National Council on Gaming Legislation
コラム

2021-01-20

57.PEPsとは?

PEPsとはPolitically Exposed Personnelの略称で重要な公的地位・役職についている人物、かかる個人に極めて関係が深い個人等を総称する。
関連する地位・役職を利用したり、その影響力を行使したりして、賄賂や汚職・腐敗に絡みうる潜在的リスクが高い人物ということになる。
必ずしも厳格な定義があるわけでもなく、一部の制度的な枠組み(例えばFATFによるマネーロンダリングに係る勧告)には用いられているが、必ずしも汎用的に用いられているわけではない。
その対象も国外であったり、国内外を含むケースもあったり、あるいは、国会議員、政府要人、地方政府議員、地方政府要人等立法府・行政府に限定する場合もあれば、よりこれを広くとらえ、立法府関係者、政府・行政府関係者等をも含むこともある。
国や地域により対象や判断が異なるのだが、共通しているのは、金銭を取り扱う業、許認可・利権等立法府・行政府と複雑な利害関係を保持する業では、PEPsはリスクが高い潜在的顧客と見なし、特別の注意を払うことを制度や規則あるいは組織の内規で取り決めることにある。

カジノ施設もその例外ではない。
マネーロンダリングに係るFATF勧告は、腐敗行為防止の観点から、PEPsの定義を拡大し、外国人PEPsだけでなく国内PEPs等に関しても、金融機関等による厳格な顧客管理を求めることが提言されている。
カジノも疑似金融業である限り、同様の対応を求められることになると想定されるのだが、その在り方はまだ明らかにされてるわけではない。

一般論としてカジノ施設の様に、不適切な主体が顧客として参加することが社会的に好ましくない施設の場合、顧客の入場や参加を防ぐ手段が制度や規制で採用されることになる。
これには、①入場自体を禁止すること、②入場を認めてもカジノ行為自体を禁止すること、③カジノ行為をすること自体は禁止しないが、当該人物の行動を慎重に監視すること等複層的なレベルの措置が採用される。
この内IR整備法では①、②の規定はあるが(第59条入場禁止対象者、第174条カジノ行為の制限者)、③に係る規定は特段存在しない。
この内②の行為制限者だが、上は総理・関連大臣・省庁・国の規制機関の構成員・職員から始まり、認定都道府県等の職員、カジノ事業者の従業者等と幅広い。
管理する立場にある者が不正や癒着、賄賂等の違法行為に染まらないようにするためには、カジノ行為をさせなければいいという考えになる。
笑ってしまうのは総理や所轄大臣等が含まれていることで、一端制度や規制の仕組みができてしまえば、彼らが職務権限を行使できるシチュエーションはカジノ行為という場面では限りなく無く、カジノをしようがしまいがどうでもよいのだ。
癒着、腐敗、汚職のリスクが高いのは、実際の規制者・監督者とその関係者になり、日本のIRの場合には、カジノ管理委員会とその職員、関連する認定当局としての国土交通省関連部署職員、関係都道府県等の管理職・職員、関係都道府県・市町村等の議員、かつ過去これらの職位に従事し、旧組織に一定の影響力を行使できる者等になる。
区域認定を決める迄は確かに政治家による関与は否定できないが、これも実質的には請託や権限行使をすることは難しい仕組みとなっている。

もっとも入場禁止や、カジノ行為の禁止は、未成年や犯罪組織構成員、依存症患者等には効果があるが、それ以外の主体にはあまり関係ない。
このカジノ行為制限者とはカジノ行為ができないだけであって、職務でカジノ施設の中に入ることはできるだろうし、カジノ事業者との接触が禁止されているわけではない。
直接的な接触ルールを内部的に決めた所で、その主体の範囲は(基本方針案を見ると)必ずしも完璧ではなさそうだし、間接的にアプローチしようと思えばいくらでもできる。

一方PEPとはカジノ行為が禁止されているわけではないが、腐敗、汚職に係るリスクが高く、過剰の便宜供与やサービスができない人物になる。
顧客として対応する際、組織としての要注意人物となると思えば解かりやすい。
諸外国の類似施設で行われているPEPに係る内部的な慣行とは、①PEPの対象をかなり広く把握する、②事業者自身が内外の公表・非公共データー・ベースから、PEPの対象となりうる個人をできる限り幅広く、特定化し、自らのデーター・ベースを保持し、これを常にアップデートしておく。
③潜在的顧客を特定した場合、PEPに該当するか否かのDue diligenceを実行する。
必要な場合にはその他のチャンネル、情報データー・ベースを活用し、PEPに該当するか否かを判断する。
④PEPと断定された場合、全ての取引がモニター・記録され、一定の行為等(例えば金銭貸付行為、コンプ供与、会食接待等)に関しては、一定の内規により一定の制限がかかることがある。
IR整備法の中には、このPEPという考えは見当たらないのだが、FATF勧告がある以上、カジノ管理委員会の規則あるいは、カジノ事業者に課される内部業務規程の中でPEPの考え方が取り入られるのではないかと思われる。

本当に必要な(入場や行為の)禁止対象者・行為制限者は実は限られる。
あるべき施策とは禁止対象者や行為制限者をやたらと増やすことではなく、できる限り広くPEPの対象となりうる主体、即ち、危険がある主体を幅広く捉え、これら主体との関係を組織として常に管理・監督することにある。
例え彼らがカジノ場の顧客となった場合でも、彼らが通常のリクリエ―ショナル・ギャンブラーであるならば、問題は起こらないし、殆ど関係ないのだ。
彼らがカジノに深くコミットしたり、何らかの不適切かつ緊密な関係をカジノ事業者の内部職員と保持したりすることが、本当の意味でのリスクになる。
勿論これは潜在的リスクであって、かかるリスクが生じないように監視監督することがカジノ業に従事する職員の規範として求められることになる。

(美原 融)

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