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2023-09-18

226.学生アスリートによる内部通報制度

もし大学スポーツが賭け事の対象となる場合には、当該スポーツ試合はスポーツ試合をシステム的にモニタリングするモニタリング専門企業にとっても重要な監視対象となる。
事実、スポーツブッキング事業者や大学スポーツ関係者(大学当局、運動部・管理部、NCAA等の団体等)等はその重要な顧客になっており、かかるモニタリング専門企業は対象となる試合の賭け事におかしな行動があるか、無いか、何らかの不審な行為があるか、無いか等をリアルタイムでモニタリングしている。
この分野の大手企業USIntegrity社と無記名情報提供のプラットフォームを運営するRealResponse社が、興味深いサービスを提供し始めた。
学生アスリートや大学関係者を対象として、大学管理当局に対し匿名でアスリート及びスポーツ関係者による賭博行為、不正、いかさま等の情報を提供するデジタルプラットフォーム(通称Athlete Alert)の立ち上げだ。
同社の賭博行為モニタリングに参加している大学等は全て無償でこのプラットフォームの利用が可能になる。
この情報提供ライン(Tiplineという)を利用できる主体はアスリート、コーチ、監督、運動部組織関係者を含み200万人を越える。
実際の運用の在り方は下記の通りとなる模様である。

✓ → アスリートは誰もが、監督、コーチ、チームメート等による不適切な行動、試合進行に関わる何らかの意図的な操作行為、あきらかなルール違反、物理的な脅威、パワハラ等があった場合、このプラットフォームを通じ、匿名で大学当局に報告・通告できる。

✓ → この情報提供ラインは無償でアスリート、大学当局に対し、通常の賭博モニタリングに加えたサービスとして提供される

✓ → 大学当局はプラットフォーム運営会社の調査チームと直接連携しており、報告受領後、その内容を判断し、専門家による調査、審査が必要な場合には、事業者(USIntegrity社)にその評価を依頼・要請できる。

✓ → 事業者はスポーツ試合の賭けの動きをリアルタイムでモニターしており、かつ不祥事等に関する専門的な調査員・調査チームを抱えている。

✓ → この調査チームは、大学当局より要請があり次第、賭け金行為に異常ないしは通常とは異なる不審な動きがあるか否かをチェックし、試合の推移・結果と通告事項との関連性を検証し、不正の有無、疑わしい行為等の問題を特定する。

✓ → 明らかに問題があると考えられる場合、必要な場合には事業者は大学当局と共に、関係規制機関や捜査当局等に直ちにその内容を報告する(連絡後短時間で判断するという)

✓ → 大学が追加費用を負担すれば、大学独自のブランドを付した外部ポータルとしてこれを構築し、アスリートのみならず、その家族、友人、試合の競争相手等も自由にこのプラットフォームを通じて報告できるようになる。

なんのことはない。
単なる密告システムあるいは会社の不正等を通報する内部通報制度と同じではと思う人がいるかもしれない。
但し、大学スポーツが賭博行為の対象となり、これがモバイル・オンラインで極めて間便に提供されるようになると、賭博行為に関連し、公正な試合の遂行を妨げる行為にチャレンジしてくる輩が生じてくるのはどうしょうもない事実の様だ。
このためにはあらゆる手段を用い、スポーツの不正行為やいかさま、八百長等を抑止し、これらを防ぐ最大限の努力をすることは当たり前ともいえる。
スポーツ試合の不正は、複数の主体が絡むことも多く、おかしな行為、通常ではありえない行為等は他人、特に仲間内に察知されやすいものだ。
おかしな行為を察知したアスリートや関係者が匿名で大学当局に報告、連絡することは、この意味では突飛な考え方ではない。
これにより相互監視の体制が自動的に敷かれることになるからである。
密告という言葉自体がおどろおどろしいが、社会人にとって企業や組織の中では今や制度的にも常識となっている事象でもあろう。
学生が大学でこんなことをする必要があるのかと訝しがる人もいるかもしれない。
但し、スポーツの商業化が進展すると、例え学生であってもかかるリスクはあり得ると判断することが適切で、これに伴う対応策も必要になるということだ。

仕組みの面白さは、単に密告する、報告するというだけではない。
八百長、不正等が賭博行為に絡んでいる可能性が高いと判断された段階で、大学の手を離れ、規制機関や法執行機関等に調査要請や報告が直ちになされることになる。
こうなると大学の中に問題を留め、できる限り事態を隠蔽しようとするような動きは確実にできなくなる。
早い対応措置が可能になること、情報の外部遺漏とかが無く情報セキュリテイーが確実に図られること、効率的に問題に処することができること等のメリットがある。
日本では最近の事例だと、日大アメフト部の麻薬騒動のように、大学当局が名声リスクを回避するために違法行為の隠蔽を図ったり、操作当局に対する報告・相談等を意図的に遅らせたりするような大学自体の体質や慣行が問題視されている。
学生の違法行為を大学自体が隠蔽する体質があるとすれば、これは問題外の許されない行為になってしまう。
大学当局を含む学生を取り巻くステークホルダーや学生アスリート自身が矜持をもって変なことはしない、させないという考え方を徹底させなければ、不祥事は起こりうるということなのだろう。

(美原 融)

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