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2024-04-29

258.スポーツブッキング 広告規制⑤Blanket Ad Ban

スマフォ全盛時代においてSNS等を通じた賭博行為を推奨する過剰な広告・宣伝等が弱者層や未成年に有害な影響を与えているという指摘がなされ始めたのは2010年代末頃からになる。
但し、その対応は一国の環境や状況により国毎に異なる。
これには未成年等を特定の対象にした広告・宣伝等は禁止するが、一般的な広告・宣伝は制度や規制の対象にせず、民間事業者の自主規制に委ねている国(仏蘭西、スイス等)や広告・宣伝等にあまり規制を設けず、事業者の自主判断・自主規制に委ねている国・地域(米国の多くの州。
もっとも米国市場が発展し始めたのは2019年以降で、まだ成熟の過程で問題視されていないだけという意見もある)、一部の広告・宣伝を制限したり、禁止したりする部分的な規制を定めた国(英国、ドイツ、一部北欧諸国等)があると共に、陸上賭博施設、オンライン賭博・スポーツブッキング等全ての賭博種に関し、あらゆる媒体による一切の広告・宣伝・誘引行為を禁止する国(イタリア、オランダ、ベルギー等)等に分かれる。
広告・宣伝禁止規制のことをAd Banと呼称し、一切の広告・宣伝・誘引等を認めない非妥協的な厳格な禁止規制のことをBlanket Ad Banという。

注目すべき先進的な動向はこのBlanket Ad Banにある。
先鞭をつけたのはイタリアで法律87・2018号(7月12日 Dignity Decreeと呼称されている)に基づき2019年7月以降、陸上施設・オンラインに拘わらず、全ての賭博種に関するあらゆる媒体・メデイア・プラットフォームによる広告・宣伝の禁止、プロモーションの禁止、ブランドグッズの配布やインフルエンサーを活用するマーケッテイングの禁止等を取り決めた。
またスポーツ試合、文化イベント、スポーツチームのスポンサーシップも全て禁止の対象である。
イタリアでは当時スポーツブッキング事業者は年€120Mを様々なスポーツ業界に支払う大スポンサーでSerie Aの20のサッカークラブ中11のクラブはスポンサーシップを受け入れており、かつコロナ禍と偶然タイミングが一致したため、サッカー界にとっては大打撃(Serie Aのみで€700Mの損失)となってしまった。
サッカー選手のユニフォームの宣伝ロゴも禁止対象で、では外国のチームが来てイタリアで試合するときはどうするのかというと、何と当面はユニフォームのロゴを隠してプレーせざるを得ないという珍質疑回答すらあった。
尚、フロントシャツ広告の禁止対象はあくまで賭博事業者、特にスポーツブッキング事業者でかつ、賭け行為のブランド名でなければ問題はない。
この意味では、その後様々な企業がユニフォームのフロントロゴスポンサーになり替わっており、現状イタリアサッカーチームにとっては大きな問題となっているわけではない。
この点、如何にもイタリアらしい妥協になる。

スペインではやはり同様に2021年1月連邦Royal Decree on Advertisingに基づきあらゆるスポーツ種に関し、チームやクラブが賭博関連のスポンサーシップをとることを禁止(国直轄のロッテリーのみは例外)し、2021年11月より全ての広告媒体に対し賭博広告の時間帯を1~5AMに限定する等17のすべての州に対し消費者省(Ministry of Consumer Affairs)による連邦規制により,実質的にBlanket Ad Banの方針を実施した(関連業界が政府を提訴中)。

ベルギーは2019年法を改正し、2023年7月1日より広告規制を実施した。
陸上設置型、オンラインを問わず全ての賭博種に関わるあらゆる広告・宣伝の禁止(例外はロッテリーくじ)、メデイアを通じたプロモーションを禁止した。
スポーツ関連では移行期間を定め、スタジアム広告は2025年1月1日から禁止、2028年1月1日より賭博施行者はスポーツチームの施行者になることを禁止することとした。
業界等の反対も強いが法的チャレンジは全て失敗している。

オランダも2023年7月1日より、様々なメデイア・プラットフォーム(TV,ラジオ、ネット、公共スペース)での賭博広告は禁止、インターネット・ソーシャルメデイアでの広告は95%以上の視聴者が24歳以上とする必要な措置をとった場合やオンデマンドストリーミングによる直接メッセージ広告は認めるが、それ以外の場合は禁止。
スポーツ分野のスポンサーシップや選手ユニフォーム広告も2025年7月1日以降は禁止となる。
政府はBlanket Ad Banはリスクが高すぎるとして、慎重姿勢であったのだが、全ての賭博関連広告を禁止する改正案を2024年2月に提出し、4月16日に議会で可決された。
どう実務が展開するかは今後の課題になる。

アイルランドでは2023年7月に法務大臣が諮問機関の意見を得て、Visible Liveのスポーツ放映に関し、賭博広告禁止の方向で法改正することを宣言している(現行制度は2022年Gambling Regulation Billで5:30~9:00PMの時間帯でのTV,ラジオ、ネットにおける賭博広告は禁止となっている)。
類似的な規制案の検討あるいは規制の実施を表明している国には、カナダ・オンタリオ州、スエーデン、エストニア、チェコ、ポーランド、チリ、インド等があり、欧州以外にもかなりの広がりを見せつつある。

このように欧州主要諸国における明らかな趨勢は、賭博推奨に関わる広告宣伝の部分ないしは全てを規制しようとする方向に向かいつつある。
この分野に関する限り、消費者・弱者・未成年を保護する政策や規範が未だ弱い米国や日本は例外的な国になってしまうのかもしれない。

(美原 融)

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