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2024-05-06

259.スポーツブッキング 広告規制⑥英国事情

英国では許諾を得てスポーツブッキングを担う事業者は規制当局である英国賭博委員会(UKGC)が定める行動規範(Code of Practice)に準拠して行動する義務がある。
この規範には事業者は広告規範の管理者たる英国広告基準局(ASA、Advertising Standard Authority、法定外の組織で広告業界への課税で運営される自主規制機関)が定める広告規範(Advertising Code)を遵守することを要求している。
これには二つあり、同機構が定めた「英国放送広告規範」(BCAP Code、UK Code of Broadcasting Advertisingでこれは専らTV,ラジオにおける広告等が所掌範囲) 及び「非放送販売促進及び直接マーケテイング規範」(CAP Code、Sec16 Gambling, Code of Non-broadcasting, Sales Promotion & Direct Marketingで、これはASAの下部組織であるCAP, Committee on Advertising Practiceが定めたものでインターネットや販売プロモーション、顧客に対する直接マーケテイング等が所掌範囲) になる。
これら規範は、広告が社会的に責任ある行動たるべきことを概念的・理念的に述べた規定で解釈次第ではその範囲は広がる。
またこの規範には法的拘束力が無いのだが、英国賭博委員会(UKGC)はこの規範に対する違反行為を賭博委員会の行動規範違反と把握し、状況次第では審査の対象とし、賭博免許を停止・はく奪できたり、行政罰を課したりすることができる仕組みになっている。
即ち、英国政府の基本スタンスは広告の基準策定とその遵守は全て民間の自主的な規範と規律に委ねることを基本としつつ、基準や規範を逸脱する行為には別途定めた賭博免許の取り消しに繋がるリーガルパスで抑止効果を発揮していることになる。
一方、現行の賭博関連法令や慣行については政府や議会、規制機関が定期的にその内容をレビューし、民間の意見を踏まえつつ、制度の在り方を見直すというアプローチをとっているのが英国だ。

もっとも過剰な広告や顧客を誘引する害をもたらしうるマーケッテイング等は自粛すべきということは既に2005年の賭博法(Gambling Act)でも理念として定義され、2016年の賭博(免許・広告)法(Gambling(Licensing &Advertising)Act)でも同様の主張が規定されている。
2016年の政府レビューでは依存症問題は無くなってはいないが安定的で、賭博がもたらす危害を喚起する側面はあるとはいえ、その影響度の計測が難しいことを指摘し、賭博関連広告が危害をもたらすインパクトを与えている証拠もなく、実際のインパクトも少ないのではとする指摘があった。
但し、この頃から賭博関連の過剰な広告は若年層や社会的弱者に対し、やはり悪影響を与えているのではないかとする様々な意見が出てきたのが実態である。
これが社会的に深刻な問題と認知され初めたのは世界最大のスポーツベッテイングの対象となる英国サッカー試合における過剰とも思える試合中の賭博広告の多さだ。
試合前後、試合中に拘わらず、ひっきりなしに賭博行為への参加を様々な媒体を用いて呼び掛ける広告を流すことはさすがに未成年や社会的弱者に悪影響を与えているのではという懸念である。
未成年も弱者もこれら放送を見ているからだ。
2020年の貴族院による「賭博の危害に関する委員会報告」では、政府に対し、賭博関連広告が未成年に与える影響を調査することやサッカープレミアリーグの選手のシャツへの賭博関連ロゴ等はやめるべき等の政策提案がなされた。
もっとも政府は広告が危害を与えるという因果関係の証拠があるかに関しては慎重なスタンスをとったままである。
一方2022年4月には広告標準機構(ASA)は賭博に関する広告については今後新たにより厳格なルールを導入すると明言、「賭博の勧誘にリンクして、青少年や弱者に強いアピールを与える広告であってはならない」とした。
2023年4月には、政府は賭博白書(Gambling White Paper)を公表、この中で広告規制に関しては、厳格なる管理がより一層必要なることを指摘したが、単純な全面禁止(Blanket Ad Ban)ではなく、よりソフトなアプローチをとることを表明している。
2023年5月にはサッカープレミアリーグは、クラブ間の任意な決断として3年計画で段階的にスポーツブッキング事業者とのスポンサーシップの解消に動くことを取り決め、2025・26シーズン以降、選手のシャツの正面に賭博関連ロゴを付けることを取り下げる合意に達したと表明した。
一方2023年9月所轄大臣は改革には得エビデンスに基づいたアプローチが必要として、賭博関連広告が危害をもたらす効果に関しては、より詳細な調査が必要で、広告に対するエキスポージャーのみが人々に賭博関連の危害をあたえる当たる証拠にはなりえないのではないかという見解を示すに至っている。
この大臣発言には反論も多く、政府のスタンスはこの問題に関しては若干後退しているのではないかという見方が広がっている。
2024年には政府による制度改正案が提示される予定で、どういう展開になるかは未だよくわからないが、今後議論が高まることが予想される。

大陸欧州諸国は法律により賭博関連広告を規制したり、禁止したりする方向に一斉に舵を切っているのだが、最大のギャンブル大国英国の動きは極めて慎重だ。
これは政府が広告媒体を対象とする広告規制をすべきではなく、あくまでも民による自主的な管理に委ねるべきという英国独自の制度があるからなのだろう。
但し、賭博広告規制に関しては民による自主的な規律違反は、その内容次第では、規制当局による賭博免許の一時停止や取消に繋がるという意味では、間接的ではあるが、かなり抑止効果が期待できる制度になっていることは間違いない。
欧州最大のベッテイング大国英国の規範が大陸欧州諸国より甘くなるということはちょっと考えられにくい。
英国独自の法体系と慣習の枠組みの中で、広告規制がどう展開するかに関しては今後共その動きに注目すべきかもしれない。

(美原 融)

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