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2024-04-09

256.米ドジャース・大谷選手・水原元通訳違法スポーツブック賭博疑惑(3)カリフォルニア州賭博事情

「違法賭博」、「全米で盛んなスポーツブック」、「でもカリフォルニア州では違法」、「違法でも州民はスポーツブックをやっている?」等大谷選手・水原元通訳の疑惑が報道されてから、スポーツブック関連の報道やカリフォルニア州の事情に関する報道に満ち溢れている。
日本人にとっては極めて不案内な分野で、かつ解り難い事情もあるため、正しくない報道も多い。
以下整理してみよう。

カリフォルニア州では他州と比較し、賭博行為がより厳格に規制されているということはない。
カードルームと呼ばれる小規模な(顧客同士が賭け合う)賭博施設は歴史的に認められており66施設もあり、原住民部族が運営する部族カジノは何と61施設もあり、他州と比較にならない程多い。
競馬やロッテリーくじも合法で、違法として存在しないのは所謂商業的カジノ施設とスポーツブック、オンラインカジノ程度位のものだ。
もっとも部族カジノ施設と商業的カジノ施設に機能的な差異等無く、カジノ施設は有り余る程州内のあちこちに存在すると考えた方がよい。
この内、スポーツブックやオンラインカジノは違法なのだが、サイバー空間から外国の事業者が違法に提供しており、これを規制する効果的な法執行の枠組みが無いため、実質的には野放しで、ほぼシームレスで住民はこれら違法賭博に参加できる。
恐らく参加者はこれが違法という意識はあまり持たないだろう。
因みに1961年連邦有線法という前世紀の遺物となる法律により州境を跨るオンライン賭博は禁止されるため、他州の合法スポーツブック事業者はカリフォルニア州内の居住者にオンラインでのスポーツブックを提供できない仕組みになっている(Geolocation機能を用い、IPアドレスでブロックするわけだ)。
水原元通訳が関与したのは上記の枠外にいる違法ブックメーカーで賭け行為の情報を秘匿したい富裕層、著名人、スポーツ選手等の関係者に焦点を絞り、賭け金無制限、元手無しの信用取引、負け金は後払い、情報が一切ばれない様にSNS等でオッズの提示や取引をするというどう見ても裏に犯罪組織が見え隠れする詐欺師まがいの相手に違いない。
何にどう賭け、負け金をどう決済していたのかは捜査が進展すれば時間の問題で解るだろう。
但し、かなりやばい相手で通常の人はこんな危険な相手には関らないし、単純にスポーツ賭博にのめりこむだけならば、例え違法でも他に合理的な手法がある。
この様にカリフォルニア州では、賭博をしようと思えば、合法、違法を問わず、様々な可能性があり、参加することはいとも簡単という事情にある。
但し、水原元通訳が関与した相手と手法はまともな市民が関与するスポーツブックとは全く異なるものであることを理解する必要がある。

カリフォルニア州を含め、米国の連邦・州の賭博制度は合法と違法の間を揺れ動いてきた歴史があり、極めて解り難い。
かつプロによるスポーツ試合が組織化されるようになると、スポーツ試合への賭けは、合法であろうが違法であろうが国民の圧倒的な人気度を高め、全米に広まったという経緯がある。
熱中するスポーツ試合への賭け事はスポーツを更に熱くするのだ。
これにマフィアが注目し、闇賭博や八百長試合の主役となったのが1960 年代だが、プロ選手による八百長試合はアンチギャンブルの風潮を高めたと共に、連邦政府によるマフィア封じ込めの様々な制度や規制も制定され、スポーツブックはネバダ州等一部の州では合法、他州では違法闇行為が横行という時代が続いた。
殆どの州では原則スポーツブックは違法であったのだが、闇事業者も多く存在し、これを連邦法でより厳格に規制しようとする政治的な運動が生じ、この結果成立したのが1992年プロアマスポーツ保護法(PASPA法)で、プロアマを問わず、スポーツ試合を対象とする賭け事を禁止する連邦法になる。
もっとも違法なスポーツブック市場はこの後も一部存続し、これで無くなったわけではない。
更には、そもそも賭博行為を禁止する権限は連邦政府にはないとこれを不服とする州政府による連邦訴訟が生じ、2019年連邦最高裁はPASPA法を米国憲法違反とし、棄却、以後各々の州政府の判断で州憲法を改正、新たな制度構築によりスポーツブックが全米に広まったというのが実態だ。
現在迄38州+ワシントンDCで制度化され、法制化途上にある州も多い。

カリフォルニア州では115年前の全米を覆ったアンチ賭博時代にできた法律により、スポーツ試合を賭け事の対象としたり、これを提供したり、参加したりすることも犯罪という状況が長らく続いてきた。
2020年以降、他州の動きをも考慮し、ようやく既存の制度を改正し、スポーツブックを法制化しようとする二つの運動が生じている。
既存の民間オンラインスポーツブック事業者の運動(免許を得る民間事業者に対面・オンラインでの提供を認める案)と州内の原住民部族の運動(原住民部族に対してのみオンラインでの提供を認める案)である。
双方が自分だけにと利権を取り合う構図になったわけだが、双方のグループが前代未聞の巨額の政治ロビー費用を使ったことでも全米の注目を浴びた。
もっとも州共和党は両案いずれにも反対の意思を示し、州民主党は中立だが、対面は認めてもオンラインは反対という有様(即ち、両党とも実質的に反対)で議会の支持は得られず、知事も賛成しなかった。
2022年11月に州民投票に至ったのだが、似たような案が二つ提案されると、いずれも否決されやすいのがカリフォルニア州の過去の特徴で、案の上、州民は両案とも否決した。
政治的サポートは得られず、あまりにも過激なロビー活動に州民が辟易したという背景もあるようだが、既に州内に賭博行為は十分存在し、これ以上必要ないということなのであろう。
あるいは実質的にオンライン違法スポーツブックにアクセスできる以上、新たな制度構築の必要性につき州民は無関心を示したということなのかもしれない。
以後、再度住民投票をという動きも州内にはあるが活発ではない。
但し、どう考えてもカリフォルニア州は人口も多く全米最大の賭博市場となる可能性のある州だ。
数年後には再度住民投票により制度改定という声が起こってくるのであろう。

(美原 融)

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