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2021-02-24

67.カジノのチップとは何か?① 定義

カジノのテーブルゲームでチップを利用する理由とは、顧客に現金を使って賭け事をしているという意識から遠ざけるためという意見がある。
確かに一端現金をチップに変えてしまうと、賭け事というよりも遊びに近くなり、金銭感覚が無くなり、より大きな金額を使ってしまうという側面があるのかもしれない。
チップは全て同じ大きさで色によりその金額を分ける。
これはデイーラーのハンドリングを容易くし、積まれたチップの計算を手早くできるようにするためでもある。

さてこのチップだが、我が国のIR整備法第73条6項は、「顧客との間でカジノ行為を行うときは、その得喪を争う金銭に変えて、チップ(金銭の額に相当するものとして交付又は付与~以下この節及び第192条第1項第1号において「交付等」という~をされる証票、電子機器その他の物又は番号、記号その他の符号であって、カジノ行為を行うために提示、公布その他の方法により使用することができるものをいう)を使用しなければならない」と規定している。
やたら複雑な表現だが、この定義はかなり広い。
物理的な物としての「証票」が所謂通常我々が見るチップであろう。
番号、記号、符号は、発行者の明記や異なる金額等の記載や色違いということだ。
もっともこの定義のみではチップはどういう形態なのか極めて解かり難い。
一方、「電子機器その他の・・」の「電子機器」が一体何を示すのか解説もなく、理解しがたいが、例えば非接触型RFIDを中に組み込んだチップといえないこともない。
これは既にマカオのVIPルーム等で実用化されているが、個別のチップにRFIDを組み込んだものになる。
テーブルに設置された読み取り機によりチップの個体認識を可能にすることにより、チップの偽造・いかさま等の不法行為を防止するために用いられている。
あるいはケージにおいて異なる多量のチップの自動計算するときにも便利なツールになる。
もっともこれは器具にすぎず、「機器」といえるのかに関しては懸念が残る。
一方、物理的な「もの」ではなく、カジノ行為全体をシステム化し、ロイヤリテイーカードに現金でクレジットし、テーブルや機械で電子的にチップを引き落とし、この電子チップを用いて、金銭の得喪を争うという技術が既に存在している。
この場合には、モノとしてのチップは存在せず、勝ち負けを電子的にシステムに記録するだけなのだが、顧客のゲーム体験を従来と同じにするようにシステムとリンクした名目的なチップを用意し、チップを賭ける、勝ってチップをもらうことがある。
物理的にチップなるものは存在するがこれはテーブルを離れると単なるプラスチックにすぎず、無価値となる。
勝ち負けは即刻電子的に個人勘定に記録されているため、チップ交換という行為等要らなくなるわけだ。
最終的にはカジノを退出するときに端末から現金化する。
果たしてかかる電子チップは上記法規定の解釈でチップとして読み取れるかという懸念もあるのだが、チップ本来の要件や機能・特性から大きく逸脱する考えでもなさそうだ。
別途規則をもうけるか、規則の運用により対処できる可能性はある。

ところでIR整備法上のチップのチップたるべき要件、利用に際しての主な要件とは、カジノ行為を行う際、金銭に代えてチップを使用する義務(第73条6項、7項)、(カジノ管理委員会規則で定める)チップ交換に関する支払い手段の制限(第73条8項)、非居住者の場合、クレジットカードの利用・支払いによるチップの交付等の許諾(第73条9項)、顧客の求めに応じ、チップと引き換えに、当該チップの価額に相当する現金又は元本の拠出があり、かつ容易に換価できるものとして規則で定めるものを交付する義務(第73条10項)、チップの他人への譲渡、他人から譲り受けることの禁止、チップの持ち出し禁止(第104条1項、2項)等になる。
勿論カジノ行為に関し、チップないしは現金が絡む場合には、この他にも様々な法規定が存在する。
おそらくカジノ管理委員会の規則により詳細が規定されることになるのであろうが、チップとはプラスチックないしはクレイで作るもので各事業者、各施設に固有なものとなり、その施設のゲームに際して使用するツールとして用いられる。
使用の場所・施設の限定性があること、金銭と同等の価値があり、その場所において条件無しに金銭と交換可能なこと、その仕様・製造・搬送・保管・利用・廃棄に関しては厳格な規制の対象になることという特徴がある。
尚、巨額のチップを外に持ち出すことは勿論諸外国においても禁止されているが、少額のチップの持ち出しは認められている。
このチップは将来再度同じ施設に来ても利用可能、かつ金銭交換が可能である。
一方わが国ではチップの外部への持ち出しは単純に禁止されている。

このチップを現行の既存の法津の枠組みの中でどうとらえるべきかに関しては、立法過程において、自民党議連と財務省との間で議論された経緯がある。
当時議論の対象となったのは、そもそもチップとは何か、チップとは換金性があるため、前払い証票なのか、だとすると「前払証票の規制等に関する法律」に抵触するものか否かということでもあった。
同法施行令第1条に「前払式証票に該当しない証票等」が規定されているが、この三号に「特定の施設又は場所の利用に際し、発行される食券その他の商法等(法第二条第1項各号に該当するものに限る)で、当該施設又は場所の利用者が通常使用することとされているもの」との規定がある。
カジノのチップはこの例外規定を適用することにより、前払商標法の対象にはならないと解釈できるとしたわけである。
これにより、チップはパチンコホールの様にハウスがチップを貸しているわけではなく、現金に近い性格を持つチップを現金と等価で交換しているだけにすぎないという解釈をとることになった。

  • 何ともはや、全くの屁理屈みたいな議論なのだが、現金との交換可能性がある証票をどう位置付けるのか、どう利用できるのかに関しては、結構高い法的ハードルがあったことになる。
    そうはいっても電子化やシステム化が進めば、遊びの世界も杓子定規な法解釈で定義することが難しい世の中になってくる時代が早晩やってきそうである。

(美原 融)

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