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2021-03-03

69.カジノのチップとは何か③ 電子化1)

チップとは現金を賭すという行為の現実感を忘れさせると共に、同じ大きさで色を変えることにより金額表示を変え、その取扱いを容易にさせるというカジノで遊ぶための用具である。
カジノという場においては、チップとはいつでもケージ(キャッシャー)にて、現金と交換してくれるツールになる。
テーブルでも、少額の場合、デイーラーに現金(紙幣)を渡せば、その場でチップと交換してくれる。
カジノの個人勘定に現金を預託している場合には、テーブルでデイーラーがコンピューターで残額をチェックし、その場でチップとして引き落とすこともできる。
現金~チップの交換は場所、手続きが厳格にルール化され、カジノ場内におけるチップの取り扱い(購入、保管、移動、使用、破棄)も厳格なルールの対象になる。
何しろチップは現金と同じ扱いになるが、現金と異なり取り扱いが容易なため、不正が起きやすいという事情があるからだ。

チップの電子化には二つの意味合いがある。
狭義にこれを捉える考え方と広義に捉える考え方である。
狭義のチップの電子化とは、個別のチップにRFIDを埋め込み、チップ自体の個体認識を可能にすることをいう。
テーブルの下部からチップの数・金額・やり取りを計測することになる。
勿論このための特殊な読み取り装置付きのテーブルが必要になるが、チップのやり取り(トランザクション)を正確に記録し、不正なチップの使用・移動・かすみ取りなどを効果的に防ぐことができる。
同様にケージでも不正チップを排除したり、異なる金額のチップ計算を容易にしたりするために読み取り装置を設置することがある。
かかるチップやテーブルはマカオやラスベガス等の高額賭け金VIPテーブルでは現実に使用されている。
一般顧客のテーブルで未だに普及していないのは、かなり高額な資本投資が必要になると共に、少額の賭け金である場合、そこまで不正防止のための完璧な仕組みを必要としないためである。
費用対効果の側面では、現状VIPテーブル以外ではペイしないのだ。
チップにRFIDを組み込むことは、チップの電子化を意味し、実はチップの偽造や不正排除のみではなく、様々な用途に用いられ得ることが既に分かっているが、どうこれを使用するかの関連システムやソフトはまだ十分に開発されておらず、一般化するのはまだ早いという事情もある。
一方世の中の動きはチップの電子化を含むより複合的なカジノ行為自体の電子化、システム化に向かいつつある。
これが広義の意味でのチップの電子化といえるのかもしれない。
米国ネバダ州では2020年6月にこの様なCashless Wagering System を認める制度改定を行った。
我が国のIR整備法のチップの定義は、狭義の電子チップは含まれていると理解できるが、これをツールとして応用したカジノ行為の電子化(digital wagering)という広義の意味の電子チップは含まれていない。

この様に、広義のチップの電子化とは、チップだけではなく、チップを利用するテーブルにおける全てのカジノ行為を電子化・システム化することに繋がる。
即ちチップ自体の機能を電子化し、カジノ行為の全て(賭ける、勝つ、チップをもらう、負ける、チップを取られる)をこの電子チップを利用して電子的に把握・処理し、当該顧客に電子的に勝ち負けをクレジット、デビットする考えになる。
チップはテーブルにおいてのみツールとして使うのみで、勝ち負けは個人の電子勘定でこれを把握するため、このチップはテーブルを離れた段階で単なるプラスチックとなり、価値はなくなってしまう。
当然換金もできず、譲渡しようが、持ち帰ろうが自由である。
勝ち負けはカジノ場内にいる間、電子的に顧客勘定の枠内で把握され、ここからテーブルにおいてチップとして引き出したり、金銭に交換したりすることができる。
こうなるとチップは名目的に今までと同じようなゲームに見せるために使っているだけであって、全てを電子化すれば、テーブルの画面をデイーラーとの間で行き来する画像として処理できる(テーブルが画面となり、これを手でドラッグして画面上のチップを動かすことになる)。
こうなると最早チップは物理的に存在しないわけで、カジノ行為の全てを電子化、システム化するに等しくなる。
技術の発展に伴い、カジノ行為のあらゆる要素が電子化され、全てがシステム化されるようになることは確実だが、IR整備法は伝統的なカジノの仕組みを前提に構築されており、新たな技術の導入を受け入れる仕組みか否かに関しては大きな懸念が残る。

これが如何なる改革をカジノゲームにもたらすのであろうか? 下記等が考えられる。

  • 個人的な電子A/C(勘定)を顧客が所有し、何等かのツール(例えばカードやスマホ)でこれをカジノ場内で持ち歩き、これにクレジット、デビットを集中することができれば、顧客の利便性は飛躍的に高まる。
    物理的なチップは意味が無くなり、テーブルで電子的にチップに変え、その場で遊ぶためのツールにすぎなくなる。
    チップを利用した不正やいかさま偽造等は不可能になり、チップの持ち出しや譲渡・管理等の規制も全く意味がなくなってしまう。
  • 個人のカジノ場における賭け金行動(賭け金、払い戻し、遊興時間・回数等)は全てトラックできるシステムができる。
    勿論全てが個人情報となり、本人同意がない限り他用途には使えないが、不法行為が疑われる場合、のめりこみや過剰な賭け金行動が疑われる場合等は別であろう。
  • チップとは遊びのために現金の代わりに使用するツールでしかないのだが、効率化、顧客の利便性向上、デジタル化・システム化の流れを突き詰めていくと、従来使用していた用具や機械等もその在り方を再考せざるを得ない必要性が生じる趨勢にあるのは明らかだ。
    但し、何処まで、かついつ頃これが可能になるかに関しては必ずしも解らない。
    制度・規制と実践の在り方は必ずしも同時並行的に進まないという事情があるからである。

(美原 融)

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