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2023-08-21

222.米国大学スポーツブック不祥事(2)

アラバマ大学事案から二週間もたっていない時点で今度はアイオワ大学・アイオワ州立大学の学生による賭博スキャンダルが露呈してしまった。
問題が発覚したのはアイオワ州賭博規制機関からの連絡だが、何とこの規制機関はモニタリング会社と共に、スポーツブックアプリのGeolocation機能を共有しており、試合日ではないのに野球場のロッカールームに当たる場所から数百のアプリへのアクセスがあることを不審に思ったのが端緒になる(州外からのアクセスを禁止するため、顧客はGeolocation機能で今いる場所をチェックされることを認めなければアプリへアクセスできないのだが、これを規制機関がモニタリングしている!ことが露見したことになる。
これもスパイ映画みたいな話だが、技術的には単純な仕組みでしかない)。
場所が場所だけに学生がやっているしか考えられないのだが、州法では21歳未満の学生がアクセスしていれば違法だし、学生が他人のスマフォや勘定を利用したとしても違法になる。
これは潜在的に犯罪行為になりうる可能性があるとして、規制機関が大学、NCAA(全米大学体育協会)に通告したわけである。
規制機関が動けば、事業者から賭け金行為や使用された勘定、関与した者の氏名等の情報を簡単に割り出せる。
大学は数日後、規制機関より関与したと疑われる学生の氏名を把握し、即日運動部学生の対外試合参加を禁止し、弁護士を含む第三者調査委員会を立ち上げ、独自調査に入った。
111人が調査の対象となり、内26人がスポーツ選手、残りは職員、普通の学生やOB等と公表したが、その後調査の対象となったスポーツ選手は正確には41名になると訂正した。
これも学生スポーツ選手が何らかの試合の八百長や不正に関与していたというわけではなく、単純に携帯からスポーツブックアプリへアクセスし、仲間内でオッズを調べたり、賭けたりしただけなのであろう。

このアイオワ大学・アイオワ州立大学の不祥事は、規制当局・州警察による調査が継続され、8月第一週に至りアイオワ州警察犯罪局特別執行部(DCI)が最終的にアメフト部、野球部の現役・OBアスリート7人を未成年賭博を罪状として刑事告訴するに至り、単純な事案ではない様相を示しつつある。
事業者に開設した勘定に関わる電子データは当然押収され、何が行われたのかが正確に情報開示されつつあるが、かなり衝撃的な事実が浮かび上がってきている。
7人中3人は未成年であることを隠すため、何と母親名義での勘定を設け、これを利用したことが確認されている。
母親もつるんで積極的に協力したのか、勘定を使わせただけなのかは不明である。
その他一人はやはり兄名義の勘定、もう一人は他人名義の勘定を利用している。
未成年であったとき、兄名義で勘定を開設し、賭博行為に及んだのは元バスケOBで、複数年に亘り1850回、累計$34,800を賭けている。
現役野球部アスリートの場合は母親名義の勘定で559回、累計$2,400、内23回は自大学の試合である。
ISUのフットボール選手は母親名義勘定で113回、累計$3,075、内12回は何と自分のチームの試合になる。
アイオワ大フットボール選手はやはり母親名義の勘定での未成年賭博で170回、累計$4,400、2023年レスリングチャンピョンであったISUのレスリング選手は他人名義の勘定で1285回、累計$45,640、内25回は自大学の試合になる。
質が悪いとされたのはISU現役フットボール選手で、iPhoneを用い、大学の寮から賭け金行為に参加していた模様だが、366回、累計$2,799、内26回がアイオワ州、自大学自チームの試合が対象である。
いずれの場合も未成年時代を含む数年に亘る持続的行為であると共に、回数、累計額から逆算しても、賭け金単価は10ドルから数十ドル程度でしかない。
この意味では、これら現役・OB選手が、スポーツ試合に関し、何らかの不正行為や八百長等に絡んでいたとは想定しにくい。
もっとも例え試合にはでていなくても自分の所属するチームの試合に賭ける行為が適切といえるかに関しては大きな懸念が残る。
この事案が示すことは、未成年であっても親の名義で勘定を作り、この勘定を通じて賭け事をしたり、友達間で勘定を融通し合い、賭け行為に及んだり、手元にスマフォがなくとも友達の勘定で賭け行為に一緒に乗ったりする等の行為が学生アスリートの間で日常的に行われていたことになる。
どうすれば親名義の勘定をばれずに作り、使えるか等も学生間でノウハウを共有しているのかもしれない。
大学生からすれば、みんながやっているおかしな行為ではないということなのだろう。
尚、この事案の犯罪捜査は未だ終了しておらず、操作中の電子データの改ざん・証拠隠滅等が追加的な罪状になるかもしれないという話もある。

過去数年にわたり、未成年アスリートが賭博行為に参加していたという事実は、大学にとっても、NCAAにとっても将来に向けて大きな課題を残すことになってしまったようである。
もっとも学生側に立った弁護士は、「こんなのは米国人の生活にとっては全くの日常的な事実(daily fact of American Life)でしかない。
オンラインの勘定をシェアしあうというのは米国人皆がやっていることではないか。
スポーツ規約に関するルール違反は本来大学・NCAAに関する事項でしかなく、州警察が犯罪事件として関与すべき事項ではない。
これを意図的に肥大化し、犯罪として政治化(Politicize)しているだけではないか」と弁明している。
確かに、未成年である大学生が賭博行為を担うことは違法ではあるのだが、犯罪として立件するほど悪質といえるのか、単なる学生の少額の遊びではないのかという意見は無視できない側面がある。
7月12日NCAAのBaker会長(元知事・政治家)は2018年以降、NCAA内規に違反するアスリートによるスポーツ賭博違反行為は175件に達することを初めて公表し、スポーツ競技の廉潔性を損ねかねないリスクのある行為として、更なる規範の厳守を要請した。
これを多いとみるか、少ないとみるか、現実はこんなものではないとみるか意見が解れる所だ。
果たしてこの問題は今後どのように展開していくのであろうか?

(美原 融)

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