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2024-05-07

260.スポーツブッキング 広告規制⑦豪州事情

豪州の賭博関連広告に関する制度的なフレームワークはかなり複雑で、連邦法、州法、民間による自主的な行動規範等が輻輳的に絡んでくるのが実態になる。
連邦放送サービス法(Broadcasting Service Act, BSA)はTVラジオを規制する法律となるが、国の機関である豪州コミュニケーション・メデイア機構(ACMA)と民間事業者が連携し、行動規範(Code of Practice)を作成、ACMAがその執行を担うという役割を規定している。
もっともACMAは広告宣伝のコンテンツ迄立ち入る権限はない。
一方業界団体である豪州広告業協会(AANA Association of National Advertisers )も倫理及び賭博広告関連規範(Code of Ethics & Wagering Code)を別途定めているとともに、州政府も賭博関連広告に関しては独自の部分的な規制・制度を設けているという次第だ。
例えばスタジアムの広告とか選手のユニフォームへの広告掲載等は州政府の規範に基づくのが一般的になる。
誠にややこしいが、英国に倣い広告規制は民による任意的な自主規制を基本とし、所管大臣(Communication省)の下に連邦の機関であるACMAが監督しつつ、放送業の実践規範(Industry Code of Practice)に基づき自主規制がなされているというのが大枠になる。
この大きな枠組みの中で抽象的・概念的に広告業が担うべき倫理規範や行動規範が規定されているのだが、理念的な項目が多く、具体的ではないと共に、類似的な規範も多い。

一方、賭博行為へと誘う様々な媒体を通じた広告・宣伝の在り方は倫理的な規範はあるが、曖昧な規定でしかなかったのが過去の実態である。
ところがスポーツ試合のTV,ラジオ、ライブストリーミング等の中継に際し、あまりにも大量のスポーツブック関連の広告・宣伝が洪水のようになされると、さすがにこれはやりすぎではという意見も出てくるのは当然だ。
かかる状態を野放図の儘にしてよいのか、責任ある広告・宣伝を保持するために何らかのより厳格な規制を設けるべきではないのかという議論はどうしても生まれてくる。
この声が社会的・政治的関心の対象となり、強くなってくると、議会でも問題視され、政権としてもこの政策課題を取り上げざるを得なくなったというのがオーストラリアの政治的・社会的構図になる。

2017年5月当時の労働党Turnbull政権は、放送業における包括的な改革パッケージを提唱、この中の一つの施策として、スポーツ試合のライブイベント中は、全ての放送媒体プラットフォームにおいてスポーツブック賭博関連広告・宣伝を規制する方針を明らかにした。
この政府方針に従い2018年には業界の自主規制となる放送業慣行規範(Broadcast Industry Code of Practice)が改訂され、その中で未成年が視聴者となりうる番組・時間帯(朝5時~午後8:30迄)における賭博関連広告掲載の中止やTV・ラジオにおけるライブスポーツ試合でのスポーツブック広告・宣伝の禁止等が取り込まれた(6.5 Betting & Gambling)。
これに伴い、1992年放送サービス法(BSA)が改正され、ACMAに対し、オンラインのサービスプロバイダーに対する規制監督権限を付与、2018年より放送サービス(オンラインコンテンツプロバイダー)規制(Broadcasting Services(Online content Service Provider) Rules, OCSP rules)が制定されている。
また豪州広告協会(AANA)は独自の内部規範を制定(Wagering Advertising & Marketing Commercial Code)した。
一部の州(NSW)ではこの民間行動規範の違反行為に行政罰を課す仕組みも生まれている。

これら様々な動きに喚起され、この問題は2022年に連邦議会でも取り上げられ、下院社会政策法務委員会(超党派の9人議員で構成)は2023年6月に「オンライン賭博による危害を経験した主体への影響に関する報告書(You Win Some, You Lose More)」を公表、公衆衛生政策の観点から31項目の採択すべき項目を纏め、政策案として政府に推奨した。
この内容は、オンラインによるスポーツブックがもたらす増大する危害を止める目的があり、①統一的な連邦政府規制機関の創設、②公衆教育、調査、治療等の危害防止の財源として事業者への年単位賦課金(Harm Levy)の徴収、③違法サイトの厳格な摘発、④より強い消費者保護施策(本人確認徹底、賭け行為誘引禁止、事業者による配慮義務等)等と共に、⑤あらゆる型式・媒体によるオンライン賭博・スポーツブックの広告の全面的禁止(Blanket Ad Ban)等になる。
この内、広告規制に関しては、激変緩和措置として3年間の移行期間を設け4段階で段階的にフェーズアウトすること等を提唱した。
即ち

  • → 第一フェーズ:
    全ての媒体におけるオンライン賭博に関する誘引・広告の禁止。
    商業的ラジオにおけるオンライン賭博広告は8:30~9:00AM並びに3:30~4:00PMの間(学童の学校への送迎時間)
  • → 第二フェーズ:
    スポーツ放送の最中並びに前後1時間は全てのオンライン賭博の広告とオッズのコメンタリーの禁止。
    全てのスタジアム内の広告禁止。
    選手のユニフォームのロゴをも含む
  • → 第三フェーズ:
    朝6時から夜10時迄全てのオンライン賭博広告の禁止
  • → 第四フェーズ:
    あらゆるオンラインギャンブルの広告並びにスポンサーシップの禁止

この委員会が提唱した大きな方向性に関しては、与野党も一致して支持しており、政府としても関連するステークホルダーと議論を重ね、委員会の推奨事項を考慮するという弁明が2023年7月にあった。
但し、現実問題としては全面的な広告禁止は非現実的と反対する意見も強く、果たして実現するのか否か、効果的な結果が得られるのかどうかは現段階では定かではない。
但し、一つの新たな政策的方向性であることは間違いなく今後どういう方向に決着するのかは注視する必要がある。

(美原 融)

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