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2022-09-12

174.スポーツブッキング ⑧どんな賭け方を認める?

我が国の賭博法制は賭け方や賭けの手法を規則等で事細かく定義し、認められた手法や手順以外は認めないという考え方を取る。
顧客の人気がありそうな賭け方を増やせば、確実に売り上げも税収も延びるのではないかと思うのだが、射幸心を煽る賭博は好ましくないという考え方が我が国の立法政策にはあり、法令で定められた以上の賭け方の種類・手法を実現することは我が国ではできそうもない。
よって、スポーツブッキングを我が国で考える場合も、どういう種類の賭け方を何処まで認めるかというグランドデザインをまず固めておくことが必要になる。
ブッキング事業者が賭けの種類とルールを免許取得後規制機関に申請し、認可を得るということではなく、予め規制当局による規則で詳細を定めるのが日本的流儀になる。
但し、もしスポーツブッキングを我が国で認める場合、どんな賭け方を認め、何を何処まで規則として取り決めるかについては実務上の課題もありそうだ。

制度としては、賭け事の種類や賭け方は列挙方式で、限定的に認めることが諸外国でも通例になる。
大きな枠組みとしての賭け方の種類と考え方のみを規定し、詳細なルール策定は事業者に提案させ、認可することが多い。
但し、政府・地域によっては何でも認めるということは無く、一部の賭け方を禁止対象とすることもある。
一般的には試合のかなり前から胴元がオッズを掲示し、試合の直前迄、顧客の賭けを胴元がアクセプトする方式(試合前、Pre-Game Betting)と試合が開始されてから始まり、試合が終了するまでの間になされる賭けの方式(In-Play BettingないしはLive Betting, あるいはRunning Bettingともいう)の二つの類型がある。
これをTier1, Tier 2と定義することもある。
胴元の提示するオッズは顧客がこれに賭け、胴元が確認した段階で確定するが、オッズ自体は試合前も、試合後も環境の変化や顧客の賭け方の動向次第ではころころ変わる。
環境、天候、チーム・選手の状況や調子・ケガ、欠場選手等の変化で、勝敗や得点の可能性が変わりうるからだ。
オッズは勝ち側(favorite)と負け側(underdog)の両側(Sides)に異なるオッズの組み合わせや総得点が一定数以上か以下という組み合わせ等として提供されるが、顧客の賭け動向がどちらか一方に偏る場合、胴元は確実にオッズを変えバランスを取る行動をとる。
リスクとエキスポ―ジャーを軽減するためで、胴元にとり、どちらが勝っても一定の利益が確実に得られるオッズの設定を志向することが通例になるからだ。
顧客の人気はIn-Playの方が高い。
また欧州等ではIn-Playが事業者収益の80%になるという統計もある。

一方米国の州の中には、Pre-gameのみを認め、In-Playを認めない州がある。
またIn-Play は認めるが、その中でのProposition Betting (Props)は認めない州もある。
かつIn-Playは認めるが、顧客同志の賭け事になるベッテイング・エキスチェンジ(Betting Exchange)は認めないという国・地域もある。
In-Playは射幸心を煽り、顧客の依存症傾向を高めるリスクがありうると共に、不正のリスクが高まるとする意見があるからだ。
Proposition Bettingも同様に、選手個人のPerformanceが賭け事の対象となる場合、不正や八百長のリスクが高まりかねないという理由による。
Betting Exchangeは、胴元はコミッションを取るのみで、顧客同志の賭けとして、顧客がオッズを提供し、別の顧客がこれをアクセプトするという株式市場の如きものだ。
専ら顧客のリスクヘッジ等に用いられるが、顧客同志の取引となるためやはりマネーロンダリングや不正のリスクが高くなりうるといわれている。
勿論かかるリスクは適切なシステムによるモニタリングにより回避可能とする考えもあり、意見の分かれる所だ。

In-Playは基本的にはオンライン、モバイルでの賭け事が前提になる。
その特徴は極めて賭けのシクエンスの時間が短いということだ。
Pre-Gameの賭けは試合の数週間前からじっくり過去のデータを、時間をかけて検証し、試合直前迄に賭ければいいのだが、In-Playは試合開始後の状況の変化(得点、ポイント、選手交代、けが、天候等)に伴いオッズは数十秒単位で変わってしまうため、この時間内に判断することになる。
胴元は試合の施行者からのReal Time Feedにより試合の状況・環境変化に応じ、一定のアリゴリズムに基づき、オッズを頻繁に変えてしまうのだ。
賭けの判断をして、ボタンを押しても、確認が来る迄にオッズが変われば賭けは成立しない。
また試合の終盤で結果が見えそうになると賭け行為はブロックされてしまう。
顧客にとり、Pre-Gameの賭けの判断が明らかに不利になった場合、In-PlayやBetting Exchangeで損失をヘッジできるというメリットもある。
顧客もTVやSNS、スマホ等の画像視聴により賭けの判断をするのだが、この場合には、現実の試合と比較し、微妙な時間差が生じると言われている。
これを悪用すれば不正行為になると共に、顧客にとってみれば時間差が有利になる人と不利になる人が生じることになり、公平さ、公正さに問題があると指摘する声もある。
また顧客が複数事業者のオッズをソフトウエアを用いて比較し、弱点を見つけて、コンピューターによる集中的な賭け行為により、利益を確実にするという不正も行われることがあるようだ。
勿論かかる不正を防止するために、事業者側もシステムにより常時賭け金行動をモニターし、おかしな顧客の賭け金行動をブロックできるような仕組みも存在する。

スポーツブッキングの面白さと人気、市場の急速な発展と拡大は、スポーツ試合の進行に伴って、様々な賭けをスポーツと一緒に楽しむことができることにある。
勿論これで一攫千金等は狙うことはまず難しく、そこそこの金額で、広く、薄く楽しむことがその面白さだ。
不正、いかさま等は限りなく防止できる仕組みは存在するが、リスクを過大評価し、賭け事の手法や可能性を制度的に限定してしまう場合には、スポーツブッキングを大きな市場へ発展することはできなくなる。

(美原 融)

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