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2024-02-26

249.スポーツブッキング 顧客誘引施策と規制⑥プロチームスポンサーシップ規制

英国のサッカーPremier Leagueは世界中のファンを惹きつける英国最大のスポーツ試合を提供している。
当然ことながら英国サッカーは世界最大のスポーツブックの対象でもあり、顧客も極めて多く、その賭け金規模は54億米㌦規模に達するというデータがある。
英国のスポーツブック事業者(ブックメーカー)は1990年代よりこれらLeagueに参加する個別のチーム(クラブ)を様々な形で財政的に支援するスポンサーシップに積極的に参加してきた。
勿論スポーツブック事業者の目的は、これらチームや選手の知名度やファン層の多さをうまく自分のビジネスに取り込み、彼らを広告塔として用い、スポーツブックへと誘導させることでもある。
この結果Premier Leagueにとっても、クラブにとってもスポーツブック事業者は大きな財政的支援を期待できるスポンサーとなった。
2022年時点では20のトップチームの内上位8社がスポーツブック事業者からの何らかのスポンサーシップを得ている。
この総額は全体として年6000万ポンドレベルになるそうだが、著名クラブにとってはスポーツブック企業とは最も効率よく資金援助を得られるスポンサーでもあるのだ。
この結果、TV,ラジオ、SNS Live Streamingの試合実況中継は、試合前後、試合中に関係なく様々なスポーツブック勧誘のスポット広告にあふれ、スタジアム施設内部にも、選手のユニフォームにもスポーツブック事業者のロゴがある有様で、未成年も視聴するスポーツ実況中継としては未成年に悪影響を与えかねない状況になっていたことは間違いない。
尚、このスポーツブック事業者と著名サッカークラブとの特殊な関係は、英国独自の事象として発展してきた。
欧州各国では同様のスポーツブック事業者からのスポンサーシップはあることはあるのだが、かなり限定されている。
フランスのサッカーリーグでは2チームのみで、スペインのLigaでは1つのチームでしかない。
イタリアに至ってはゼロで、これは法令・規則により、サッカー等のプロスポーツチームが、賭博関連事業者とスポンサーシップ契約を締結し、広告塔になり報酬を得ることを禁じているからである(2018年法令97/2018により2019年1月1日より禁止対象)。
勿論英国にはかかる法令や規則は存在しない。
尚、新興国?米国では、一部の州では責任ある広告として法令ないしは規制機関による規則という形で未成年や社会的弱者を対象とした広告規制は実践されてはいるが、プロスポーツチームのスポンサーシップ迄をも規制するという考えは存在しない。
プロスポーツチームは特定の州の特定の都市にホームベースとしての拠点を持っており、これらプロチームとのスポンサー契約、スタジアム内での広告宣伝、当該チーム出場試合におけるTV/ライブストリーミング等の独占的広告配布等は今や米国ではリーグやチームにとり、スポーツのMonetizingの当然の一手法として、当たり前の慣行として根付いている。
勿論一部の州では過剰な広告の露出に関しては規制の動きがあることは諸外国と同様なのだが、そのレベルは一部欧州諸国と比較するとまだ甘く、かつ州毎に制度が異なるため、州毎に規制の厳格度にはかなりの温度差がある。

上記英国の状況は2023年以降段階的に変わりつつある。
賭博関連規制監督政府省庁や賭博監督機関(UK Gambling Commission)、消費者保護を所管する政府省庁等がプロサッカー試合における過剰なほどの賭博誘引広告とその量・頻度に対し、懸念を表明し始めたからだ。
その背景には議会や市民の間でこの問題が大きく取り上げられたことにある。
問題とされたのは過剰とも思えるサッカー試合への賭博広告の多さで、TVやSNSで未成年者も試合を視聴している最中に、ひっきりなしに賭博行為への勧誘を広告としてバナーに流したり、試合の休憩時間に集中的に賭博行為への勧誘広告を流したりすることはさすがにいかがなものかということでもあった。
この結果、かかる広告が未成年者による賭博への参加や賭博依存症患者を増大する等の社会的危害をもたらしているのではないのかという意見も強い。
確かにスタジアムのビルボードやベンチ等にも広告があり、選手の正面のユニフォームに賭博会社のロゴの入ったシャツを着ていれば、嫌がおうにも四六時中これらが目に入る。
社会的批判の高まりと共に、2023年6月には英国の大手MediaであるThe Guardian Groupは同社媒体から全ての賭博関連広告を排除する方針を公表し、一部Mediaも賭博広告禁止の動きに便乗しつつある。
過剰な広告は市民の賛同を得られなくなりつつあり、逆効果をもたらしかねないということになのだ。

責任ある広告の実践を監督する業界を代表する広告自主規制機関による圧力もあったのであろうが、2023年5月英国Premier League参加クラブは、自発的に3年計画で段階的にスポーツブック事業者とのスポンサーシップの解消に動くことを取り決め、これを公表した。
2026・27シーズンまでに選手のユニフォームシャツへのギャンブル関連ロゴ広告掲載を段階的にフェーズアウトすることも同意している。
段階的なのは、やはり契約行為が絡むためで、一方的に契約を任意解除することはクラブとしても難しいという事情があるからだ。
もっとも取りやめるのはユニフォームシャツのフロントロゴみで、選手のユニフォームのスリーブ(袖口)にある小さなロゴやピッチサイドボードへの広告掲載は例外として認められることになった。
そんなに目立つわけではないということなのだろう。
但し、今まであまりにもやり放題であったスポーツブック事業者との連携から一歩下がるスタンスを英国のサッカークラブが取り始めたことは間違いない。

(美原 融)

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