2021-11-29
134.区域整備計画:政令要件と現実とのギャップはどうする?
IRの政令要件とはIR政令に規定された中核施設やカジノ施設の規模、在り方に関する政令上の要件のことである。
これを充足することがIRの要求水準として規定され、もしこの要件が充足していないことが国の審査過程で明確になった場合には、その時点で国は当該区域整備計画提案を審査対象とはしないこと、即ち当該提案は欠格とすることが規定されている。
これは政令上の施設要件が足切り基準になっていることを意味し、この要件を満たさない限り、前へ進めないということになってしまう。
通常の開発案件ならば、このような要件は例えあったとしても民間事業者にとり、常識的に許容できるレベルのものに留めることが通例である。
さもなければ公募に付しても、誰も関心を示さず、提案がでてこないという結果になってしまう。
一方最初から市場の実態等を度外視し、過剰とも思える施設要件を公募の要件として公的主体が提示する案件もある。
IRはその典型的事例かもしれない。
IRとは、刑法上の特例措置としてのカジノ賭博の施行を、民設民営を前提に認めるという制度的枠組みになる。
本来違法行為となる賭博行為の正当性を確保する前提として、相応の公益性を民間事業者に求めるという制度の立て付けが構成されている。
これがため、売り上げに対し納付金(税という範疇ではないがその機能は公租公課で民間事業者から見れば税に近い)を賦課すると共に、潤沢なるカジノ収益をもって、一定規模の公益的施設を必置施設として整備することが政令上の要件となった。
中核施設と呼称される会議場(1号施設)、展示場(2号施設)、魅力増進施設(3号施設)、送客施設(4号施設)、宿泊施設(5号施設)が必置施設になる。
この内、会議場、展示場、宿泊施設に関しては、定量的な施設規模が政令により定められている。
IR整備法制定時の時代的環境とは、訪日外国人数が2400万人に達し、右肩上がりで増えていた時期でもあり、国の政策としてのMICE振興が主張されていた時期でもあった。
カジノが潤沢な収益を民間事業者にもたらすとするならば、わが国には未だ存在しない大規模なスケールとクワリテイ―を持つMICE施設を中核施設として定義し、その設置義務をカジノ事業者に課せば良いとするのが当時の国土交通省の考え方になる。
MICE施設はイベントや内容次第では、数千人から数万人、会期が長ければ数万人、数十万人単位の集客すら可能にする。
但し、大規模MICE施設はどこでも成功するというものではなく、有利な地点(大都市近郊、アクセスの良さ、近隣に国際飛行場の存在)と共に、企画・運営能力の経験・強さ(イベント・会議誘致等のマーケテイング力)があることが成功の鍵になる。
当然、地点や事業者次第では、市場性、事業性等を考慮し、その地域にふさわしいMICE施設の最適規模があるべきなのだが、かかる事情は一切考慮されていない。
僅か3ケ所以内ということから、地域の事情は考慮せず、できる都道府県等のみがチャレンジすればいいということなのだろう。
この結果、大規模施設を許容できる大きな需要が見込まれる大都市にとっては合理的だが、地方観光都市に設置されうるIRにとっては、政令上の要件と想定需要を踏まえた施設の最適規模とに大きなギャップが生じているのが現実となってしまっている。
コロナ禍により4~5年先の需要や将来の市場性に不安感がある状況では、民間事業者の投資意欲もどうしても抑制的になってしまう。
市場に不安定さが残る場合、過剰投資を避け、確実に事業性を確保できる施設規模・内容に縮減することが好ましいのだが、これでは政令要件を満たしていないということで国の審査では失格になってしまう公算が高い。
かかる状況は、強気の需要予測、強気の収入予想を誘発すると共に、この前提を下に過剰な投資を誘発しやすい。
経済実態を無視して、国の要件をクリアーし、とにもかくにも認定を受けることが唯一の目的になってしまうからである。
事業者選定後は、都道府県等も同じ立場になることは明らかで、現実とのギャップには目をつむり、事業者が確約している以上、何ら問題はないし、当初の提案通り、IRは実現するという主張をすることになるのだろう。
もしかかる状況下で、都道府県等が区域整備計画案を申請したとすれば、国がその認定を単純に拒否することはまず難しくなる。
しっかりと検討した上での需要予測、収支予測に基づき事業計画が構成されていると主張された場合、それを検証し、反論する余地も能力もないことが国のスタンスの実態だろう(前提が正しいか否かという議論になり、単純な立証ができにくいという事情もある)。
事業計画の実行性の評価や判断は、意見が分かれる部分でもあるが、一方的に否定的なスタンスを国が取ることはまずないのではないかと考える。
都道府県等が実現できそうもない提案を国に対しするわけがないという前提がここにはあり、施設の実現と運営に極めて高いハードルを設定している以上、それなりの自信と覚悟が無い限り、申請するまでには至らないと考えていることになる。
ギャップを解決できない儘、IRの実現が進むことになる場合、巨大なハコを作ったが、効果的な集客や期待された事業収益を確保できないという状況が生じうる。
カジノの収益があれば費用は補填できるし、何ら問題はないと考えているとしたら、これはIRの政策目的を正しく理解していないことになる。
(美原 融)