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2022-07-04

164.富くじ当選金非課税・公営賭博払い戻し金課税の不思議

「5億円、毎年1000万使っても50年、毎年2000万円使っても25年!・・」等というまことに刺激的かつ品のないTVコマーシャルがドリームジャンボ宝くじに関し放映されていたが、確率的にあたりそうもない宝くじをあたかもあたるかのように思わせ、「運試し」として購入させるという無責任な宣伝だ。
一攫千金を実現できるという幻想を抱かせ、宝くじの購入に誘導しようというのだが、売り上げを増やすことが都道府県等の財政に貢献するとはいえ、かかる賭博行為をTVというメデイアを使い、無節操に宣伝する国は世界の中でも日本のみで、責任ある賭博施行者の取るべき立場ではない。
一方では公営賭博やカジノ、パチンコ等の過剰な消費を抑える施策を取りながら、他方では宝くじ等の賭博を推奨する施策を放置しているというのはどう考えても矛盾している。
尤も文部科学省は過去自民党の会合に出席し、宝くじやTotoは賭博ではない。
宝くじは庶民に夢を売る富くじと公言したことがあり、たまげたが、禅問答の様なものだ。
刑法上のたてつけは賭博と富くじを規定上峻別しているためかかる理屈が生じるのであろうが、諸外国ではこれは当然賭博行為だ。
賭け事の分類としてはパリミュチュエル賭博と呼称され、賭け金の一部(25%~50数%)を施行者が税や費用相当分として控除し、残りを勝者に配分するという仕組みのことをいい、賭博以外の何物でもない。
もっとも富くじ(宝くじ、Toto)は、単にくじを購入するという受け身的な行為になり、くじの抽選も後刻行われているため、賭博をしているという印象を購入者はもたない。
この点、勝ち、負けを予想し、短時間に終わる競技により勝敗が決する公営競技とは遊び方も面白さも全く異なることは事実だ。
もっとも予想系のTotoに至っては競馬や競輪、競艇の勝ち負け予想と全く同じであって、これをみても富くじを賭博ではないとするロジックを見出すことは難しい。

ところで宝くじやTotoの当選金は非課税とされており、例え5億円があたったとしても所得税を支払う必要もなく、確定申告も不要だ。
当選金付証票法第13条(「当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない」)、スポーツ振興投票実施に関する法律第16条(「第13条の払戻金については所得税を課さない」)に基づき当選金や払戻金は非課税になる。
購入時に代金の一部を源泉徴収されており既に税金を支払っているとみなし、当選金に所得税を賦課すると二重課税になるという理屈になる。
宝くじの控除(税並びに諸費用)は50%程度になり、購入時点で税と費用は控除される。
この仕組み自体はその他のあらゆる公営賭博でも同様で、馬券や舟券等を購入した時点で25%程度が費用並びに諸費用として徴収される。
ところがこれら公営競技の勝ち金は関連法規定に払い戻し金非課税という規定は存在せず、一時所得として課税対象とされ、勝ち金は確定申告の対象となってしまう。
控除率が高いものは非課税、控除率が低いものは課税という理屈もおかしな話だ。
もっとも公営賭博で大勝ちした者の内、確定申告をして納税する御仁等は殆どいないのが世の中の現実だ。
博打で大儲けし、脱税するとはけしからんとなぜか国会での白熱した議論となり、政府は2021年より1000万円以上の大口払い戻しに対し、徴収を強化する方針を打ち出し、勝者の住所氏名、銀行口座、関連試合の情報を電磁的手段で記録することを関係団体に通達した。
一方では5億円のあたり(払い戻し)に対し無税、他方では1000万円の勝ちに対し課税強化というのだから論理矛盾も甚だしい。
残念ながら様々な賭博法制は必ずしも論理的整合性があってでてきているものではない。
公営賭博法制はいずれも昭和⒛年代後半の時代のものだ。
その目的は賭け金から控除する新たな税収の確保でもあったのだが、顧客の勝ち分に対し課税するか否か、どう課税できるのかという議論等が未熟であった時代の制度だろう。
宝くじは、控除率が高いと共に、勝ち金は当然大きくなるが、当たる確率は天文学的に低い。
あたるかもしれないという夢を売るのに、当たりを所得税の対象にしたらそのメリットが大きく削減しかねないため、当初から非課税という前提で制度設計を図ったのではないかと想定できる。
勝ち金に対する課税ではなく、全ての売り上げからより大きく控除した方が遥かに税効率は高くなるからだ。

では新たな制度となるカジノはとなると上記以上に複雑な議論を提供しかねない側面がある。
令和3年度与党税制大綱ではカジノに係る顧客勝ち金に対する個人所得税は、非居住者は非課税、居住者は公営賭博と同様に課税という原則のみ規定された。
制度としてこれをどう規定するかに関しては本年度以降の税制大綱の枠組みで具体化のための措置を図ることとして先延ばしにされている。
非居住者は源泉聴取するにはあまりにも複雑すぎ、諸外国との競争上も不利となるため非課税となったが、居住者による勝ち分は公営競技に倣い、個人所得税の対象になる。
但し、カジノの場合、勝ち負けが一定時間に亘り継続してなされることが多く、そもそも課税所得とは何かを定義すること自体が難しい。
公営賭博と同様ということは、居住者はカジノ事業者から調書を取られることはなく、あくまでも50万円以上の勝ち分に対し、自主的に確定申告の対象にするだけということになる。
勿論これがうまく機能すればよいのだが、問題は競馬・競輪・競艇と同じで、強制力のない枠組みで機能するのかということにある。
カジノ事業者は徴税当局に対し協力することを要請されることになるが、制度上の法的義務はない。
かかる状態でうまく課税が機能するかは定かではない。
申告納税が機能しないことが明確になった場合、1000万円以上の高額払い戻し客に対しては、公営賭博、カジノに拘わらず、本人確認の上、賭博施行者に対し、何等かの追加的措置を共通的に要求することは今後在りうる可能性なのかもしれない。
では何をどうするのか、個人情報の問題、制度上の施行者義務、納税者義務等様々な課題をどう整理するのか等方針次第では様々な課題が噴出しかねない状況にはある。

(美原 融)

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