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2024-02-05

246.スポーツブッキング 顧客誘引施策と規制③Free Bet規制

事業者にとってのFree Betの目的とは、①ブランドを顧客に認知してもらい、顧客のベースを広げること、②一端顧客となった場合、顧客のローヤリテイを維持する手段となること、③有望な顧客のデータ・個人情報を収集できること、④顧客の性向に合わせた将来のマーケッテイングデータを取得できること等にある。
勿論これ以外に、新たな市場に参入する場合には、当初の段階で集中的なプロモーションをすることにより、有望な顧客を囲い込み、市場におけるマーケットシェアを上げるという目的もある。
様々なインセンテイブを顧客に供与することによって、顧客を単純に抜け出せないようにして、固定客にしてしまうわけである。
事実、一端やり始めると、そのまま継続して勘定を利用する顧客が過半のようである。
米国では、顧客に対し、Free BetやRisk Free Betを提供することは事業者の裁量判断になり、この行為自体を禁止する州はいない。
これも一種の販売促進費用(Promotional Expense)になるのだが、税務上の取り扱いについては、この税前費用控除を認める州と一切費用控除を認めず課税対象とする州に分かれる。
州毎に税務方針が異なることになるが、現状は過半の州は税前控除を一切認めないか、制限しており、認める州は限定される。
税前費用控除を認めない場合には、事業者の広告宣伝費用は高くつき、その分収益を圧迫することになるため、過剰な費用支出を避けるという衝動が通常生じる。
逆に認める場合には、課税コストで一部広告宣伝費を賄えることになり、積極的に広告宣伝をするという効果をもたらすことになる。

ところが米国の州毎に新たな制度と市場が創出され、競争市場がスタートした際、上記の常識的な判断通りにはならなかったという事態が生じた。
市場において熾烈な顧客争奪競争が生じ、Promotionのための費用が税前で控除されるか否かに関係なく、例え費用が高くつこうが、場合によっては赤字を覚悟してもFree BetやBonumなどの様々な対顧客インセンテイブを大判振る舞いで顧客に提供し、マスコミ、媒体を総動員した巨額かつ過剰なほどの広告宣伝活動がなされたことにあった。
州によっても状況は異なるが、大手事業者は実際の総粗収益(GGR)の30%から50%に相当する金額をFree BetやBonusとして潜在的顧客に提供した模様だ。
短期的に収益を圧迫しても、中長期的には十分ペイするという判断なのだろう。
この場合、税前控除ができなければ、これらFree BetやBonusの金額はGGRに加算され、課税対象収入(Taxable Revenue)となってしまう。
税は増える、但し一部は架空の売り上げに対する課税でしかない。
一方、税前で控除することを認めた州の場合には、税を犠牲にし、限りなく過剰なFree BetやBonusを提供する競争が事業者間で生じ、課税対象額(Taxable Revenue)はPromotion費用を差し引いた額になるため、当然税収はかなり落ち込んでしまう。

NY州は全米でもっともスポーツブック粗収益税が高い州で何と51%になる。
かつPromotional Expenseの税前控除は制度として認めていない。
但し、市場としても米州の中では最大で、2023年12月のハンドルは$20億㌦、GGRは$1憶8830万㌦に達し、単月で米国最大のGGRとなる市場に成長している。
同州ではハンドル/GGR/税等は公表されており、ここから実態をある程度類推することができる。
2023年11月の業界全体の総賭け金~ハンドル~(Mobile Sport Wagering Handle)は$2,109,294,400.-で総粗収益(Mobile Sport Wagering GGR)は$150,903,281になり(これはFree Bet を含みかなり上積みされている)、7%のホールドだ。
連邦税(ハンドルの0.25%)は$2,109,294,400 x 0.25%=$4,062,299.95。
州のGGR課税(51%)は$150,903,281 x 51%=$76,960,673である。
もっとも事業者レベルのネットの収益は$73,342,608($150,903,281 – $76,960,673)でしかない。
各事業者とも州での事業開始後、巨額のPromotional Expenseを負担している。
もし仮定としてGGRの30%がFree Bet Creditで構成されていたとすると、実際のGGRは$150,903,281 x 70%=$$105,632,296にすぎず、これだと実際に払った税金の比率でみると、実効税率は何と72%になってしまう。
この税を支払い、かつ様々な債務、運営費用等を賄い。
事業として本当に大丈夫なのか、これでは赤字基調になり、市場から退出せざるを得ない企業もでてくるのではないだろうかと思うのだが、規模の経済がこれら否定的な要素をオフセットする模様である(因みに2023年末の段階で9社がモバイル事業を実施しているが、内7社は黒字だが、後発2社は赤字だ。
競争上巨額のFree Betを提供したからという理由である)。
内部識者の意見ではNY州の規模だと市場の20%程度を占有できれば、時間の経過とともに費用を回収できるとのことだ。
First Mover Advantageということで動いたのであろうが、最初だけではなく、現在でもFree BetやBonus等のPromotionは継続的に行われている。
市場慣行として定着した場合、競争上自分達だけがこの慣行から抜け出ることはできないということなのだろう。

この現実をどう評価するかは意見が分かれる。
Free(無料)等一見人を騙しかねない表現は安易に賭博行為へと走る庶民を増やし、依存症傾向を助長しかねず、Problem Gamblingの観点から問題とする意見は根強い。
また未成年を含めた不特定多数の対象を対象とするPromotionは未成年に対し、賭博行為への強烈な誘引になりかねないとする意見もある。
ここからFreeやRisk Free等の誤解を生む表現を使用することの禁止や、Free Bet, Bonus等のPromotionに関する税額控除はGGRの一定率に上限を設け、Promotionそのものを抑制したりする施策が一部の州では導入されつつある。
事業者を育成・支援し、市場の拡大と業界の健全な発展を促すという施策と若年層を含む消費者を過激に刺激することは賭博行為の否定的な側面を助長しかねないとする施策とはうまくバランスを取らないと機能しない。
米国を含めた諸外国では、どうこれを実現できるかが試されているともいえる。

(美原 融)

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