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2024-01-15

243.スポーツブッキング 公租公課⑧名目税率と実効税率(2)

スポーツブッキングに関する新しい市場が創出される場合、如何に沢山の顧客を囲い込むことができるかが、事業者にとっての競争上の要点になってしまう。
米国では税法上の控除があるかないかは別として、全ての州において、事業者間での熾烈な市場争奪戦が生じ、過剰なほどのフリーベットやボーナス等の対顧客インセンテイブ供与競争が生じたことが事実である。
税前控除が認められない場合には、単純に課税の対象になるだけで、事業者の収益がそれだけ悪化し、税収も減ったりするという結果をもたらす。
正確な公表データはないが、全米で平均するとスポーツブッキング事業者の総収益(GGR)の約30%はPromotional Creditから生まれているという。
これは架空の収益でもあるわけで、公表されているGGRによる市場規模統計値は正確性に欠けることになる。

非営利団体であるTax Foundationは2022年に主要な州の実態を公表している。
これによるとニュージャージー州は総租収益(GGR)が$13.5憶㌦で税収は$1億6950万㌦になる。
名目税率は対面が8.5%、モバイルが14.25%で実効税率は(1.695÷13.5=)12.5%だから若干減少するレベルになる。
ペンシルベニア州は総粗収益(GGR)が$7.668億㌦で、税収は$1.888億㌦、名目税率は36%だが実効税率は24.6%になり、かなり減る。
ミシガン州では総粗収益が$2.644億㌦、税収は820万㌦に留まり、法定税率は9.65%(州8.4%+市1.25%)だが、実効税率は何と3.4%という低レベルになる。
コロラド州は総粗収益(GGR)は$2.644億㌦、税収入は$1190万㌦で法定税率はGGRの10%だが、実効税率は僅か4.5%に過ぎず、半分以下でしかない。
上述中コロラド州、ミシガン州、ペンシルベニア州の事業者等は何と収益の半分に相当する額を広告宣伝費(Promotional Expense)として支出したということになる。
一方、イリノイ州は総粗収益は$5.384億㌦で税数は$8540万㌦で法定税率は17%(州15%+市2%)だから実効税率は16%になり、あまり大きな差異はない。
インデイアナ州は総粗収益(GGR)が$4.603億㌦で税収は$4380万㌦で法定税率は9.5%で、この場合は実効税率と一致する。
ニューハンプシャー州は州政府直営モデルで、総粗収益$5870万㌦に対し、税収は$2900万㌦で法定税率は対面50%、オンライン51%)で実効税率もほぼ同じレベルであることが解る。
これらの州は過剰なインセンテイブ付与を認めていないからだ。
ニューヨーク州は全米最大のスポーツブック市場になるが、フリーベットやボーナス等のインセンテイブは禁止されてはいないが、税前控除を一切認めていない。
ところが実際の事業者は競争の結果、巨額のフリーベットやボーナス等を潜在的顧客に供与しており、これら金額はGGRに上乗せされ課税されるため、逆に法定税率51%を上回り、77%程度になる!という。

全ての州でデータが公表されているわけではないが、一部の州ではフォーマット別(対面ないしはオンライン)、事業者別に各月毎に税収のベースとなる基礎データをPromotional Expenseの金額を含めて開示している。
ペンシルベニア州は、賭博種毎、事業者毎に毎月、上記を計算できる資料を全て公表している例外的な州だ。
これによると、対面に関してはPromotional Expenseは相対的に金額として低い。
既存のカジノ施設等を訪問する顧客がスポーツブックをも楽しむケースが多いため、顧客獲得のためのPromotionを左程必要としないのだろう。
これに対し、オンラインのケースでは、常時売り上げの30%から50%に達する高いレベルのPromotional Expenseを支出しており、これが常態化していることを理解できる。
もっとも最近の月、2023年10月のペンシルベニア州全スポーツブック事業者の総括データでは、Handleは$9.341億㌦、総粗収益(GGR)は$4914万㌦で供与したPromotional Creditは$3626万㌦である。
これは何と収益の73%相当分になる。
課税対象収益は(4914-3626=)$1288万㌦になり、税収は州税(34%)が$438万㌦、市税(2%)が$25.7万㌦という具合だ。
実効税率は何と8.9%でしかない。

上記は一部の州では、フリー・プレーとボーナスをふんだんに顧客に提供し、熾烈な顧客の囲い込み競争が新たな市場で展開し、これが現在も続いていることを示唆している。
但し、いくらなんでもこれは法のループホールを悪用したスポーツブッキング事業者の過剰な行為でしかなく、かかる行為は本来認められるべきではあるまい。
問題の本質は顧客に対するインセンテイブにあり、この金額が顧客に現金として支払われるわけではなく、かつ事業者にとり全額税前で費用控除でき、事業者にとっての負担が無いという考え方自体にある。
事業者にとってみれば痛くもかゆくもないわけで、税制を活用し、当面の収益も無視し、例え赤字になっても圧倒的に多数の顧客を囲い込むことができれば、中長期的には必ずペイするという戦略なのだろう。
控除可能な上限額を設定しても、事業者はコストをかけても同じ慣行を継続する可能性がある。
追加的な税負担を覚悟しても、新たな顧客を募ることが長期的な採算に見合えば、規制があってもかかる競争は生じてしまうからである。
かかる背景があるため、米国の各州のスポーツブッキング税制は、税務会計レベルの実務要項迄精査しない限り、具体の税の実態やその効果を把握することはできないのが現実だ。
名目的な税率で税が高い、安い等を議論しても意味がないことになる。
果たしてかかる有り様は健全といえるか否か懸念とするところだ。
尚欧州諸国ではフリー・プレーやボーナス付与は禁止されているわけではないが、無制限ということはなく、かなり厳格に規制の対象とされており、米国のような状況は生じていない。

(美原 融)

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