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2024-03-25

253.スポーツブッキング 広告規制④過剰広告規制

スポーツブッキング業界は熾烈な競争環境の中にある。
新たな制度により新たな市場が創設される場合、初期段階で顧客を囲い込み、自社の顧客にして単純に抜けられないインセンテイブを与えれば、市場のシェアを伸ばし、競争に打ち勝つことができる。
このため、新たな市場では特段の規制が無い限り、あらゆる手法を用いた宣伝・広告・プロモーションが怒涛の如くあふれることになる。
TV、新聞、ビルボード、ネット上の広告、SNSやFacebook/X(Twitter)等のSocial Mediaで有名人や著名アスリートを起用し、派手なプロモーションを実施する。
一端口座を設け、資金を預託し、一定の条件を満たし、サインアップすればボーナス$1000!という形で、顧客を誘引するあらゆるインセンテイブを設け、とにかく顧客を囲いこむわけだ。
もっとも細かい文字の条件書をよくよく読むと(誰もこんなものは見ないのだが)、単純に賭け金をただでもらえるということではなく、ローリング要請事項(Rolling Requirement)なる項目があり、資金を預託し、一定条件を満たし、ボーナスを取得しても、一定程度の回数や金額を賭け続けなければ、ボーナス相当分あるいはこれを用いて得た勝ち金は現金化できないと書いてある。
こうなるとそのサイトに張り付いて何とか勝ち金を現金化しようということでのめりこんでしまうことになり、実質的に固定客になるという結果になる。

面白いのは米国における広告宣伝に関わるスポーツブック事業者と媒体や広告代理店等との実際のビジネスの在り方だ。
スポーツブック事業者が単純に広告費を媒体や代理店に支払う手法ではなく、これら媒体企業と将来の利益と費用・リスクを分担しあう契約とすることで当面の支出は不要とするB2Bの慣行ができあがっていた(勿論事業の結果としての顧客数、顧客賭け金額、事業者収入等を変数として、利益分担率は変わる仕組みである)。
これはスポーツブッキング事業者にとり、当面の支出行為は無い形で怒涛のような大量の広告を打てることを意味する。
一方媒体企業からすれば宣伝行為により直接収益を得るわけではなく、契約的に事業が成功した場合、事業がもたらす収益と費用、リスクを分担しあうという契約関係だ。
これは媒体企業から見ると直近の巨額の広告料は期待できず、リスクもあるが、将来永続的に巨額収益の一部を懐に入れられることを意味し、スポーツブック業の将来的な発展を考える場合、決して悪いデイールではない。
もっともこの契約の内容では媒体事業者がスポーツブッキングのリスクを担う出資者と同等になってしまうため、規制の観点からは果たしていかがなものかという懸念が生じることは間違いない(勿論金額によっても異なるし、規制当局による免許取得の対象になるかならないかという問題でしかない。
尚、日本のカジノ法制でいえば、かかる仕組みは不可能ではないが、単純にカジノの出資者扱いになってしまい、契約は許認可の対象となり、かつ広告代理店が背面調査の対象者になってしまうというおかしなことになりかねない)。

米国マサチュセッツ州ではかかる慣行が既に市場に存在していることを重視し、立法過程においてスポーツブック事業者が第三者との利益分担方式によるマーケッテイング企業(媒体企業等が対象になる)との契約を禁止する規定をスポーツブック許諾関連法規にて規定した。
野放図な広告宣伝活動がなされる場合、州民の賭博行為や射幸心を煽りかねないリスクが高まるため、規制(禁止)の対象にするというわけである。
尚、市場における競争が激化するのは、それだけ市場の規模と潜在的魅力と可能性が大きいからだ。
かかる市場で市場占有率をより高く確保できれば、確実に収益幅は大きくなる。
ところがオンライン事業が始まる前に行われた州規制当局とスポーツブッキング事業者・媒体関連事業者との意見交換会では、事業者側より、広告規制に対する強い懸念と過剰な規制行為は業自体を委縮しかねない、そもそもこの契約行為に基づき、媒体企業は広告に関わる直接的金銭報酬はないことを強く主張。
結局規制当局との交渉の結果、妥協により、当面の間(期限は2023年4月14日迄の間、即ち実質的に約1ケ月)、規制当局である州ゲーミング委員会はこの法規定の権利放棄(Waiver)を認め、この期間に限り、市場の動向を監視するという結果に落ち着いた。

同州では2023年1月末から陸上施設での対面(3事業者)でのスポーツブックの提供、3月1日からオンラインでのスポーツブッキング(当面は7事業者)の提供が始まったのだが、上記取り決めにも拘わらず、案の上、サービス提供開始前の段階から、あらゆる媒体手段により怒涛のような広告宣伝合戦、Free Betの提供競争が始まってしまった。
TV等の情報チャンネルやSNSから「スポーツ試合毎にもっと賭けなければ損!損はしない」等という広告のオンパレードである。
これが未成年もアクセスできる情報チャンネル、TVやラジオの時間帯から放映されたわけで、これではあまりにも行き過ぎではないのかと市民の間では当然眉を顰める意見も現れてくる。
この状況を見て州司法長官は規制機関である州ゲーミング委員会(MGC)に対し、「スマートフォンはデジタルスポーツブックになってしまっている」と当該事業者による広告宣伝行為の行き過ぎをコメントし、何らかのガードレールを設けるべきと規制の厳格化を要請する9ページにわたる意見書を提出した。
規制機関は、この要請に基づき規制緩和を撤回し、新たな規則を制定、2023年4月以降全てのスポートブッキング広告に最低年齢要件(21)を記載すること、未成年保護のためにより厳格な規範を設けること等を決めざるを得ないこととなった(205CMR256 Sport Wagering Advertising)。
その後も州政府規制当局による広告宣伝や過度のプロモーションを抑止するという政策の方向性は変わっていない。
やはり、競争環境における過剰な広告宣伝行為は問題を引き起こすため、規制は必要という落としどころで妥協したということなのだろう。

(美原 融)

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