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2022-09-05

173.スポーツブッキング ⑦プロとアマ(3)日本の課題?

一国の中で如何なるスポーツ種をどう賭博行為の対象にできるかに関しては、国によっては複雑な利害関係が存在し、この調整が全ての前提となる。
よって、単純には決められないことが多い。
嫌がるスポーツ団体・組織がいれば、何をやろうがおそらくうまく機能せず、まず実現できない。
賭けの前提となるオッズを決めるためには、過去のチームや選手の履歴データや様々なデータ、映像等が絶対必要で、この使用にはスポーツ団体・組織の同意が必要になると共に、その権利の対価をどうするかという議論が生じてしまうためだ。
この権利を制度的に認知するアプローチもあれば、私契約上の権利義務関係として処理するアプローチもあるがどちらにも一長一短がある。
では日本の場合、どんな可能性と課題があるのであろうか。
またこの場合、何を考えるべきなのか。

例えば下記の様な問題がある。

  1. サッカー競技を対象とした予想系のTotoは、オッズを提示しないパリミュチュエル賭博でもあり、オッズを施行者が設定するスポーツブックとは異なる。
    スポーツブックの対象としてサッカーを含める場合、現状の施行者である独立行政法人にこれを担う能力・経験があるとも思えない。
    ではこれを名目的な施行者に留め、実質的な胴元の機能を専門事業者に下請けにすれば良いではないかという意見もあるかもしれない。
    但し、免許を受け、胴元となる主体は単一であるべきで、輻輳化することは好ましくない。
    効果的な規制ができないからだ。
    ではサッカーのスポーツブッキングは現行のToto賭博とは異なるという理屈で、この独立行政法人から切り離し、免許制の下で新たな民間事業者にやらせることができるのかという課題がある。
    利権を握っている人達は強烈な反発をするだろう。
    サッカーは人気があり、スポーツブッキングに最も適合的なスポーツとなるため、どういう形でこれを取り込むことができるかは大きな課題になる。
    プロバスケットボールも似たような問題を抱える。
  2. 我が国ではアマチュアスポーツを賭けの対象にすることは米国以上に感情的な反発が生じる可能性がある。
    勿論全てのアマチュアスポ―ツではなく、国民の人気が高いスポーツ種・全国試合・国際試合のみを対象とすべきなのだが、こんなことを言い出せば学校関係者は騒ぎ出し、管轄する文部科学省も確実に弱腰になるか沈黙してしまう。
    本来スポーツに係る商業活動から学生を如何に守り、不正やいかさま、悪を遮断するにはどうするべきかという論理的な議論が必要なのだが、わが国ではやらせない、見せない、聞かせない、近づけさせないというパターナリステックな感情的議論が横行してしまう。
    一部学生スポーツ(高校野球、大学野球、サッカー、ラグビー、箱根駅伝等)は国民の関心も高いイベントで限られた試合等は考慮の価値もあるのではと思うが、学生スポーツは神聖なものと断定する教育関係者も多く、このハードルはかなり高い。
    尚、アマチュアスポーツ界の構図はかなり複雑で、スポーツ庁と傘下の独立行政法人が中央の競技団体・組織を束ね、その下に地方組織がぶら下がっている。
    政策的にはスポーツ庁によるトップダウンの構図になるのだが、誰とどう合意形成を図るのかはかなり複雑になる。
  3. プロスポーツは関連スポーツ団体や組織が賛意を示し、協力するか否かが唯一最大のハードルになる。
    プロ野球は国民の知識や関心も高く、スポーツブッキングの対象となれば爆発的人気になる、一方、プロ団体を纏める各リーグは、現状はどうも消極的で、火中の栗は積極的に拾いたくないといった所だろう。
    80年前の八百長黒い事件への思いや国民の反応を気にしているのだ。
    相撲は国技だが、仲間内のいかさまや八百長が過去何度も疑われたことのある興行でもあり、スポーツブッキングの対象にすれば試合の公平性や健全性自体が問われかねない側面もある。
    その他可能性の高いプロスポーツ種も多いのだが、スポーツ団体・組織毎に固有の問題を抱えている。
    プロスポーツの全国的な団体、リーグ、チームの関係も単純ではなく、一部ガバナンスに問題のある上位団体等も散見され、誰とどう合意形成を図るのかに関しても大きな課題がある。
  4. 一方、国際的なスポーツイベント・試合等をスポーツブッキングの対象にするのはどうであろうか。
    例えばオリンピックだ。
    眉を顰める人もいるかもしれないが、オリンピックも完璧に商業化されているし、さる東京オリンピックの際は、米国だけで二千万人が賭け事の対象にした一大イベント(米国ゲーミング協会調査情報)なのだ。
    日本ではこの事実が知らされていないだけで、日本人だけが蚊帳の外に置かれていたにすぎない。
    国際オリンピック委員会もデータ供与や不正防止モニタリング等の目的でデータ分析会社とのパートナーシップを締結しており、しっかりと費用を負担させたり、何らかのフィーをとったりしているのかもしれない。
    国際的なスポーツ試合を賭け事の対象にした場合、胴元と主催者とが保持すべき関係性の一般的慣行は未だ存在しない。

当面は一部のプロスポーツリーグや国際的スポーツイベント・試合等に対象を限定し、関係するスポーツ団体・組織の賛意を段階的に得ることが実現への道筋なのかもしれない。
もっともこうなると関連スポーツ団体・組織の関与の在り方や財政支援の在り方等の議論は避けて通れない。
もし省庁が上からこの配分に関与するという仕組みを前提にせざるを得ないことになれば問題は更に複雑化する。
かつこれはスポーツを巡る八百長やいかさま、不正、汚職等をどう防ぐかという議論と一緒でなければダメで、これにもスポーツ団体・組織の積極的な関与・協力が必要になる。
勿論スポーツ種毎にこれら事情は変わるのかもしれない。

(美原 融)

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