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2023-10-16

230.違法オンラインサイト:米国許諾事業者の対応

陸上設置型施設をベースとする米国のカジノ事業者は、昔はオンラインによる賭博行為の提供は、陸上設置型の施設とは利害が相反する存在として、これを認めることに対し懐疑的であったり、明確に反対を表明したりする経営者も存在した(著名なのはSands LVの故アデルセン会長)。
状況が変わったのは2018年連邦最高裁判決により連邦プロアマスポーツ保護法(PASPA)が廃棄され、これに伴い2019年以降実現したオンラインを含む各州におけるスポーツブックの法制化である。
制度の建付けにもよるが、既存の陸上設置型施設(カジノや競馬場運営許諾者等)とオンラインプラットフォーマーとの組み合わせにスポーツブック免許を付与したり、陸上設置型施設に対面方式のスポーツブック施設を併設することを認めたり、これに加えてオンラインによる提供を認めたりするなど、様々な制度の在り方が州毎に生まれることになった。
この環境は、既存のカジノ事業者にとっても、新たな市場の創出に近く、積極的に参入する方向に風向きが変わったのは当然であろう。
これは先行していた欧州スポーツブック事業者と既存の米国カジノ事業者との連携・協力をもたらすと共に、大手・中堅を含むほぼ全ての(陸上設置型)カジノ事業者が自らオンラインスポーツブックの専業子会社を作り、オンライン関連事業者との連携・協力を深めたり、彼らとJVを作り、新たなブランドを立ち上げたりするという動きが2019年以降活性化した。
タイミング的には制度の立ち上げと市場の胎動がコロナ危機に重なったため、オンラインによるスポーツブックの市場拡大に強力な貢献をしたという事実があったのかもしれない。
但し、既存の(陸上設置型)カジノ事業者のオンラインスポーツブックへの参入は、カジノ事業者の収益の底上げにつながったことは間違いない。

過日オンラインスポーツブックに参入している米国の(陸上設置型)カジノ事業者の幹部と話す機会があったが、極めて興味深い話を聞いた。
カジノ業とスポーツブックの免許(ライセンス)は別だが、担っている親会社は同一と規制機関はみなすため、スポーツブックの運営に関する潜在的な違法行為には極めて敏感に対応しているとのことだ。
オンラインによるスポーツブックの提供で、もし何らかの違法行為に関与したと規制当局に疑われた場合には、事業者としての廉潔性を問われかねないリスクがあるということである。
即ちスポーツブックのみならず、本業であるカジノ事業者としての連帯責任を問われ、カジノ免許はく奪に繋がりかねないリスクがあるということになる。
問題となりかねないのは、オンラインという属性から由来する様々な顧客からのアクセスをどうコントロールするかということに尽きる。
米国事業者は州内に位置する住民から賭けをとることは問題ないのだが、異なる州の住民からサイバー空間を通じて賭けをとると、これは明確に当該州の法律違反事項になってしまう。
これは、国境をまたがる形で外国の顧客を募る際も同様で、サイバー空間からその地域では違法行為となっている国・地域の住民に対し賭けを提供することも違法行為になってしまうリスクがある。
問題は州内事業者が海外の顧客にサイバー空間を通じ、賭けを提供することは実はグレー領域に入ってしまうことにある。
何が合法で、何が違法になるかの定義すら不明確だからだ。
違法行為となる判断基準とは、最低当該国で法律上賭博行為は禁止されていることが一つの条件となるとともに、当該国でかかる違法行為に対し、法の執行が積極的になされていることも条件となる模様だ。
こういう状況にある外国の顧客に対し賭けを提供することは違法、そうでない外国の顧客に対し賭けを提供することは問題にされないということらしい。

よって米国のカジノ事業者はスポーツブックをサイバー空間で提供する場合、顧客の国籍、顧客の地理的場所等に関しては特段の注意を払い、オンラインスポーツブックが違法とみなされる国・地域からの顧客アクセスはできないようにしているとのことだ(コンピュータの識別コードからアクセスしている国を判定したり、Geolocation機能で顧客の場所の緯度・経度を確認したりして、違法とされる国の顧客は当該サイトにアクセスできないようにしている)。
尚この幹部曰く、日本から違法な行為を行う米国事業者を排除することは(もし当該事業者が米国州にて免許を取得し、スポーツブックを提供している場合)いとも簡単にできるのではないかとの話で、日本の規制当局が当該州の規制当局に対し、書面にてX事業者が日本では禁止されているスポーツブックを我が国国民に提供していると正式に通告した場合、当該事業者による免許上の違法行為ということで調査が入り、最悪免許はく奪事由に繋がりかねないという話だ。
少なくともネバダ州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州等ではこれが機能するという。
もっとも米国州規制当局に正式に通報し、米国事業者の違法行為を指摘した外国の規制機関は今の所殆ど無いとうのが実態の様だ。

尚、欧州諸国の事業者はEU以外の国の顧客との関係に関しては、何らかの障害があるわけではない。
この結果、結構な大企業であるにもかかわらず、サイバー空間を通じ、あらゆる国から顧客をとる事業者が多いのは米国と異なり、特段違法行為と判断されないからだ。
いわゆるクロスデフォルト的な考えはここには無い。
ネット賭博が禁止されている日本に対し、日本語のサイトから日本人顧客の賭けをとっている欧州事業者も多い。
勿論欧州諸国の中でも、サイバー空間で提供してもその国の制度でオンライン賭博が禁止されている場合には自主規制として賭けを提供しないとする企業方針をとっている稀有かつまじめな大企業もいる。
しっかりした国で免許を取得し、しっかりとした活動を行っている企業は例えサイバー空間で活躍していても、制度的に認められない日本の顧客からの賭けは一切とらないということだ。
よって今我が国民にサイバー空間からスポーツブックやオンラインカジノを提供している事業者はその全てが清廉潔癖性のあるまともな事業者といえるのかは懸念があるところだ。

(美原 融)

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