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2023-07-10

216.マネーロンダリング・テロ資金対策(AML/CTF)(1)

その国の制度や規制の在り方によっても状況は異なるが、スポーツブッキングに関しても関連事業者に対しマネーロンダリング・テロ資金対策(AML/CTF Anti-Money Laundering/Counter Terrorist Financing)が求められることが世界の慣行となっている。
もっともスポーツの賭け事とは(試合開催中の賭けとなるIn-Play Bettingの場合を除き)カジノの様に極めて短い単位でのサイクルを継続しながら遊ぶという賭け事ではない。
スポーツ試合とは相対するチームや選手が技術、体力、知力、戦略を駆使して、一定のルールの下に一定の時間をかけてそのパーフォーマンスを競うものだ。
しかも僥倖ではなく、スキルや経験・体力・戦術等が試合の趨勢を決めることが多く、結果の予測可能性の判断は僥倖とはならない側面も強い。
かかる賭け事は対象が単発で、賭け単価も賭け金額も大きくなるカジノの賭け事とはかなり異なる。
この意味ではマネーロンダリング対策もカジノとは異なる側面がある。
かつ、対面方式、キオスク的な自動機械販売方式、オンライン・モバイル方式等異なるフォーマットの賭け方があり、これ次第では考慮すべきリスク項目も当然異なってくる。
よってスポーツブッキング固有のリスク要素や異なるフォーマットを考慮し、これらを評価した上で対応策を考慮することが必要なのだ。

一般的には少額紙幣やコイン等の巨額の現金収入をもたらす業はマネーロンダリングの対象になりやすいとされる。
コインや少額紙幣を高額紙幣に変える事業者側のニーズがあるからだ。
カジノ施設はその典型例になる。
通常の陸上設置型カジノ施設がその一部活動として同施設内で顧客にスポーツブッキングを提供する場合には、カジノ場におけるAML/CTF 対策がスポーツブッキングにも適用される。
ちなみに米国では連邦銀行秘密法(BSA)に基づき、租収益(GGR)が100万㌦を超えるカジノ施設はBSA上の金融機関とみなされ、厳格なAML/CTF規制の対象になってしまう。
カジノ内部でのスポーツブッキングラウンジでは、対面、キオスク自動機械等でオッズチケットが販売されるが、少額である場合には通常のカジノ施設と同様に、本人確認をカジノ側から要求されることはない。
但し、スポーツブッキングであっても高額取引を前提とするVIPクラブや、平場であっても一定金額以上の高額取引は全て本人確認が要求され、規制当局に対する取引報告(CTR)の対象になる(EU諸国では2000€以上の賭け金を賭ける主体もしくは同額の勝ち金を得た主体はCustomer Due Diligenceと呼ばれる詳細本人確認の対象となる)とともに、疑わしい取引の場合には同様に取引報告(STR)の対象になる。
マネーロンダリングはPlacement, Layering, Integrationという三つの段階を経てなされるのだが、現金、少額で行われる賭け事は、賭け事行為のみをとってみると、悪意をもってする最初のPlacementができにくいという事情がある(効率が悪すぎる)。
そもそも少額でマネーロンダリング等ありえないし、賭け事に賭ければ負けるリスクもあるため、賭ける行為ではなく、賭け事の周辺の金銭取引でマネーロンダリングをすることが常道でもあるのだ。
勿論コストをかけて堂々と高額でマネーロンダリングをすることもありうる。
単純なのは大勝ちをした顧客の勝ちチケット・バウチャーを裏で一定のコミッションを上乗せして当該顧客から買い取ることだ。
これは(勝者が本人確認されていなければ)、コストはかかるがまずばれない。
あるいは複数の主体がつるんで相対する両方のチームにオッズの差を考慮しながら、同額となる金額をバラバラに両方のチームに賭ける。
この場合も、(胴元のアドバンテージをとられるため若干コストはかかるが)過半の資金をロンダリングできる可能性がある。

これをもう少し、ややこしくしたのがSegregationと呼ばれる手法になる。
スポーツブック事業者は一定の幅の両側にオッズを提供し、顧客の賭け方がどちらか一方に偏らないように常にオッズを調整して提供するが、一方に大きな賭け金総額がたまり、他方は賭け金総額が少ない場合、このオッズを調整しながら、Lay Offとして反対側のポジションを買い、バランスさせようとする行動をとる(Layoff Wager)。
事業者自ら担う場合には、単純なリスクヘッジ行為でもあり、合法である。
一方、この仕組みを悪用し、事業者と結託して、資金を拠出する第三者がつるんで賭け金を積み上げる形でばれないようにバランスを図るまで買い込む手法がSegregationになる。
事業者から見れば、少ないコストで確実にヘッジができる。
悪用する第三者から見れば、事業者のコミッション分は取られるが、残額は戻ってくるわけで、少ないコストで確実に資金をロンダリングできることを意味する。
こんなことがありうるのかということだが、実際2009年に具体の案件が露見した。
ラスベガス大手スポーツブッキング事業者であったCG Technology(Venetianをはじめ8社のスポーツブッキングを実質的に請け負っていた企業。
現在は吸収されこの企業名としては存在しない)が引き起こした事件で、ニューヨークのギャングと結託し、売り上げを伸ばすために高額賭け金顧客として彼らを呼び込み、大損とならないように反対ポジションを高額にかつ巧妙に買わせ、マネロン行為に関与していたという事案である。
この事案は罰金を払うことにより不起訴合意が成立し、何と2250万㌦の行政罰として決着した。
当時はまさか事業者がこんなことをするわけがないと思われていたのかもしれないが、事業者によるガバナンスの欠如や遵法意識の欠如が露呈することになった。
この事案を契機として、以後スポーツブッキング業界に対し、より厳格なALM/CTF対策やコンプライアンスが要求されることになったという帰結をもたらしている。

(美原 融)

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