2021-11-22
133.民間事業者提案の選定判断基準?
公的主体が公共工事に参加する事業者の資格を審査する場合、公共工事入札参加資格制度に基づき、建設業者の工事履行能力等を評価し、あらかじめランク付けした上で登録することで当該資格を有する者のみを競争入札に参加させる仕組みを採用している。
工事の種類、規模、難易度により対応できる経験・能力のある事業者を事前登録させているわけで、これにより入札の際、応札する潜在的事業者が予め選別されているため、能力評価を個別に行う必要はなく、不良不適格業者を排除できる。
仕様が決まっており、事業者にその実現を委ねる公共工事等の場合は、かかる仕組みは効果的だ。
一方、単純工事や調達では無く、仕様を民間提案に委ねる複雑な案件、PFI等の事業案件、民間事業提案等の場合には、公募手続きの中に資格審査という手順を設け、提案を受ける前に、当該事業者の定款、財務報告書等を含む事業活動や、事業を担う体制、過去の類似経験等に係る情報を提出させ、提案者たる「資格」(経験、資力、能力、資質)を保持するか否かを審査することが通例となる。
もっとも提案提出前の資格審査は外形的・形式要件に徹した審査でしかすぎないことが多く、この段階で失格になることは稀である。
上場企業であったり、一定の事業規模、経験等があったりする企業であれば、形式要件を満たすことは単純だからだ。
少額、リスクも無く、単純な案件ならこれでも何ら問題は生じない。
一方、巨額の資金を必要とする複雑でリスクの高い案件はそうはいかない。
提案される内容を確実に実現できるか否かは、外形的な要件のみでは判断することができないためである。
これは公的主体から見た場合、事業者の提案がどれほど信頼できるのか、確実に実行可能な提案なのか、当該事業者は確実に提案を実現する意思と能力があるかに関し、若干の不安を残しつつ、提案公募の手順を踏むことを意味する。
IRの事業者選定に関しても、情報提供要請(RFI)や資格審査(PQ)等の手順を踏み、情報交換や情報提供等により潜在的候補の資質や経験を把握し、問題無いと評価判断し、その資質を認めた上で提案公募という手順となる。
ややこしいのは、これに加え、提案審査と平行する形で、提案者の廉潔性審査を実施した所が多かったことにある。
この廉潔性審査はIRに特徴的な審査の一つなのだが、事業者が廉潔であるか否かの評価は当該事業者の能力、経験、資力等とは全く関係ない。
また何をもって廉潔と言えるのかに関しては、判断基準も曖昧で、意見が分かれることも多い。
結局、都道府県等レベルではしっかりとした審査はできず、あくまでもコンサルタントを通じた公開情報をベースとした表面的な審査でしかなかった模様である。
これは運用の在り方次第では、後刻問題が生じかねない懸念を内包する。
本来、しっかりとした信頼おける事業者が合理的に実行可能と想定される内容の事業提案をすれば、この事業者を選定することで問題は解決する。
問題は、事業者の能力・経験・資質・意思と事業のリスクの大きさや複雑さがうまくマッチせず、提案を実現できず、案件を途中で放棄せざるを得ない状態になったり、確約した提案事業の内容と実現したものの内容とが大きく乖離したりするリスクがあることだ。
では公募上如何なる判断基準を設けて、事業者の能力、資質を見極めることになるのか。
これは下記等になる。
- 清廉潔癖な主体であること(廉潔性の確認は本来カジノ管理委員会がカジノ免許申請に際し、国として審査すべきもののはずだが、これは認定後の話になり、まず初めに都道府県等が独自に提案事業者の廉潔性を審査・判断せざるを得ない仕組みになっている。
但し、都道府県等の能力では限界があり、公開情報等外見的な審査に終始してしまい、主観的な判断になりがちやすいという欠点がある。) - 同種の開発行為、開発規模の類似案件につき実績、経験があること(極めて単純、解りやすく、効果的な判断基準になる。
大規模開発の実績や経験がない場合、案件の実行力や実現力はかなり疑問視せざるを得なくなる。) - 財務的健全性、安定性、安全性がある主体であること、出資金を確実に調達できる主体であること(大規模開発事業の場合、相応の出資金を拠出できる資力、かつ様々なリスク事象を乗り越えられる財政的資質・健全性が出資親会社に求められる。
上場企業等透明性の高い企業はそれなりの安心感がある。
一方、非上場企業の場合は過去の実績をみたり、財務状況を精査したりしない限りこの判断はできにくい。) - 融資金を考慮する場合、関連する融資主体の支援参加確約等確実に資金を調達できるという確約があること(融資金融機関がしっかりとしたDue diligenceを実施し、融資を確約するということは、事業の内容が確実にかつ合理的に固まっていると推論できる。
大きな与信リスクを抱える場合、融資金融機関は非合理的な行動を取ることはなく、極めて信頼度の高い判断基準になる。) - 真面目かつ実効性がある提案であることを保証する入札保証金や提案・契約内容の履行保証の供出等金銭的な保証があること(親会社や金融機関等による履行保証の差し入れは金額、条件にもよるが、事業者提案の信頼度を一定程度保証する効果がある。)
上記は残念ながら、完璧に客観的な判断基準等というものは無いことを示唆している。
実務上は形式的・外見的要件で判断せざるを得ないというだ。
勿論事業者が提出する資料や情報が詳細かつ明確である場合には、合理的に実現できうるという推論が成立しうる。
一方情報が曖昧であったり、明確さが無かったりする場合には、未だ内容が固まっていないのか、あるいは事業のストラクチャーに関し、開示できない根本的な問題があるのではないかと疑わざるを得ない。
しっかりとした事業者が、しっかりとした提案をして、かつこれを実現するしっかりとした手順を着実に踏むことで、案件が確実に実現できると合理的に推論できる。
不十分な情報開示で現状を糊塗するようなことがもしありえたとすれば、どこかで事業が頓挫する可能性は高い。
(美原 融)