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2022-06-27

163.オンラインカジノの「厳正な取り締まり」とは?

オンラインカジノは阿武町から問題が再認識?され、国会での質疑の対象になったが、質問も回答も禅問答の如きものだ。
岸田総理 は「オンラインカジノ、これは違法なものであり、関係省庁が連携をし、厳正な取り締まりを行わなければならないと思います」と述べ、「資金の流れの実態把握をしっかり行うことが重要だ。
依存症対策についても考えないといけない」との認識を示した。
野党側は「オンラインカジノという脅威にすら対応できていない政府に箱物カジノを任せることができるのか」と的外れの質問しかできず、その答弁たるや「IRはカジノだけではなく国際会議場や大規模ホテルなどを併設し、家族で楽しめる観光拠点をつくるという発想に基づいて取り組んでいる」という始末で、まるでチンプンカンプンだ。
質疑双方に具体の問題やあるべき措置についての認識がない為こうなるのだが、質問をする議員先生も答弁を起案する官僚諸兄も少しは勉強して欲しいものだ。
「鋭意検討」では何もしないことに等しい。

「厳正に取り締まる」といったところで、外国からサイバー空間を利用して賭博行為を提供する外国在住のネット賭博提供事業者を摘発し、責任者を逮捕できる法律等は何処にも存在しない。
日本語のサイトであってももとはといえば外国語を翻訳しただけ、電話でQ&Aや問題に対処してくれる日本人のアフィリエイトと呼ばれる親切な?協力者も全て在外国だ。
この辺は巧妙で日本国内には足跡すら残さない。
では顧客は?というとこれは自宅からコンピューターやスマホを使う一般国民であって、例え違法であろうが、国民が自由にインターネットを用いる行為自体を摘発したり、自分の金を消費したりする行為を取り締まったりする事等もできない。
よって、かかるサイバー世界で何等かの行為を取り締まる場合には、わが国に拠点を置いている企業で、間接的にネット賭博を行う活動に何等かの形で機能的に関与している主体を規制の網にかけること以外方法はない。
勿論法的にそんなことできるのかという懸念はあるが、これは横に置いておこう。
一番手っ取り早いのは国内のプロバイダー、サーチエンジン提供業者に対し、違法賭博提供サイトを発見し、彼らをブロックする法的義務を課す制度を設けることだ。
例えば中国ではポルノや賭博サイトを見つけようとサーチエンジンを動かすだけで、「禁止サイト」という画面が出てくる。
普通の人間はこの段階でアクセスを断念する。
勿論中国でも外国のサーチエンジンを巧妙に使ったり、うまくサイト情報を把握したりする等抜け穴はあるのだが、これは何処の国でも事情は同じだ。
但し、わが国でもプロバイダーを規制できれば相当の効果は期待できる。
問題はかかるネット規制法を創ろうとすれば業界から大反対のクレームがおきそうで、協力どころではなくなる公算が高い。
一端ネット規制の考えを認めてしまうと他の社会的問題に飛び火することは間違いなく、これでは自由なネット社会ではなくなってしまうから皆嫌がるのだ。
警察当局による表裏の協力を得て、業界団体を組織化し、違法賭博サイトを見つけ、排除する任意の自主規制を設けさせるという手法もある。
これも完璧ではなく、かつ合意形成のハードルも高い。
但し、やろうと思えばできないことはない。

もう一つの規制の考え方は例えネット賭博であっても、決済のための資金は確実に動くことになり、その根源は個人の銀行口座であることから、わが国における決済に関与しうる関係者を網羅的に規制の対象とし、賭博関連行為への資金の移動を特定化し、この送金なり資金移動を拒否する法的義務をこれら金融関係者に課すことだ。
米国のUIAGはかかる法律になるが、法律はできたが法の執行をどう確保し、金融機関の権利義務はどうなるのか等につき法が施行されるまでの期間に喧々諤々の議論が生じてしまった。
金融機関からすれば、個別の個人の金融取引の内容迄把握できず、どう義務を遂行できるのか法執行の有効性が大きな課題となった。
極めて強い業界による反対が存在し、現在に至る迄その効果は疑問視されている。
完璧な法律ではないのだが、一般国民を抑止する効果は確かにある。
資金の根本を抑えれば、確実にネット賭博取引は成立しなくなるのだが、今や金融機関やクレジットカード会社のみならず電子マネー決済代行業者や仮想通貨販売業者等中間的な代行業者が現れ状況はより複雑になった。
銀行口座から資金が電子マネーや仮想通貨に変換され、これにより賭博行為が行われるのだが、一種の資金洗浄の如きもので、資金の動きを把握できなくなる可能性が高い。
これを抑える手段とは、電子マネー支払い代行業者等に対し、ネット賭博関連事業者との取引を禁止する法的義務を課す、あるいは効果的なこの旨の協力義務を課すこと以外なさそうである。
もっとも彼らも在外国事業者であれば上記で見たような問題も生じる。

この問題に関し理解すべきは例え違法行為であっても、犯罪の構成要件を満たさなければ、単純に警察当局が厳正に摘発・取り締まり等できる立場にはないということだ。
できるとすれば上記で述べた通り、ネット賭博の周辺行為に着目し、既存の関係者に違法行為に加担しないよう自主的協力を求めるか、それで効果が無ければ新たな規制のための法律を設けることだ。
但し、新たな規制に反対する議論も根強いと想定されるため、オープンな国民的議論が必要かもしれない。
この場合、欧米諸国であったように、①単純にネット賭博を禁止し、規制する考え方と②これとは逆に限定的にネット賭博を認め、確実な規制・監督の下で国民の不利益を防止し、保護する考え方の両論を議論し、どちらが国の政策としてあるべき方向なのかという議論が必要だ。
一国の法規制のみではサイバー空間を管理できる術はない。
「厳正な取り締まり」と言うは簡単だが、できないことをできるとし、国民の不利益を看過することの問題を政府も国会議員も正確に認識すべきかもしれない。

(美原 融)

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