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2023-12-18

239.スポーツブッキング 公租公課④課税手法(Gross Handle課税)

一方、粗収益(GGR)に対する課税ではなく、顧客が賭け金を賭ける毎に、その賭け金に対し、毎回税を徴収するという考え方もある。
即ち、顧客総賭け金額(Gross Handle)を課税対象にするわけだ。
付加価値税や消費税と同様に、取引額に着目し、顧客が金銭を賭けた段階で、この賭け金に対し税を課し、事業者を納税義務者として税を課すことになる。
結果的に顧客の勝分(顧客に支払う分)をも課税対象としてしまうわけで、事業者から見れば当然高率税となる。
フランスでオンライン賭博を制度として認めた際、当初はこのHoldを課税対象としたが、高率過ぎるとして事業者の猛反発をくらい、後刻制度改定により粗収益(GGR)をベースとする枠組みに変えている。
米国でもテネシー州のみがこのHandle課税を採用している。
当初はGGR課税(20%、2019年4月)だったのだが、制度上事業者のHold (Handleと顧客へのPayoutの差)を10%に維持する義務を課す条項(満たせない場合は罰金)があり、過半の事業者がこれを達成できず最初から罰金刑となり、強硬な反発が業界からあった。
この結果、2023年5月に法改正がなされ、このHold維持義務は廃止され、GGR課税ではなくHandle課税(Gross Handleの1.85%)へと変更された。
極めて解り難いが、Hold維持義務をなくすかわりに、実質的には増税をしたことになる。
常識的にはスポーツブック事業者のHoldレベルは5~8%程度になる。
もし事業者のHandleが$1000でHoldが8%であったとすると、Holdは$80だ。
Handle課税は$1000x1.85%=$18.5になり、$18.5÷$80=23%がGGR換算した税率に近くなる。
興味深いのは同じくHandle課税である連邦物品税(後述)は上記の計算上は控除できる。
一方Promotional Expense(販売促進費用)等の控除は明確に不可と規定されている。
これでは更に実効税率は上がってしまう。

この顧客総賭け金額(Handle)に対する課税手法は何と米国には歴史の遺物?として州政府ではなく連邦税として未だに存在する。
1951年歳入法(Revenue Act of 1951)に規定されたスポーツブッキングに対する物品税(Excise Tax)だ(26 USC 440, 26 USC4411)。
これはネバダ州を含む4州では制度的に認められていたが、その他の州では合法化されていなかったスポーツブッキングが全米で横行してしまった事情に鑑み、これを実質的に規制し、抑止するための課税行為が制度創設の目的でもあった。
税を納めない違法事業者を起訴できる法的根拠としようとしたわけである。
よって税収を得る目的ではない。
現状の税率は州政府が制度として認知している場合は、総賭け金の0.25%、認知されていない場合には総賭け金の2%という税率の連邦税(Excise Tax)になる(当初は10%と禁止的に高い税率だが1982年に0.25%に減額されている)。
その後1992年の連邦PASPA法(プロアマスポーツ保護法)成立に基づき、上記4州を除く全ての州でスポーツブッキングは禁止の対象となったため、この連邦税は見向きもされなかった。
ところが、2018年連邦最高裁によるPASPA法違法判決に基づき、以後州政府の判断でスポーツブッキングの制度化が可能となり、あれよあれよという間に既に36の州でスポーツブッキングの制度が設けられ、施行されている。
これに伴い、忘れていた70年前の昔の法規定が、内国歳入庁にとり期待もしてなかった税収増をもたらしたことになる。
尚追加的にスポーツブック運営事業者の従業員に対し、年$50の人頭税が徴収される。

実はこの賭け金総額の0.25%とは一見税率としては低そうに見えるが。
税額としてはかなりの額になるため大きな問題となってしまった。
前述のテネシー州の事例を見てもわかるが、同じようにGGRベースに引き直し計算すると、これは総粗収益(GGR)の5%に相当しうる。
これに州政府による粗収益課税が6.75%~51%課されるわけで、事業者から見ればとんでもない高率課税ということになる。
前世紀の遺物みたいな連邦税がある日突然息を吹き返したということになるのだろうが、州政府も事業者も当面この課税を慣行として認めてしまっている。
業界団体の米国ゲーミング協会(AGA)は連邦議会議員を動員し、強力な関連法廃止に向けてのロビーイング活動をしている。
2021年には連邦議会に法案HR2350号(2021年差別的ゲーミング税廃止法案)が連邦議会に提出されたが(1986年内国歳入法135章、サブタイトル8のDを廃止するという1文だけの法案)のだが、未だ採決の対象にはなっていない。
理論的には他の法律の中に組み込んで通してしまうということはできるのだが、連邦税法の改正となると結構ハードルも高く、そう単純に事は運びそうもないといったところだ。

もっとも興味深いのは州政府自体のエージェンシーが自ら胴元としてスポーツブッキングの独占的施行者になる場合には、連邦物品税の課税対象外になる。
この場合、州政府のGGR課税率が高くとも、他の州と比べると、一部はオフセットされるということなのだろう。
問題をさらに複雑化させているのは、この課税に対する各州の個別の制度的対応だ。
連邦物品税は確かに高いし、無用の長物、事業者の負担を増すばかりと考える州は、この連邦税を自州のGGR課税算定に際し、税相当額を費用控除することを認める州(例えば上述のテネシー州)がでてきている。
これは州の税収が減少しうることを前提に、事業者の負担を少なくする効果がある施策になるが果たして適切といえるかに関しては懸念もある。
国の制度としてはかなり矛盾した側面もあるのだが、国としてこれら制度を見直し、この混乱を少しでも収斂させていくという動きは当面米国ではみられそうもない。

(美原 融)

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