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2023-08-28

223.大学とスポーツブッキング業界との関係

米国ではフットボールやバスケット等の大学学生スポーツ試合の人気は高く、この試合の帰結や推移を賭博の対象にするスポーツブックの人気も高い。
一方大学生の中には賭博行為への参加が禁止されている21歳以下の学生がいると共に、大学生一般に対しスポーツブッキング事業者が過剰な広告やプロモーションをしたり、大学とスポーツブッキング事業者が連携パートナーシップを組んだりする事例等がでてきている。
さすがにこれは問題ではないかとする意見がでてくるのも当然かもしれない。
既に2021年3月にはNCPG(National Council on Problem Gambling全米賭博依存症協議会)が大学とスポーツブック事業者とのパートナーシップに関し推奨事項を提示し、学生にインセンテイブを与えるべきではない、アスリートを賭博依存症から保護し、学生を教育するため基金の設立やこのためのより前向きなパートナーシップの創設等を意見している。
その後、様々な州議会議員や規制機関等から何らかの規制をすべきという意見が高まってきたのが2022年迄の実態でもあった。
実際に事業者とパートナーシップ協定を締結した大学は5つある。
ミシガン州立大学(Ceasar‘s)、ルイジアナ州立大学(Caesar’s)、コロラド大学(PointsBet)、デンバー大学(PointsBet)、メリーランド大学(PointsBet)だ。
いずれも大学生を対象にプロモーションや広告宣伝を行うことに対し、関与する大学生に何らかのメリットを与えたり、大学自体も何らかの金銭的報酬を得たりする等という構図になる。
この内、コロラド大学で行ったのは$30の紹介料制度(Referral Bonus)で友達を紹介し、その友達が事業者のサイトで新たに勘定を設ければ、紹介者の学生に$30のボーナスを提供するというものだ。
何と大学生を利用し、同じ大学の学友に賭博行為を推奨させるわけで、裏では大学のお墨付きがあるということになる。
これはさすがに倫理上問題ではないのかということでこのプログラムは本年初頭に契約途上で中止になった。
スポーツブッキング事業者からすれば、プロのスポーツ組織に対しやっていることを大学スポーツ組織にも適用しただけではないかということなのかもしれないが、大学には21歳以下の未成年も数多く存在し、事は左程単純ではないのだ。

業界団体である米国ゲーミング協会(AGA, American Gaming Association)は、かかる対象が大学、大学生となる過剰なセールスプロモーションを制限することを決定し、2023年5月に“Responsible Marketing Code for Sport Wagering~スポーツ賭博に関する責任あるマーケッテイング自主規定~”を改定し、事業者が遵守すべき自主規制を業界規範として変えることになった。
この結果、①スポーツブック事業者が大学とスポーツブックのプロモーションを担うパートナーシップ契約を締結することは禁止する(既存契約がある場合には、一定期間内に契約解除・撤退。
OBアスリートは例外)、また大学が所有するメデイアに賭博広告を載せることも禁止する、②大学並びにアマチュア学生スポーツ選手に対し、個人選手の肖像権(NIL, Name, Image or Likeliness)の使用に関し金銭的報酬を支払うことを禁止する、③学生も対象となるプロモーションに際し、「無料(Free)」, 「リスク無し(Risk Free)」等の過剰な用語を利用することを禁止する、④顧客は学生であっても当然21歳以上であること、⑤プロモーションのためのメデイアの起用は、当該メデイアの73.6%以上の聴衆が21歳以上であると合理的に推定される場合に限る等である。
この改定は公表と同時に発効し、AGA加盟のスポーツブッキング事業者はこれを自主的に遵守し、かつ第三者委員会が実践をモニターするという建前になる。
世の中で物事が大きくなってしまう前に自主規制で乗り切るという目論見だが、うまく機能するか否かは今後の課題だろう。
学生スポーツ選手の肖像権等への対価支払いはNCAA自体も反対はしていないのだが、州毎、大学毎に事情も異なるし、スポーツブッキング事業者が自粛してしまえば、メリットを得ていた著名学生アスリートにとっては不利な状況になりかねない。
 
上記はあくまでも業界内の自主規制に過ぎないのだが、一部州政府や規制機関、州議会の中には過剰なセールスプロモーションを規則ないしは法令で縛るべきではないかという声が上がっているのも現実である。
ニューヨーク州、マサチュセッツ州、ペンシルベニア州の規制当局はプロモーションに関し、「無料(Free)」とか 「リスク無し(Risk Free)」等の過剰な用語を使用することを禁止する規定を取り決めている。
一部州は法令を修正し、同様の規則を制度化する法案を出す動きも散見されている。
マサチュセッツ州の場合は予め制度としての取り決めがある。
205 CMR 256「スポーツ賭けに関する広告規定、SPORTS WAGERING ADVERTISING」 (6)項は、(c)スポーツへの賭けを一般的に「リスク無し」と含意させるプロモーションを図ること、(d)スポーツへの賭けを「無料」、「費用無し」、「リスク無し」と記述すること等を禁止している。
更に256.05項「若年層に対する広告」規定は、広告の中に21歳以上でなければ参加できないことを明確に記載すること、広告宣伝掲示板も21歳以下が見てしまうような場所では禁止、21歳以下の個人を対象とする広告、マーケッテイングは全てやってはならないし、認めてはならない、21歳以下の個人に訴えかける言語、著名人等の肖像、象徴等を含む広告、ブランド、マーケッテイングその他の材料を広告の要素とすることも禁止、ソーシャルメデイア、ビデオ、TV等のメデイア媒体で25%以上の聴衆が合理的に推定して21歳以下である場合、かかる媒体での広告等の禁止すること等が詳細に規定されている。

広告規制は弱者や若年層を対象とする場合、確かにあってしかるべき考え方でもあり、市場で実践し、初めてその必要性が市場において理解され始めたということなのかもしれない。
米国でもマサチュセッツ州の様に、予め規則において詳細かつ合理的に広告の在り方を規定した州もあれば、一切広告規制はしないとし、何も規定していないという州もある。
どこまで、何をどう規制するかは、一国・一地域における社会的選択肢になるのだが、先進諸外国における一般的な趨勢は、厳格な広告規制を実施すべきということに落ち着きそうだ。

(美原 融)

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