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2024-02-19

248.スポーツブッキング 顧客誘引施策と規制⑤Credit Card Blanket Ban

賭博行為というのは本来手持ちの現金で遊ぶものであって、お金もないのに金を借りてみたり、家族や他人にたかる、あるいは後払いとなるクレジットで遊んだりする等ということは本来好ましくない行為になる。
かかる行為が依存症に至る症状に繋がることも間々ある。
クレジットというのは与信をもらい、消費し、後から代金を支払うという行為になり、賭博事業者にとってもリスクの大きい行為になる。
顧客が勝てばよいが、負けた場合、損失を後刻支払うというのは誰でも嫌なもので、顧客によっては未払いのリスクが大きくなるからだ。
よって賭博事業者が与信を顧客に与えるという行為は例外的で、余程信用力のある富裕層等に限るのが通例である。
もっとも米国はこの例外で、顧客が要請した場合、顧客の銀行残高や他の融資状況情報開示等を条件に審査の上、顧客がクレジットを取得できる慣行が根付いている。
顧客がクレジットカードによりチップの購入や賭け金を支払う場合には、クレジットカード会社が顧客に一定の枠内で与信をしていることになり、賭博事業者から見ればリスクはない。
但し、顧客にとってみれば、将来支払うことを前提に遊んでいるわけで、必ずしも好ましい行為であるとも思えない。
使いやすさ、利便性等から、今現金が手元になくても、賭博行為を誘引してしまうという側面があるからだ。
個人が自由に引き出せるATMを財布の中に持っているという状況に近い。
こうなると予想以上の支出をしてしまうということは間々ありうる。
かかる事情から、賭博行為への安易な誘引施策を規制するという目的で、賭博施設内部や賭博行為において、クレジットカードによる決済を禁止する国や地域も多い(日本のカジノ施設内部でも当然禁止行為になる)。
対面施設である場合、事業者がクレジットカード決済を拒否すればいいだけの話で単純だが、これがオンラン賭博やスポーツブックの場合になるとかなり複雑になる。
決済の主流がクレジットカードやデビットカードあるいはPayPalの様な電子マネー等になってしまうからだ。
但し、この利便性の良さが、後払いを前提についつい遊んでしまい、依存症を引き起こしやすい環境を醸し出していることは間違いない。

英国では2018~2019年にかけて規制機関(UKGC、英国賭博委員会)と監督官庁(DCMS、デジタル・文化・メデイア・スポーツ省)がこれを問題視し、2019年8月に12週間の意見公募を経て、2020年4月14日より、オンライン、オフライン共にカジノやスポーツブック等の全ての賭博行為決済にクレジットカードを利用することを全面的に禁止している(これはクレジットカードを利用し、電子財布(Digital Wallet)にまず資金をクレジットし、ここから賭博行為に支出する等の行為も含む)。
例外はロッテリーくじの販売で、これは少額、リスクも大きくないということの様だ。
オンラインによるクレジットカードの全面禁止は顧客の決済手段の重要な手法を奪うことに繋がり、かなりのインパクトをもたらすことになる。
但し、その他の手法や法のループホールによる決済手段も今後出てくる可能性もあり、有効な法の執行ができるか否かに関しては今後の検証が必要だ。

豪州でも2021年連邦Interactive Gambling Actにより対面陸上施設(ホテルやバー、クラブ、カジノ、競馬場等)における賭博行為のクレジットカードによる決済は禁止されている。
一方オンラインに関しては何らの規制も無く、2021年の議会超党派委員会による報告・推奨に基づき、政府は2023年9月13日にInteractive Gambling Amendment(credit & other measures)bill 2023法案を議会に上程し、11月に下院で可決、12月6日に上院でも可決され、成立している。
この内容はスポーツブックを含むオンライン賭博事業者があらゆる賭け金の決済に関し、クレジットカード、クレジットカードにリンクした支払い(電子財布を含む)ないしはデジタル通貨(仮想通貨を含む)で支払いを受けることを全面的に禁止することを規定する内容になる(英国と類似的にロッテリーくじとKenoは適用対象外となっている)。
違反事業者に対しては厳格な罰金刑(AU$234,70米ドル換算するとUS$150,467)が課せられ、この規定を執行するために規制機関であるACMAに追加的な執行権限を付与している。
尚、法律は施行迄に6ケ月の移行期間を設け周知徹底を図ると共に、事業者に対し、他の手法への転換を促している。
この内容は英国と同様実質的なクレジットカード利用の全面禁止措置(Total Blanket Ban)に近い。

クレジットカード全面禁止規制の目的は、あくまでも弱者保護、賭博依存症対策の一環でもあり、手持ちの資金が無い状況で国民が安易に賭博に手を染めてしまわないようにクレジットによる決済を禁止するという方針に基づく施策になる。
勿論かかる考えは全ての国や地域で支持されているわけではなく、何を何処まで対象とし、どうこれを規制し、かつ法の執行をどう担うか等の課題も多い。
現代社会では決済の手法は技術の発展と共に多様化しており、クレジットカードのみを禁止しても、現実には様々な法的ループホールはありうるからだ。
では我が国の状況はどうであろうか。
確かに将来できうる対面カジノ施設では禁止となっている。
但し、その他の公営競技等の馬券、舟券、車券、あるいは公営富くじとしての宝くじ、Toto等の全ての販売はオンラインによるクレジットカード決済が認められており、これがこれら公営競技、公営とみくじの売り上げ増に寄与しているという事実がある。
これら決済の主流はクレジットカードや銀行口座とリンクしたオンラインでの直接的な引き落とし等になる。
確かに、この手法は売り上げを増やすとはいえ、国民に安易に賭博を提供させる手段を制度的に認め、潜在的賭博依存症患者を増やしているという指摘もありうる。
現状大きな反対の声がない為、問題にもなっていないのだが、他国の現実を見ると、これは我が国だけの事情かもしれないという現実を認識すべきなのかもしれない。

(美原 融)

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