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2021-03-01

68.カジノのチップとは何か?② 持ち出し禁止規制

IR整備法第104条は「チップの譲渡等の防止のための措置」を規定し、「カジノ事業者はカジノ管理委員会規則で定めるところにより顧客がチップを他人に譲渡すること及びチップを他人から譲り受けることを防止するために必要な措置を講じること」(第1項)、「カジノ事業者は顧客がチップをカジノ行為区画の外に持ち出すことを防止するために必要な措置を講じること」(第2項)を義務づけている。
第一項には例外規定があり、「自己と生計を一にする配偶者その他の親族及び当該カジノ事業者を除く」とある。
要は夫婦間、家族間でチップのやりとりなり譲渡なりをして遊ぶことは可、一方他人に対し、チップを譲渡することは不可ということになる。
規制の趣旨は、マネーロンダリング対策ということであろう。
例えばカジノ場内で、個人が現金でチップを購入し、このチップを第三者に譲渡し、この第三者がチップを現金化すればマネーロンダリングが確かに成立する。
ましてや、もしチップをカジノ場外にもちだすことができれば、それこそカジノ場外で堂々とマネーロンダリングが成立しうるという趣旨ではないかと想定できる。

このチップの持ち出し禁止規定に関しては何の議論もなされてこなかったのが現実だが、果たしてこれは合理的な規定といえるのか否か、また事業者に対し措置を義務づけているが、果たして実効性のある措置がとれるのか否か、この法規定のままでは法の執行は曖昧に終わる懸念がないのか等大いに再考の余地がある。
諸外国ではチップのカジノ区域外持ち出し禁止規定を設ける場合には、通常一定金額以上という制限を設ける(例:シンガポールカジノ管理法第173条「S$10,000以上のチップをカジノ場あるいは指定場所以外の場所で保持することの禁止。
違反の場合はS$15万の罰金ないしは5年以下の収監ないしは両方」)。
チップの少額持ち出しを規制しにくいのは、例えば数日の滞在であるならば、チップをわざわざ現金に交換せず、そのままポケットに入れたまま保持し、翌日残りのチップを持っていき遊ぶということもありうる。
あるいはうっかりチップをポケットに入れたままで、現金化することを忘れる場合もあろうし、記念にチップを持ち帰るということもある。
諸外国では過去訪問した時に持って帰ったチップでも再訪したときには通常のチップとして遊べることが普通の行為として行われている。
では、チップを場外に持ち出された場合、事業者にとってのインパクトはどうなるのだろうか?カジノでは売り上げを計測するために、毎日現金・チップの全てのポジションを一定時に確認するが、顧客がチップを持ち帰ってしまった場合、当然現金とチップのポジションが合わなくなり、税務会計上の調整が必要になってくる(持っていかれた場合には、現金余剰となるからチップの売却として収益に計上する。
昔のチップを持ち込む顧客がいる場合には、チップが増え、現金が少なくなり、逆の取引があったことにするわけだ)。

問題はマネーロンダリングのリスクであろう。
もっとも通常少額でマネーロンダリングをするなど非効率的なことは、悪者は絶対行わない。
やる場合には相当の大きな金額ベースで実行する。
少額で何十回もやればいいではないかと考える向きもあろうが、かえって人目につき、怪しまれてしまう。
カジノのケージ(キャッシャー)では、大口の現金からチップへの交換取引、あるいは大口のチップから現金への交換取引等は、ルールとして確実にID(本人確認)を要求する。
かつ、当該人のチップ購入履歴、何処のテーブルでどれくらい勝ったのか等もチェックの対象になってしまう。
実際のゲームの結果としてのチップ現金交換かをチェックされることになり、背景の無いままチップのみを交換しようとすると当然ケージでマークされる。
大口取引はチップ交換、現金取引全てが、公正な取引の結果としての清算か交換かが全てチェックの対象になるわけで、おかしな行為は当局に対する報告の対象(疑わしい取引)とすることが慣行として行われる。
この意味ではチップを、第三者に譲渡しても、ケージ(キャッシャー)で大口取引を厳格に管理することにより、マネーロンダリング行為ないしは類似行為を限りなく排除することが可能になる。

チップの譲渡禁止はあってしかるべしだが、カジノ区域外への持ち出し禁止は、本来一定の金額以上とすべきで何らの例外規定もない禁止規定となった場合、おそらく法の執行が限りなく難しくなる。
法はこの順守義務を事業者に課しているのだが、では事業者としてどう顧客によるチップのカジノ区域外持ち出しを禁止できるのか。
持ち出し禁止という表示を「本人確認区域及びカジノ行為区画に表示する」(第105条)するだけでは効果があるわけが無い。
一日という時間単位において入退出を繰り返す顧客があった場合、あるいは昼食時外で食事をしたい人がいる場合、入退出事に少額のチップを現金化せざるを得ないかもしれず、極めて利便性の低い仕組みを義務づけることになりかねない。
チップを何等かの手法でカジノ側が預かることができればこの問題は解消できるが、少額では面倒くさいこと限りない。
もし、事業者がカジノ区域外への顧客によるチップを見逃すことになれば、事業者は責任を問われることになる。
では完璧に顧客によるチップ持ち出しをコントロールすることができるのだろうか。
カジノにおける全てのチップにRFIDチップを埋蔵し、入退出時におけるゲート管理によりゲートでチップ保有の有無を電子的に確認することは不可能ではない。
もっとも顧客がRFIDの電波を乱す装置をもって入場していれば、これも簡単に通り抜けることは可能だ。

何を何処まで如何に規制すれば、違法行為を抑止したり、防止したりすることができるかに関しては、エビデンスベースでのリスク評価を行った上で考慮することが本来好ましい。
マネーロンダリング行為も過剰な表面的対応ではなく、実際のリスクが何処にあるかを検討した上での議論でなければ意味がない。
悪事とは時間と手間がかかり、かつペイしないようでは、誰もしないのが現実なのだ。

(美原 融)

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