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2024-03-18

252.スポーツブッキング 広告規制③業界自主規制

デジタル時代の宣伝プロモーションの特徴は宣伝媒体と手法の多様化と対象の個人化にある。
書面による媒体やTV,ラジオだけではなく、ネットを通じた様々な広告媒体があらゆる手法で、個人の趣向をくみ取り、特定の個人をターゲットにした広告やメッセージをスマフォに対し効果的に発出することを可能にしている。
それだけ広告の影響力が強くなってきているともいえる。
米国の州法でも、オンラインによるスポーツブックが依存症等にもたらす悪影響を懸念し、過剰な賭博広告やマーケッテイング活動を抑制するための規定が設けられていることが多くなりつつある。
但し、極めて概念的な内容でしかないことが多く、事業者による自主規制を期待している節もある。
一方、米国における業界団体や民間事業者は、概念的な規制であっても、いたずらに民間事業者のマーケッテイングや広告活動を委縮せしめるような規制は本来好ましくないという考え方を持っている。
スポーツブッキングは成人が自らの責任においてたしなむエンターテイメントと定義し、この広告やマーケッテイングに関しては、規制機関等の公的主体が何らかの規制を設けるべきではなく、あくまでも事業者、業界内部でのガイドラインとしての自己規律を設け、問題が生じないように自らの行動を律することを基本とするという考えを堅持している。

米国の業界団体である米国ゲーミング協会(AGA)はかかる状況や環境変化を考慮して、2019年(都度内容を改定している)以降、Responsible Marketing Code for Sports Wagering(スポーツ賭け事に関する責任あるマーケッテイング規範)を設け、業界による自主的なガイドラインとしてのマーケッテイング規範の実践を主導している。
この規範自体は様々な米国各州における制度的規範や業界内の慣行の最大公約数的な内容で、オンラインスポーツブックに関する広告やマーケッテイング活動に関し、大きな考え方として社会的に批判を浴びかねない行為に関し、遵守すべき事項をかなり網羅的に列挙している。
内容は下記に跨る。

● → 法的な顧客許諾年齢の尊重:
21歳以下にアピールする広告の禁止、彼らにアピールするアスリート、著名人、インフルエンサー等を起用する広告の禁止、最低73.6%の視聴者が合理的に21歳以上と判断されない限り、様々な媒体による広告の禁止等。

● →大学に関わる広告・マーケッテイングの制限:
大学が所有する媒体を利用した広告・プロモーション活動の禁止、大学キャンパス内での広告の禁止、大学とのパートナーシップ契約において学生に対する賭博推奨を含むことの禁止、アマチュアアスリートの肖像権を商業化することの禁止等。

● →責任あるゲーミングの実践と支援:
ネット媒体を通じたメッセージにおいて無料相談電話番号と共に依存症問題対応に関する記述の挿入、無責任な賭博推奨の禁止、リスク無し等の表現を使用することの禁止、損失を追いかけさせるようなメッセージや違法行為を推奨しかねないメッセージや広告の禁止等。

● →デジタル媒体・ウエッブサイトの管理: 
デジタル媒体(ネット、モバイル第三者サイト、アフィリエートのプラットフォーム、電子メール、テキストメッセージ等)において本規範に定められた規定の遵守、自社サイト・アプリの中で依存症対応サービスサイトへのリンクと共に、依存症関連のメッセージを入れること、法的年齢制限をリマインドすること、賭け事ができる前に年齢確認のメカニズムを導入し、許諾地域外の顧客を排除するためのGeolocationメカニズムを導入すること、顧客が作成に関与するコンテンツは定期的にモニターし、規範遵守を確認すること、顧客プライバシーの法的要請事項の遵守と必要な同意取得、対顧客メッセージは排除できる選択肢を提供すること、顧客情報を第三者と共有する場合の条件と方針を開示すること等。

内容としてはかなり網羅的で、社会的に問題視されうる項目、あるいは諸外国においても問題視されている項目に焦点を当て、問題が指摘される前に自らの姿勢として是正と問題の根絶を図るというスタンスをとっていると見て取れる。
尚、規範の内容は様々な州法において規定された項目と類似的な側面が多い。
この意味では自主的規範を遵守すれば、州法規定をも遵守することになるという側面もある。
業界自体が市場における規範を自主的に先取りすることにより、自らが主導権をもって管理したいという自負が裏にあるのであろう。
尚、AGAは市場の成熟度に合わせこの規範を毎年レビューし、必要な場合、改正し、情報公開することを取り決めている。
かつ、規範が徹底されるように事業者に対し教育の機会をも提供している。
またこの規範の遵守のために利用者を含むあらゆる利害関係者からのクレーム、規範逸脱等情報を受け付ける仕組みをオンラインで提供している。
また、業者代表と共にCCRB(Code Compliance Review Board)を設け、クレーム等を審査・評価し、関連事業者に対する是正勧告、(事業者名を公開しない)事案に関する情報公開等を励行している。
もっとも罰則はなく、あくまでも事業者による自己規律が基本となるため、果たしてうまくいっているのか否かに関しての詳細な情報は無い。

尚、2023年4月に米国プロスポーツリーグ(NFL, NBA, NHL, MBL)とスポーツを提供する米国主要媒体とがCoalitionを組み、責任あるスポーツ賭博広告を実践するという仕組みを設けたのだが、規範としてはAGAの内容と類似的になる。
但し、如何なる具体の活動を行っているのかの情報は残念乍ら少ない。

(美原 融)

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