から決済の一部電子化を志向する動きもあるということになる。
将来的には遊びとしての賭け事も、技術の発展に伴い、その全てないしは一部が確実にデジタル化・電子化するのだろう。
一方、デジタル化は、カジノにおける顧客の取引記録・行動記録を正確に把握できる仕組みを提供することに繋がり、場合によっては個人情報保護の問題が生じうると共に、逆にこの特性を利用し、顧客の依存症性向の判断に用い、顧客の消費行動を抑制するツールとすることもできる。
何を何処までやるべきかには政策的にも様々な選択肢があることになる。
制度も規制も、固定的なものとは考えず、法が本来志向した目的と理念を維持しつつ、社会経済の変化に応じて、柔軟に変えていくことも必要だろう。

(美原 融)

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