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2023-07-03

215.スポーツブッキング ㊾米国NFL不祥事

1999年以降全米各州でスポーツブッキングが認められ、制度化されるようになってから、四大スポーツリーグと呼ばれるMLB(Major League Baseball), NBA(National Basketball Association), NFL(National Football League),NHL(National Hockey League)では、スポーツ選手が賭博行為と絡むあからさまな不祥事は生じてこなかった。
各スポーツリーグはいずれも1998年以前は、スポーツ賭博は絶対反対、スポーツの廉潔性に問題を生じさせかねないというスタンスをとっていたのだが、1999年以降は賛成の立場に転換し、リーグ自らがスポーツブッキング事業者と連携協力し、新たなMonetizeの領域に踏み込んでいったというのが実態になる。
勿論、過去もまた1999年以降も、選手並びにリーグ関係者が同じスポーツリーグ関連の試合に関わる賭け事に参加することはリーグの内規により厳格に禁止されている。
賭け事を契機として、選手やリーグの関係者が不正行為や八百長に参加したとすれば、ファンの離反を招き、プロスポーツ試合自体の信頼性を一挙に失いかねないからである。
これは業務中、スタジアム、練習場、ホテル等場所を問わず禁止行為とされ、廉潔性に関わるリーグルール違反の場合には選手ならば出場停止、職員であるならば追放という処分の規則となっている。
もっともスポーツ試合を主催するリーグ自身は今やスポーツブッキング事業者と協力し、スポーツブッキングを推奨し、如何にこれを広めるかに努力しているのに、試合を担う選手やリーグ関係者に対しては賭け事を厳禁するというのも矛盾しているという指摘もある。
これでは時間の問題でほころびが生じ、不祥事がおこりかねないとする意見も多い。

実際の事案としてスキャンダルになったのは2007年でNBA(バスケットボール)の公式審判員で13年間も審判員を務めたTim Donaghyが、自分が審判を務めた試合の賭けに参加すると共に、内部情報を第三者に遺漏し、かつこれがポイントスプレッドに影響を与えたという事案である。
賭博行為へののめり込みと借金苦、これを取り戻すためにというお定まりのコースなのだが、学生時代の友人が組織犯罪の下部組織で違法賭博に関与しており、選手の健康状態やチーム状況の秘匿内部情報等を流すことで金銭を取得していた模様だ。
これはFBIによる組織犯罪調査の一環として偶然これを発見したもので、FBIの査察が入り、逮捕され、本人も有罪を認め、15ケ月の刑に処された。
その後NBAは審判員倫理ガイドラインを設け、審判員を含む組織内教育を徹底すると共に、リーグ組織内にSport Integrity Unitを設け、30以上のスポーツブッキング事業者と協力し、全試合の賭博行為モニタリングを実施しており、以後大きな問題は生じていない。
その他のスポーツリーグでも、スポーツ選手に関する限り、目立ったスキャンダルは無かったのだが、本年4月にNFL(フットボール)で一大スキャンダルになりかねない事案が生じてしまった。
事案の詳細背景等が開示されていないため、詳細は不明だが、NFLはリーグの賭博に関する方針に関する明確な違反行為として、関連するチーム(Detroit Lions/Washington Commanders)の5名の選手の出場停止処分を公表した。
内3名はNFLの(他チームの)試合の賭けに参加したとして2023年シーズンの全試合出場停止処分、2名はNFL外のスポーツ試合の賭けに参加したとして6試合に亘る出場停止処分が下された。
単純な選手としての賭け行為への参加だけなのか、何らかの不正行為に関与しているのではないか等は解らず、そもそもどういう手法でルール違反が摘発されるに至ったのかなどの詳細情報は一切開示されていない。
 この分野の権威ウイットモア大学名誉教授のNelson Rose博士は、同氏のWebサイトで、同じチームのメンバー同士で雑談もあるだろうし、SNSやチャットでやり合う仲なのだから試合情報や内部情報を交換したりするあらゆるオケージョンはある、この状況下で秘匿情報をやりとりしたり、試合の推移に関わる情報を共有したりすることはありえるのではないかという懸念を指摘している。
単純に個人の遊びとしてスポーツブックを楽しんでいるだけなら問題は軽いのだが、選手や試合の内部情報を選手同士の会話を通じて把握し、これを選手もしくは(選手ではない)誰かが賭け事に利用したとすれば、明確に違法行為になってしまう。
確かに情報技術の発展は他人に解らない手法で情報を交換したり、情報をだれにでも提供できたりすることを可能にしている。
NFLの選手が自らが参加する試合や他チーム選手等に関する秘匿情報をやりとりし、賭博行為で有利なポジションを得るということは不可能ではないのだ。

その後6月にはIndianapolis/Coltの選手がやはりNFLの試合を含む賭博に長期に亘り参加していたとしてリーグの査察を受ける事案が発生した。
NFLは規則の厳格化の方針を打ち出し、教育の徹底、選手によるNFL試合の賭け行為の禁止、チーム施設内、移動中、宿舎においても賭け行為の禁止、内部情報遺漏の禁止、コーチ・スタッフに関してはあらゆるスポーツ関連賭博への参加禁止、外部モニタリング会社と連携し、選手によるサイトアクセスのチェック等を今後厳格に実施すること等を宣言している。
スマフォさえポケットにあればいつでもどこでも賭博サイトにアクセスできる世の中だ。
やはり不正は蔓延しているのではないかという懸念は払しょくできておらず、単純ではない様相を呈しつつある

よって現状では米国プロスポーツ界に不正、いかさま、八百長が横行しているのかどうかは必ずしも明らかではない。
選手や関係者にとり自分の所属するプロリーグのスポーツ賭博に参加することはやはり倫理上問題があると言わざるを得ないが、家族や第三者を関与させ、SNSでやりとりすれば、In-Gameの賭博行為に参加しても、まずばれにくい状況が生じていることも事実なのだ。
こうなると内部情報を遺漏したり、かかる情報を悪用し、第三者が有利な立場で賭博行為に参加したりすることは、起こりうるリスクになってしまう。
勿論リーグやスポーツブッキング事業者も選手等が賭博行為へ参加しない様に常時システム的にモニタリングしており、これが十分な抑止効果を発揮することになるのかもしれない。

(美原 融)

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