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2023-11-27

236.スポーツブッキング 公租公課①デザイン

新たな賭博制度を一国や地域に導入する場合、公租公課をどうデザインするかは大きな課題になる。
制度構築の政策的目的は新たな財源を確保することであったり、一国や地域にとっての経済的好機を逃さず取り込んだりすることでもあるからだ。
公的主体にとってみれば、税収は多ければ多い程好ましいことになる。
勿論前提となる制度の考え方や市場の規模・環境等をどう認識するかによってもこの考え方は異なってくる。
特定の主体に免許を与え、特権的な事業を委ねる制度を考慮の前提とする場合、市場環境や事業者の許容度の範囲内で最大限の税収をどう確保できるということが、制度を設計するアプローチの基本となるのだが、市場環境や制度次第で考え方を修正せざるを得なくなるということもありうる。

下記要素がかかる判断を左右する。

  1. 対象となる国・地域の市場規模:
    過去実績の無い国・地域において新たな賭博サービスを提供する場合、潜在的市場規模を予測し、把握することが全ての前提になる。
    この場合、対面施設(Retail)のみが対象となる場合、特定場所・地点での提供になり、市場は限定される。
    一方、オンライン・モバイルを前提とする場合には、地理的制約やアクセス制限が無いため、一国や地域全体が潜在的市場になると共に、24時間継続的なサービス提供ができる為、規模の前提が遥かに大きくなる。
    また人口が多い国・地域は当然売り上げも多いが、人口の少ない国・地域のみでは売り上げも当然小さくなり、税収規模も小さくなる。
  2. オンライン・モバイルと対面施設の選択肢、提供できるスポーツ種・賭け方の多さ:
    オンラインのみを前提に制度を構築する制度もあれば対面施設のみ、あるいは両方を認める制度もある。
    オンラインの売り上げと対面施設からの売り上げには大きな乖離が生じるため、各々異なる税率を適用する場合が多い。
    当然のこと乍ら、オンラインは市場規模が大きく、売り上げも大きくなるため税率は高くなる。
    一方対面施設での税率はカジノ等の既存の施設で施行されることが通例となるため、他の賭博種と同等の税率にすることも多い。
    また提供できるスポーツ種や様々な賭け方の提供等サービスの範囲が広ければ広い程、顧客を集められ、売り上げが増大する効果がある。
    尚、スポーツブッキングもiGaming(カジノ等のオンラインゲーム)も同じRemote Gamblingとして同じ税率を適用する国・地域もある。
  3. 競争環境に関する基本的な考え方:
    市場規模が小さい場合、競争を制限し、事業者数を限定するか一社独占市場とすることが得策な場合もある。
    この場合、独占企業に対し、より高い税率を課すことができる。
    一方、複数の事業者を許容できる市場の大きさが十分にある場合、競争的市場であっても、より高い税率が市場により許容されることもある。
    市場が大きければ、売り上げも確実に伸びることが想定され、高い税率も許容できうるからである。
  4. 課税対象額に関する選択肢の在り方:
    課税対象となる金額は、(顧客の賭け金総額)-(顧客の勝ち分)-(制度的に控除できる金額)が基本で、これに一定の課税率を乗じて税額を計算する。
    他の賭博種における粗収益(GGR)と同じ考え方になる。
    稀だが、顧客の賭け金総額(Handle)を課税対象とする国や地域も一部存在する。
    賭け金に対し、一種の付加価値税を賦課する考え方になるが、これでは顧客の勝ち分にも課税することになり、粗収益を対象とする場合と比較し、税率は低くとも税額はかなり高くなる。
  5. 事業者支援税制の考え方:
    一国・地域の政策次第では、顧客を誘引し、市場を拡大するために事業者に対する誘引施策を制度的に認める場合がある。
    典型的なのは事業者による顧客誘引施策(例えばフリープレイ等無償で賭けさせる特典を顧客に提供したり、顧客にボーナスを提供したりする場合等で、これらを課税対象となるGGRから控除することを特例として認める制度等である。
    この場合、顧客にフリープレイを提供するとこの分が税務上控除の対象になれば、課税所得対象額(Taxable Income)が減るだけであり、これに比例して公的主体の税収は減る。
    税を払うより顧客に誘引を与え無料の賭け金を提供した方がいいという事業者がでてきてしまう結果をもたらすことになる。
    顧客を囲い込むことが最良の戦略となるからである。
    この他損失繰り延べ期間の延長等の施策がとられることがある。
    これも課税所得対象額を減らす効果がある。
  6. 規制の厳格度・柔軟度:
    何を何処まで認めるかという規制の程度、深さ、範囲次第では、事業者の裁量も、収益の可能性も大きく変わりうる。
    制度や規制は事業者にとり収益追求の制約となりうる。
    どう規制の枠組みを設計するか次第で事業の収益レベル・行政にとっての税収レベルも大きく変わりうる。
  7. 免許・登録・更新料と粗収益課税:
    行政府にとっての税収とは、当初民間事業者が免許申請時に支払うべきアップフロントの申請料、免許取得時に支払うべき免許料、1~4年の免許期間更新時における免許更新料等になる。
    申請料や免許料を高く設定する国・地域もあるが、アップフロントでの大きな負担は事業者にとり参入意欲を低下させる効果がある。

全体の構想を考える過程で、公的主体にとっての税収の可能性を考えることは極めてCriticalな課題になり、全体構想の骨格を左右しかねない。
市場の規模や可能性を考慮しつつ、事業者の担税力、許容度を斟酌し、具体の税徴収の枠組みを考えることになる。
この現実は各国・地域毎に全くバラバラで、ここに共通的な要素を見出すことは現実的には難しい。
特に米国では制度が州毎にバラバラに制定されているため、税の考え方も全く整合性が無いのが実態だ。

(美原 融)

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