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2023-10-02

228.合法サイトと違法サイトとの奇妙な共存(2)

米国における海外違法スポーツブッキング事業者の存在は、当初は単なる雑音にしかすぎなかったのだが、2022年後半になり、さすがに何とかすべきという意見が米国スポーツブッキング事業者や業界団体(AGA、米国ゲーミング協会)から強く主張されるようになってきた。
今や米国では38以上の州でスポーツブッキングを認める制度構築が実現し、2021年以降、急速に市場の規模が拡大しつつある。
州政府の規制下にある合法サイトと全く規制外にある外国からの違法サイトが奇妙に共存しているのが全ての州における実態で、この結果、市場のパイのかなりの部分を海外違法サイトに侵食されているのではということが段階的に明らかになってきたことによる。
AGA(米国ゲーミング協会)によると、現状数百の違法海外サイトがあり、全体スポーツブック市場の想定売り上げの40%程度が海外違法サイトの事業者に流れていると推定されているとのことだ。
確かにこれでは、許諾を得て合法的に業を担っている事業者にとり、この状況は看過できるものではない。

なぜ顧客は違法海外サイトへアクセスしてしまうのであろうか?自由にサイトにアクセスできる以上、顧客はそのサイトが違法か合法か等特段意識もせず、サイトを利用してしまうというのが過半の実態なのだろう。
顧客からすれば、事業者が合法か非合法か等関係無いわけだ。
一方海外違法事業者は様々な州政府の規制の対象にならず、免許も取得せず、かつ米国で納税しているわけでもない。
かかる制約が全く無い、かつ海外事業者故単純に摘発・検挙等できるわけが無いというメリットを利用し、顧客を引き付けている要素はある。
例えば米国の事業者が提示するオッズと比較し、顧客にとりより有利なオッズを提供することだ。
税負担分の一部を顧客に還元するようなもので、米国事業者から見れば、公平な競争環境とはいえずとんでもないという話になる。
米国では州毎に異なるが、顧客による過度のスポーツブッキングへの傾斜を避けるために一定の賭け金上単価を設けることが多い(例えば$120等)。
ところが海外事業者は実質的に無制限に近く、$5万㌦としているサイト等も存在する。
要は富裕層、VIPを対象に賭けやすい環境を設けている。
かつ信頼おけるVIPとして判断された場合、何と対顧客与信まで実施しているサイトもある模様だ。
勿論米国ではスポーツブックにおける与信行為等は通常厳禁となっている。
依存症対応策等も何ら対応策はとっていないというのも事実だろう。
要は顧客が嫌がる制約や制限を一切取っ払い、顧客が自由に賭けやすい環境を提供しているといえる。
中には顧客の勝ち分の支払いを渋ったり、遅らせたりあるいは全く支払わないというとんでもないサイトもあることが市場アンケート等で明らかにされつつあり、さすがに被害を被ったかかる顧客は海外サイトを諦め州内の許諾事業者に戻っているという話もある。

この状況に対し、米国スポーツブッキング事業者、業界団体、関連州政府、連邦上院下院議員等は連邦司法省や検事総長に対し、海外違法スポーツブッキングを排除する法の執行を要請する陳情を行う等のロビーイング活動を行いつつある。
違法海外スポーツブッキングの摘発、サイトの閉鎖等を制度的に可能にする措置を求める活動だが、何をどうせよというのか具体的な主張は見えてこない。
本来連邦法では規制の対象にならず、州政府が規制すべきなのかもしれないが、相手は州を跨るサイバー空間でサービスを提供する存在で、外国に所在する以上、州政府の権限では特段効果的な措置をとることができないのだ。
だからといって果たして連邦政府はどういう根拠で何ができるのか、新たな立法措置が必要となるのか、またかかる規制は米国憲法規定上、違法となるか否か等微妙な問題を抱える。
新たな立法措置ではなく、一種のガイドラン的な規範を作り、州政府の行動を促すべき等という議論もある。
もっとも本来州境を超える存在のものを州毎の法律で規制せよというのもおかしな話だ。
サイバー世界の規制は州境を跨る故、連邦法でなければ規制は無理なのだが、米国の制度は連邦政府と州政府の権限は明確に峻別されることが原則で、州の権限に属する事項に連邦政府が何らかの形で介在することは極度に難しくなってしまう。
かつ、州毎のバラバラの制度となっている現実は、全体を調整し、国としての統一的規範を作ることを極端に複雑にしてしまう。

アメリカゲーミング協会(AGA)は上記とは平行的に、新たな行動をとりつつある。
連邦政府に対するロビーイングに効果が無いならば、民間で声を挙げ、民間レベルで違法海外スポーツブッキングに対処するというわけだ。
具体的にはGoogle等の大手プラットフォームプロバイダー等と連携協力し、彼らの同意と協力を得て、サーチエンジンレベルで自主的に民間主体が違法サイトをブロックし、米国民が簡単な形でかかる違法サイトにアクセスできないようにするという仕組みである。
You TubeやX等でも残虐な画像とか好ましくない画像はYou TubeやXの自主的な評価・判断でアクセスができないようにすることがある。
同じことで、海外違法サイトは見つけしだいブロックするなり、プロバイダーレベルでサーチエンジンの対象にならないようにすることで、かなりのアクセスは遮断できる。
もしこの仕組みが機能を発揮できれば、政治ロビーイングに金をかけるよりも、実務的にこちらの方が効果的になるのかもしれない。
政府に頼らず、民間レベルで自主的に行動することは極めて米国的な考えでもあり、今後このイニシアチブがどう展開するかは興味のある所だ。

(美原 融)

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