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2023-08-14

221.米国大学スポーツブック不祥事(1)

米国の話だが学生スポーツ選手ではなく、NCAA(全米大学体育協会)傘下の大学野球部のヘッドコーチが絡むスポーツブッキング不祥事が本年春に生じてしまった。
問題となったのはアラバマ州立大学野球部Crimson Tideのヘッドコーチだが、事が露見した経緯が若干特殊で興味深い。
問題が露見したのはシンシナテイ市にあるボールパーク内に設置してあるスポーツブック小売店だ。
4月28日にこれから始まるアラバマ州立大学野球部とルイジアナ州立大学(LSU)野球部との試合に、何と10万㌦近い大金をLSUに賭けようとする顧客が窓口に現れた。
確実に目立つ行為になり、非常識にも程があるが、これはさすがに窓口だけの判断では取り扱いできない。
明確に事業者の内部規則に抵触する高額の金額だからだ。
当然のこと乍ら、窓口で顧客が購入意思を伝えた段階で本人確認を求められることになり、同時にこれは現場の判断で疑わしい取引と想定され、直ちにこの事実が関係者に連絡されることになる。
US Integrity社は顧客の賭け金行動とその廉潔性を常時システム的にモニタリングしているスポーツブッキング事業者の協力企業だが、この取引の連絡が入り、同社はこれを疑わしい取引と即刻認定し、同社プロトコールに基づき、関連する利害関係者にこの事実が通告されることになる。
この場合の利害関係者とは、事業者と共に事業者をこの州で管理する規制機関であるオハイオ州カジノ管理委員会、州警察、関係大学当局、NCAA(全米大学体育協会)並びにこの大学野球部試合を賭けの対象としているその他の州の規制機関等を含んでいる。
この結果事業者は、連絡を受けた段階で関連大学スポーツ部関連の賭け行為を全て販売禁止対象とし、様々な機関による調査が即刻開始されることになった。
この間、オハイオ州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州等の規制当局は、状況は必ずしも明確とは言えず、事実関係が明らかになっていないにも拘わらず、直ちにアラバマ大学野球部関連賭け行為を全て禁止の対象としている。

問題の背景が露見したのは、当該主体(やはり別教育機関の野球部コーチ)が売り場から携帯で暗号付メッセージソフトを用い、テキストメッセージをやり取りしている不審な様子が監視カメラで撮られていたからだ。
まるでスパイ映画かTVドラマみたいな感じだが、何とこの記録映像を拡大すると携帯の画面がくっきり浮かび、発信者の名前と如何なる内容をやり取りしていたのかの映像を正確に読み取ることができたというわけである。
相手はアラバマ大学野球部ヘッドコーチBrad Bohannon、交信内容は野球部の内部情報で有望な先発投手が試合前に突然交替するはずという非公開情報だったようだ。
これをメッセージで確認した上でLSUが有利になると判断し、大金を賭けようとしたのだろう。
本来第三者には漏れるはずのない行為が、偶然の結果としてばれてしまったということになる。
この事実が公表され、オハイオ州規制当局、NCAA Enforcement(全米大学体育協会法執行部)、大学当局等は犯罪関与の可能性を考慮しつつ個別に調査に入ったのだが、当該ヘッドコーチは事案が発覚した数日後には大学当局より、大学内規・NCAA内規違反、大学職員としての不適切な行動、忠実義務違反等を理由として解雇処分にあっている。

その後の状況は一部錯綜しており、情報も公開されていないため必ずしも明確とはいえない。
また、このヘッドコーチが対価として金銭を受け取っていたのか否かは報道されていない。
一方不正行為として現場で問題が露見した方はやはり教育機関の旧野球コーチで、複数の主体とも別途交信していることが確認されており、スポーツ関連の仲間達が何らかの形で内部情報の共有に関与していたのではないかと想定されている。
これに対し、二つの大学のスポーツ選手は一切関与していないということもその後の調査で明らかにされつつある。
この事案はスポーツ大学生選手の問題ではなく、何と彼らを支えるべき大学関係者、部のヘッドコーチが内部情報を外部にいる賭けをしようとしている主体に遺漏したというものだ。
スポーツ部の監督やコーチは大学の職員でもあるのだが、選手ではないため、彼ら自身が試合の趨勢に直接影響力を行使できる場面は現実には少ない。
もっとも試合の戦術や采配等の情報を持っているとともに、選手の健康状態、怪我、体調、チーム自体の調子等の内部情報は把握しており、これら情報を外部の第三者に遺漏することに関しては、あまり財悪感を感じなかったのかもしれない。
確実に勝敗に影響を与える情報とはいいきれないが、賭け事の確率を高める情報でもあり、当然のことながら、NCAAや大学内部の内規に抵触する行為になる。
また状況次第では州法にも違反する。

アスリートではないが、学生スポーツに深く関与している大学関係者もその多くはスポーツブックに参加しているのだ。
勿論内規規則の対象者となるのは一部の関係者のみであり、一般の大学関係者やOBアスリート等は全く関係がなく、自由に賭博行為ができる。
スポーツブックもスポーツを楽しむ行為の一部になっているのが社会の現実であるともいえる。
尚、大学関係者による不祥事はこれだけに終わらず、ほかの大学でももっと問題があるのではとかという意見も多い。
確かにこの事案は氷山の一角にすぎないかもしれず、今後ほかにも類似的事案が出てくる可能性はゼロではあるまい。

(美原 融)

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