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2023-10-23

231.違法オンラインサイト:規制の動き

米国の業界団体となる米国ゲーミング協会(AGA)は2022年4月に連邦政府司法長官に対し、海外からの違法なスポーツベッテイングの提供並びにオンラインカジノの提供は、既に急速に成長しつつある産業に対し、極めて深刻な脅威を与えているとして、連邦法による何らかの法規制の制定と効果的な法の執行を要請した。
スポーツベッテイングに関しては米国人の年間総賭け金額は$1000億㌦に達するが、その約40%は海外の違法賭博サイトに賭けられているとのことである。
違法スポーツブックにオンラインカジノや電子機械ゲームの違法海外サイトを加えると米国人の違法オンラインの消費額は$5100億㌦、業界にとり$442億㌦の機会損失、州政府にとり$133億㌦の税収遺漏に達するはずという。
無視できえない機会損失として、2022年6月29日には連邦下院議員28名がやはり連邦司法長官に対し、違法オンライン賭博事業者を告訴する措置を図ることを要請したが、これは民間事業者によるロビーイングの結果だろう。
もっともこれだけでは何も起こらない。
2023年5月4日にはミシガン州、ネバダ州、ミシガン州、コロラド州、イリノイ州、ルイジアナ州、ミシシッピー州の7州の賭博規制機関が連名で、連邦司法長官に対し、違法オンラインスポーツブック・カジノ事業者に対する対応に優先度をもって対応すべきことを陳情している。
後刻マサチュセッツ州の規制当局もこれに加わり、計8州の規制当局による共同したロビーイング活動となった。
スポーツブック許諾州が毎年増加し、市場が年々急拡大している環境の中で、一部海外の違法事業者は、米国での免許ももたず、あくまでも海外に設置されたサーバーから米国内の市民に向けてスポーツブックやカジノを提供し、廉潔性も透明性も不明、税金をも納めず、海外・サイバー世界というだけで規制の対象外とするのは極めて遺憾とうことがその主張になる。
尚、連邦司法省は、これら陳情、要請に対し、一切回答を控えたままである。

連邦議会においても、連邦法による立法化の動きが無いわけではないのだが、議論は全く深まっていない。
2019年12月18日にはHatch(共和ユタ)Schumer(民主NY)上院議員が超党派議員案として連邦スポーツブック市場廉潔性保護法案(Sports Wagering Market Integrity Protection Act)を議会に提出した。
この法案は、連邦政府が、州政府が定める州Sport Wageringプログラムを認証することで、州政府の自主性と独自性を尊重しつつ、国としての共通的な最低の制度的標準を設け、結果として連邦政府による違法行為摘発の権限強化と法の執行の実践を実現するということがその法目的になる(即ち州政府による管轄権限を削ぐ内容ではない)。
また依存症対策に充当する財源としてスポーツベッテイング税を連邦税として課すことも定めている。
新たな連邦法規定に拘わらず、既にスポーツブック法制を実践している州は連邦政府が州法を検証するが、そのまま継続的にスポーツブックを提供できる。
事業者はスポーツリーグによる免許の下で提供されるデータを使用する義務、また賭け事データや疑わしい取引報告等を受領し、情報を事業者、州規制機関、スポーツ組織、連邦・州政府の法執行組織間で共有するためのNational Sports Wagering Clearinghouseの創設をも提唱している。
その他、オリンピック、大学スポーツ以外のアマチュアスポーツを賭博対象とすることの禁止、国全体の統一的な自己排除リストの作成と維持管理の仕組みを創設すること等も提案した。
8ケ月間に渡る様々な利害関係者との意見調整の結果としての法案提出ということであったが、その後の連邦議会ではこの法案はまじめな審議の対象にはなっていない。
ネットによるスポーツブックの許諾は、連邦法ではなく、管轄権があるのはあくまでも州政府であって、州政府が法令により許諾すれば、その州内で施行できるとするのが基本という考えがその背景にある。
サイバー世界は単独の州政府では規制できず、やはり連邦政府が絡むべきとする意見は、州政府の権限に連邦政府が介在することになり、これでは時代に逆行してしまうということなのだろう。
これでは何のために連邦PASPA法を廃し、州政府に管轄権・管理権限を委ねたのか解らなくなってしまう。
一方州政府が海外サイトは違法、禁止、厳格に法の執行を担うといったところで、現在の米国の仕組みでは効果的な法の執行ができるのかに関しては懸念を抱かざるを得ない。

2019年以降、米国では州毎にパッチワーク的な制度創出が続いており、国全体としての統一的な規範の概念はここにはない。
こうなるとグレーな領域等は何もせず放置し、実務的には社会に共存せざるを得ない状況を生み出している。
健全な市場を育て、州民を健全な市場に誘導するインセンテイブを与えるという施策の方が合理的かつプラグマテイックな解決策になるという考えはあながちおかしいとはいえない。
法令ではなく緩いガイドライン(Soft Law)等を駆使して、市場を誘導することが米国市場ではふさわしいのかもしれない。
一方、欧州諸国は、厳格な法規制により違法海外オンライン事業者(スポーツブック・カジノ)を摘発し、締め出す政策に一斉に舵を切りつつある。
判明次第ISP・事業者に対するサイト封鎖命令、ネット上の広告禁止命令、資金支払い代行金融事業者に対する賭博関連支払い停止命令等をパッケージとして制度的に措置するという考え方だ。
インターネットの社会も自由ではありえず、違法な事業者は徹底的に排除される宿命にあるということだろう。
但し、かかる厳格な考え方が欧州以外の国で受け入れられる土壌があるか否かは、検証が必要かもしれない。
我が国でも欧米と同様に海外事業者による違法インターネットカジノ・スポーツブックはサイバー空間に現存し、国民に賭博サービスを違法に提供しているが、これを防止できる法律上の明確な規定は無く、これを取り締まる法の執行もできえないグレーな状態が続いている。
これが本当の我が国の問題なのかもしれない。

(美原 融)

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