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2023-09-25

227.合法サイトと違法サイトとの奇妙な共存(1)

米国では2018年米国最高裁の意見書により1992年連邦PASPA法(プロアマスポーツ保護法)は連邦憲法違反と指摘され、以後、スポーツブッキングを認めるか認めないかは各州の判断事項になった。
一方旧態依然とした連邦1961年有線法(Wire Act)は未だ有効で、同法にある「州境を超える賭博関連情報のやりとりは違法」という規定は未だ適用されるという最高裁の追加意見もあり、州毎の制度の顧客対象は自州の領域内に限り、居住民や州内にいる来訪者のみというおかしな制度の建付けになっている。
リーテイル(施設設置型)と共にオンライン、モバイル手段によるスポーツブッキングを州法で認めるのに、その対象顧客と対象領域を自州内に限定しているわけで矛盾も甚だしい。
市場を州単位に限定するということは市場の発展を自ら制限しているようなものだからだ。
本来サイバー世界に州境等存在しないのだが、この有線法の規定があるがために、各州法では事業者に対し、顧客が自州に地理的に存在することを確認する義務を設けている。
Geolocation Testというのだが、スマホを利用し、アクセスする顧客の位置情報を緯度・経度で確認し、自州内部でない限り、アカウントを設けることができず、かつ実質的にサイトへアクセスできなくなるようにしている(よって米国の合法サイトに日本からアクセスしようと思っても途中からブロックされる)。
更にややこしいのは2006年連邦UIGEA法(違法インターネット賭博執行法)も有効な連邦法だ。
これはオンラインでの違法賭博を規制する法律なのだが、専ら金融機関を規制する制度になっており、米国民がこれら違法サイトにアクセスすることを禁止する立て付けにはなっていない。
かつ州政府による州法に基づく州内におけるネット賭博は連邦UIGEA法の適用対象外になると規定されている(これをIntrastate Exemption規定という)。
よって米国民からすればネットで海外サイトにアクセスしても、これを禁止する制度は無く、例え遊んだ所で逮捕も摘発もないということになる。

このようにオンラインやモバイルによるスポーツブッキングは米国では州単位毎に市場を分断化し、実現しているのだが、現実には米国民は州法により認められた合法なスポーツブッキングサイトと共に、海外から発出される外国の違法スポーツブッキングサイトにも当然のことながらアクセスできてしまう。
米国民が外国のスポーツブッキングサイトにアクセスし、賭け事をすることを禁止する法規定は一部の例外的な州にはあるが、一般的には存在しない。
禁止したところで、連邦政府・州政府も違法な海外事業者を検挙・逮捕する理由等存在せず、支払いも仮想通貨や電子マネー、オフショア口座等を使えば、誰も規制できなくなる。
結果、住民の目から見ると、州政府の免許を得た合法的なサイトと外国の事業者が外国からサイバー世界に提供する違法サイトが共存しているという奇妙な姿に映ってしまう。
州政府からすれば、免許も取らず、税金も払わない主体がかってに州民を顧客としてとっていることになり、とんでもない輩ということになる。
一方、州政府としては違法として外国のネット事業者を摘発し、検挙することもできない。
事業者としてはその存在も行為も違法、但し検挙はできない、かつアクセスする米国民にとっては何ら罪にならないということで、極めてグレーな状況にあることは明らかだ。
米国での情報サイトや検索サイトでみると、海外サイトへアクセスし、賭けることは顧客にとっては違法ではないと指摘する情報サイトが多い。
大丈夫、絶対逮捕されないと言っているのだが、一部事実であるとはいえ、こんな状況では市民も誤解するかもしれない。

この様な(違法)海外スポーツブックサイトは州法による合法化前から存在し、これにアクセスして遊ぶ人も多く、多くの州では、スポーツブッキング立法化の際に、かかる海外違法サイトを問題視し、自州で合法化することにより、公正、透明、安全な仕組みを住民に提供し、住民を守るということが立法化の原動力にもなった。
ところが、一端制度を制定し、一定の枠組みが実現してしまうと、海外違法サイトはどうするのだという問題は残されたままになっている。
顧客は様々なサイトにアクセスして、情報を探るとともに、オッズの差を比較しながら、ベット戦略を考えるので、州内の合法サイトであろうが、海外の違法サイトであろうが、関係ないのかもしれない。
違法サイトに入って遊んだとしても、違法サイトという認識すらないというのが実態ともいえる。

もっとも米国では全体システムを統括し、賭け取引を管理するプラットフォーム・プロバイダーやスキンと呼ばれるブランド・ベッテイング事業者は段々巨大化し、競争の結果中小企業は淘汰され、市場は寡占化しつつある。
名の知れたブランドは、サイトの扱いやすさ、情報の量、賭け方等に手法を凝らしていると共に、サイトから実際の試合中継を見られたり、初めての顧客には懇切丁寧なイントロビデオ等も用意したりする等、対顧客インタフェースに工夫があるものが多い。
かつ最初にアクセスし、アカウントを設ける顧客に対し、ちょっと驚く程のかなり高額のボーナスやインセンテイブを提供することも頻繁に行われている。
競争環境にあるとネットの検索や情報サービスも勢い、自州の許諾サイト、許諾ブランドにうまく誘導するような仕組みが市場で構成されつつあるのかもしれない。
確かに顧客の関心はサイトの安全性や健全性等は二の次であって、まずはオッズ、ボーナスや何等かのプロモーション・恩典があるか否か、面白いか、使いやすいか等に集中してしまうのが世の常だ。
税金の負担が無い海外事業者からすれば、オッズを顧客により有利に設定し、顧客を引き込むという公平な競争原理からすれば極めて不当な営業戦略を取る事業者も多い。
市場の成熟化と共にネット上の違法海外スポーツブッキング事業者の問題は無視できないレベルに到達しつつある模様だ。

(美原 融)

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