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2024-01-01

241.スポーツブッキング 公租公課⑥課税手法(Point of Consumption Charges POCC)

ニュージーランドの課税手法は考え方が独自で特筆に値する。
若干議論が離れてしまうが、以下考察してみたい。

ニュージーランドも制度的枠組みとしてはオーストラリアに類似している。
同国ではインターネットを利用する遠隔賭博(Remote Gambling)は制度的には明示的に禁止されている(2003年賭博法、2015年同法改正、Gambling Act 2003 Gambling Amendment Act 2015)。
例外は国自身ないしは国の機関がオンラインを利用して提供するロッテリーくじ(NZ Lottery)や競馬(TAB)等のみでこれらはオンラインを手段として利用し、提供できる。
オーストラリアと同じ考えだ。
これ以外のオンラインによる国内での賭博の提供や、広告等は禁止され、かかるオンラインによる違法な活動に国民が参加することを禁止する規定が上記法律にはある。
もっともこの規定はあくまでも国内に物理的な施設をもち、そこからサービスを提供する事業者(Venue Operator)を規制の対象とする法令で、この事業者と国民との関係のみを規定する。
よって法律のループホールみたいなものだが、海外オンライン事業者がニュージーランド市民に対しネットを通じて賭博行為を提供することを規制する法令ではない(事業者は海外故、国内法の適用外になる。
ニュージーランド市民がこの海外オンライン賭博やスポーツブックに参加したところで、市民を罰する法律は存在しない)。
勿論ニュージーランド国内で賭博行為のプロモーションをすることは海外のオンライン事業者を含めて禁止されている。
よって、スポーツブッキングも海外オフショア事業者が、オンラインで海外からサービスを国民に提供すること自体は規制の対象にはなっていない。
尚、ニュージーランドの制度は、制度としてはあくまでも事業者を規制するもので、利用者(国民)ではない。
国民は自己責任で遊ぶ分には特段これを規制の対象にしないということでもある。
 
勿論これは規制の対象にならない外国の企業が、課税もされずに、国民にサービスを提供し、国民がそのサービスを購入していることを意味する。
ニュージーランド政府にとり税収が遺漏しているわけで、好ましいものではない。
サービス提供はニュージーランド国内でなされ、その対価を国民は海外事業者に何らかの方法で支払うが、対価を得た事業者は何らの課税対象にもなっていないからだ。
当該行為が違法であろうが、合法であろうが、サイバー世界を通じ、サービス行為、消費行為がニュージーランド国内でなされている以上、サービスが提供され、消費された時点・場所(Point of Sales、即ちニュージーランド国内)において一定の税を海外事業者にも課すべしという考え方がでてくるのも当然で、これをニュージーランドでは消費地点課税(Point of Consumption Charges、POCC)と呼称している。

この税徴収の考えは2021年競技産業~オフショアからの賭博消費税~規則(Racing Industry ~off-shore betting-consumption charges~ Regulation)により、国内賭博事業者をも含む形で制度化され2021年8月から施行されている。
仕組みとしては海外からニュージーランド国民に対し、オンラインでスポーツブック等を提供する海外事業者(off-shore betting provider)は、予め内務省(Department of Internal Affairs)に対し、一定書式で自らを登録する義務があることを規定する。
また同事業者は、スポーツブックの対象となる関連スポーツ団体組織と賭け情報使用許諾契約書を締結し、スポーツ団体へ支払うProduct Feeを取り決めておく義務がある。
税率は当該ニュージーランド国民による総賭け金から顧客勝ち分を差し引いた粗収益(GGR)の10%になる。
当該事業者は課税対象額を一定時の為替レートで外貨からNZ Dollarに換算し、3ケ月毎に当該GGRと課税額を申告、一定期間内に納税(送金)する。
関連する事業者がこの課税規定に違反する場合には、罰金が課せられる。
法の執行は内務省が担うことになっているのだが、海外にいる事業者に対し、登録、課税を義務付けているわけで、ニュージーランドには当該主体が存在しない。
これら課税額あるいは罰金は債権・債務として構成され、債権回収のために内務省が法的措置をとれることになっている。
但し、どう効果的に法の執行がなされるのかに関しては懸念も多い。
立法過程でもこの懸念は議論されたが、様々な手法を組み合わせれば、不可能ではないのかもしれない(登録しない事業者がニュージーランド国民にオンラインで提供する場合は、当該サイトを特定し、摘発、プロバイダー経由このサイトをブロックし、アクセスを禁止し、徹底的に排除する。
事業者が一端登録すれば様々な手法でデータや報告を徴収し、納税行為を監督モニターし、外国事業者がもし滞納すれば、民事で債権回収を図るということであろう。
当該国で私的に債権回収を図るわけだ)。
尚税収の内2.5%は依存症問題の戦略を担う省庁へ配分し、5%はRacing Integrity BoardとSport &Recreation New Zealandの廉潔性担保支出のために配分、残りもRacing Integrity Boardと Sport & Recreation New Zealandの長期的な持続可能性維持のための支出として配分される。

国民が海外オフショア事業者のサイトにオンラインでアクセスし、賭博サービスを享受すること自体は禁止とはしないが、サービス提供が国内でなされていると判断される以上、かかる海外オフショア事業者に登録義務を課し、しっかりとPoint of Consumption Chargesのみは徴収するという発想は極めて面白い。
勿論海外事業者からどう効果的に税を徴収できるのかという実務上の課題はあるし、これは国民を違法サイトからどう保護できるのかという問題と密接に絡んでくるのでことは単純ではない。
但し、放置して何もしない国の態度よりは、余程合理的な考え方になる。

(美原 融)

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