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2023-11-20

235.違法オンラインサイト:日本の事情③

警察庁の広報によるとオンライン賭博に関わる賭博事犯は、過去3年間では2020年度中16件、121人、2021年度中16件、127人、2022年度中10件59人とある。
これを多いとみるか少ないとみるかは意見の分かれる所だが、想定される闇賭博市場の大きさから見るとやはり実際の検挙数は圧倒的に少ない。
この実態は国会答弁であきらかになったが、そのほとんどがネットを使用する有店舗のインカジになる(第211国会衆議院消費者問題に関する特別委員会、令和5年3月30日、4月4日)。
これは暴力団が組織的に大都市等で展開しているもので、様々な情報を収集し、時間をかけて内偵し、証拠を固めた上で、営業中に捜査員が大挙して踏み込み、顧客と共に一網打尽に逮捕するというケースがほとんどだ。
一般顧客が逮捕される事例が多いのは、実際に賭博行為の最中に踏み込み、物証を押さえ、現行犯逮捕となるからである。

一方、個人が自宅等からスマフォ、パソコン等を利用し、海外オンライン賭博サイトにアクセスすることが逮捕事案に繋がったのは、これまで二件しか存在しない。
2016年の事案(京都府警、スマートライブカジノ事案)はチャットやブログでプレイを再生、これでカジノ側から一部報酬を受けた顧客(顧客というよりも、これではアフィリエートだ)がサーバーは外国にあるが実質的に日本からサイトを管理していた事業者と共に逮捕されたもので、Web上に明らかな証拠が存在し、SNS運営者への情報開示請求により本人特定がなされたという背景がある。
2023年の事案(警視庁、愛知県警、福岡県警合同捜査本部、SumoPay事案)はオンラインカジノ決済代行事業者を逮捕するために、一般顧客の賭博参加を幇助したという理由により、まず対象顧客に関わる何らかの情報を得て顧客を特定し、同時に決済代行事業者を逮捕した事案になる。
いずれもかなり特殊な状況の案件で、SNS等で賭博行為の証拠を配信していたことが端緒になったり、明らかに違法行為となる為替業務を無許可で行っていた事業者が、その顧客に関わる情報を端緒として逮捕されたりした案件でしかない。
なぜ立件・逮捕件数が少ないのか、警察当局は本当に取り締まりを強化しているのか、「やってる感」を出しているだけで、ポスターによる周知徹底程度で大丈夫なのかという質問が上記国会での質問でもあった。

警察庁の公式見解は全国の都道府県警察に対し、この部類の事犯の実態解明や取締りを更に強化するよう指示し、引き続き、各都道府県警察において適切に捜査が推進されるよう指導しているというものだ。
上が「指示」、「指導」といってもやらされるのは現場だ。
現実を正確に理解するためには、構造的な課題の存在に目を向けるべきだろう。
オンライン賭博事案の所管は各都道府県警察の生活安全課になる。
勿論複雑な場合にはサイバー対策課や別部署との共同捜査になるのだが、基本的な捜査単位は地方になり、国の機関(警察庁)が全ての事案を統一的に管理しているわけではない。
また都道府県警察毎にリソースと捜査の重点のかけかたは異なる。
限られた人員故、どうしても悪質な犯罪案件に焦点がいってしまう。
かつ犯罪を立件するためには、都道府県警察が各種捜査活動を展開して必要な証拠を収集する必要がある。
賭博行為はそもそも被害者のいない犯罪でもあり、基本的に証拠を集めにくい。
誰かが被害を被ったり、損害を被ったりしたわけでもなく、端緒情報を収集したり、犯罪の手口を把握したり、実際の仕組みを正確に把握すること自体がそもそも難しいのだ。
例えば一般庶民が違法オンライン賭博でアクセスし、実際に遊んでいる場合、IPアドレスをリアルタイムで特定し、利用者が誰かを等特定することはできないし、意味がない。
後刻これを検証しようにもあまりにもハードルが高すぎる。
結局検挙に至るのは、他事件の捜査情報や組織犯罪との対応等で得られる情報やタレコミ情報、通報等から、組織的な違法行為の端緒をかぎつけ、時間をかけて証拠を集め、立件に至るという事例がほとんどになる。
サイバー世界ではあたかも無法地帯の様に海外事業者が顧客を募っているが、外見的に明らかな違法行為であっても、都道府県警察が簡単に立件できるほど単純ではないということに尽きる。
法と証拠に基づき立件できなければ意味が無いのだ。
一方、全てではないが一部の決済代行事業者やアフィリエートは法の網をかいくぐり、fin-tech手法により巧妙な手法を採用しており、グレーゾーンが増えている。
これに対しては、現実を正確に把握し、やはり何らかの制度的対応や規制により、何が認められ、何が規制されるかを明確にすることが必要だ。
一方、警察当局にとり、賭博行為に客として参加する庶民は(余程の事情が無い限り)時間をかけ、証拠を集めても立件価値がどの位あるのか解り難いのが本音だろう。
例え立件し、逮捕に至っても単純賭博罪として略式判決か書類送検で処理されるのが通例で、本来賭博行為に参加する顧客に対する犯罪は微罪でしかないからだ。
勿論個人としては犯歴に残ってしまう故、違法行為には加担しないことが得策ではある。

河野大臣は上掲の国会質疑で、オンライン賭博は犯罪、一般国民に対してはこの事実の啓蒙・啓発が得策で、対処の方法はひとえに警察庁が「覚悟と体制」を示すことにかかっているなどと発言した。
「覚悟」では精神論に過ぎず、これだけで問題が解決できるとも思えない。
政治家が考えるべきは「覚悟」をさせるために必要かつ十分な制度的措置と組織体制を組むための財政的措置ではないのか。

(美原 融)

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