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2023-07-17

217.マネーロンダリング・テロ資金対策(AML/CTF)(2)

マネーロンダリング・テロ資金対策は全ての賭博行為に関し、同じレベルで必要なのかということに関しては様々な議論がある。
例えば公的主体が賭博の独占的な胴元となるくじ系賭博や公営競技等だ。
勿論これら胴元の関係者が不正や八百長に当事者として関与すれば悪事は当然できるが、まともに施行が行われている場合、まずPlacementができにくいという事情がある。
不正な資金を正当な資金として入れ込むことが難しいのだ。
少額かつ現金で通常の賭け行為に参加する場合、マネロンをしようにもできにくいし、効率が悪く誰もしようともしない。
この意味では様々な賭博行為もマネロンの対象になりやすいリスクが高い分野や手法と相対的にリスクの低い分野と手法に分かれる。
2022年にEU委員会事務局によるAML/CFTに関するWorking Documentsは賭博種・手法毎にリスクの高低や対応策の詳細を明記しており、参考になる。

スポーツブッキングに関しても、賭け方や賭けのフォーマット等によってもリスクは異なる。
例えばPre-Play(試合前)の賭けは、相対的にリスクは低いが、In-Play/In-Gaming(試合中)の賭けはリスクが高くなる。
In-Playは、賭けとしては単純で、巨額の資金が動き、極めて短時間で行われるため、違法行為が見つかりにくく、Placementがやりやすいという事情がある。
また、通常の賭博行為であっても、高額な賭け金を賭ける顧客、かなりの高額の賭け金を継続的に同じオッズに賭ける顧客、通常の顧客の人気や予想に反した賭け方に高額の賭け金を賭ける顧客等は合理的に考えれば大多数の意見に反する行動になってしまう。
これでは何らかのPlacementに関与しているリスクは高いとみなされる。
例えば不正、いかさま、八百長等の不正行為が裏にあり、これをトリガーとして何らかのPlacementが仕組まれるような場合である。
一方、対面、キオスク自動機械によるチケットやバウチャーの現金販売の場合にはAML/CTF対策は単純だ。
少額の場合、本人確認等要求されないし、宝くじを窓口で買うのと同じでマネロンリスクは殆ど無い。
勿論高額賭け金者や高額の勝者に関しては対面でも顧客個人情報を詳細にチェックすることになる。
カジノ施設では、通常の顧客でもポイント付与やコンプ等の得点を付与することを前提に、本人確認、個人情報を得て顧客ローヤリテイーカードを作らせる慣行が根付いている。
これにより個人情報と特定の顧客の賭博行為を紐付けることができるという効果的なマネロン対策も可能になり、下手な不正行為はますますできにくくなる。
一方、これがオンライン・モバイルのフォーマットを採用する場合には、リスクの考え方やAML/CTF対策も全く異なったものになってしまう。

オンライン・モバイルフォーマットの特徴は、胴元と顧客とがフェースツーフェースで対処しないこと、要求しない限り無記名のまま取引が行われかねないリスクがあること等になる。
勿論胴元からすれば、しっかりと賭け金をまず支払ってもらう必要があるため、顧客個人名で事業者プラットフォーム-サイトに顧客勘定を開設させ、ここに一定の資金を何らかの方法で預託させ、ここから少しずつ資金を電子的に引き出させ、賭け事に使うという手順を踏むことが通例になる。
資金を預託する方法には様々な手法が現存し、銀行口座からの電子振り込み、クレジットカードによる支払い、様々な電子マネーや仮想通貨による決済等があり、今や全てがコンピューターもしくは携帯電話で処理できる。
これに関与する金融主体も、銀行、クレジットカード会社、電子決済代行業者、仮想通貨取り扱業者等様々な選択肢が生まれており、利用者から見ると極めて柔軟性が高い仕組みが市場で成立している。
この複雑な現実が恰好のマネーロンダリングのPlacementとして悪用される可能性が高い。
例えば何らかの手法で他人、第三者名義で勘定を作り、他人になりすまし、ここにかなりの高額の資金をまず振り込む。
賭け事にあまり使わずにこれを引き出す、あるいは指定銀行口座に送金させる、クレジットカードにクレジットバックさせる、あるいは送金に第三者を絡ませる等により、マネーロンダリングが可能になる。
このほかMessenger Betting(あるいは第三者Betting)と呼称されるが、実在の人物を名目的な枠として利用し、この名義で勘定を設け、これをエージェントとして第三者が外部から資金を供給し、賭けに参加することにより、マネロンに悪用する等である。

これらを防ぐ唯一の効果的な方法は勘定開設時と勘定利用時における厳格な本人確認しかない。
何らかの公的書類により、本人確認のための個人情報、顔写真、銀行口座あるいはクレジットカード情報等を確認した上で個別勘定を開設すれば、不正は確実にできにくくなる。
かつ、本人がスマフォ等でアクセスする毎に顔写真認証、Geolocationソフトによる地点確認等で再確認する手順が組み込まれれば、勘定の不正利用は確実に難しくなる。
ネットを利用する賭博行為の唯一の利点は当該主体の行動履歴を全てトレースできることになる。
これにより、顧客の賭け金行動に不信な点があれば、より詳細に顧客の実態を精査するCustomer Due Diligenceを実施し、更に必要と判断される場合にはEnhanced Customer Due Diligenceというが、顧客の銀行勘定残高のチェックや資金ソースの確実性を検証するようなステップがとられる。
もっとも顧客の決済手段として仮想通貨や支払い代行業者による電子支払い等の新しい技術手法が採用されつつあり、これらもPlacementとして悪用されるリスクは高く、顧客に如何なる決済手法を認めるか、今後何をチェックし、如何なる行動をとればリスクは軽減されるのかに関しては、検討すべき諸点も多い。

(美原 融)

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