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2022-08-22

171.スポーツブッキング ⑤プロとアマ(1)賭博の対象は?

スポーツを賭け事の対象にすることに関しては、一般の国民の嫌悪感はかなり強い。
競馬や競輪、競艇等は賭け事のための競技でその他のプロ・アマのスポーツ試合とは異なる。
ましてや大学スポーツを賭博の対象にする等言語道断というのが一般的な声となるのかもしれない。
スポーツ試合が賭けの対象になれば、選手を八百長やいかさまへと誘因する力学が働くかもしれず、スポーツはそもそも神聖なもの、これが汚されるという理屈なのだろう。
この考えは極めて日本的だが、スポーツという行為が教育活動の一環としてなされてきた歴史的経緯から、学生によるスポーツを商業的な活動から切り離して考えたいという思いが裏にある。
尤もプロであろうが、アマであろうが、八百長やいかさま・不正は必ずしも商業的利害関係が無くても起こりうるし、現実のプロスポーツの興行や大規模なアマチュアスポーツ大会の試合自体は大きな金が動く世界でもあり、不正のリスクは常にどこにでもあるといっても過言ではない。
これはオリンピックの商業化や噂される様々な関係者の不正行為を見ても理解できる。
選手は関係なくとも、その周りの人達の不正行為は今でも存在しているのかもしれない。
但し、これはスポーツ行為自体とは関係無く、別途関係者の規律と廉潔性を保持できれば解決できる問題でもある。
ましてや賭博行為とは関係はない。

米国のプロスポーツで有名になった不正事件とは、メジャーリーグ野球での球団ぐるみの八百長事件(Black Soxスキャンダル、シカゴWhite Soxがワールドシリーズでチームとして八百長を行った事件)で既に100年前の事件だ。
著名な野球選手であったPete Roseが賭博行為に関与し、MLBから永久追放されてから既に30年もたつ。
この間スポーツブッキング自体は非合法とされながらも、米国民の人気を得て、裏の世界では存在したのだが、世間を騒がす大きな八百長事件はその後起こっていない。
この非合法の流れを規制しようとする運動が生じ、制定された米国連邦法が1992年のPASPA法(プロアマスポーツ保護法)で過去の経緯より認められてきた4州を除く全米の州でプロ・アマのスポーツ試合を対象とした賭け事を禁止する法律でもあった。
この法案の実現を強力に推進したのはNCAA(全米大学体育協会)、NFL(全米フットボークリーグ)、 NBA(全米バスケットボール協会), MLB(全米メージャー野球リーグ), NHL(全米ホッケーリーグ)等米国の主要アマ・プロのスポーツ団体・組織である。
このPASPA法にチャレンジする訴訟事件が起きた際もこれらアマ・プロスポーツ団体は、賭博行為は絶対反対という立場で長年巨額の資金でロビー活動をしてきた経緯がある。
2018年米国最高裁はこのPASPA法自体を連邦憲法違反と判示し、同法は破棄され、以後各州政府独自の判断、立法措置によりスポーツブッキングは州毎に合法化されることになる。

時代の節目なのかもしれないが、こうなるとプロスポーツ団体の変身の動きは速い。
過去の主張を180度転換し、スポーツブッキングの導入に賛同し、積極的に利権を囲い込む行動を取った。
スポーツブッキングは確実に巨大な産業になりうることが新しい現実だからである。
各州の制度構築に際し、対象となるスポーツ団体に対し、一種のロイヤルテイ―としてのフィー支払い(Integrity Fee)を制度化するロビーイング活動を行ったが、これは成功していない。
但し、一部の州政府は制度としてプロスポーツ団体の試合を対象とする場合、団体の公式試合履歴データを有償で使用することを義務づける規定を設けた。
一方、各スポーツ団体はこれでは不十分と独自の行動を展開し、個別のスポーツベッテイング事業者や仲介者を囲い込み、パートナーシップ協定を締結し、データの供与・販売・情報交換、映像の提供、In-Playの許諾条件等を取り決めたり、データ分析の専門会社(Genius Sports Group, Sportradar等)とBetting Data Partnershipを締結し、リーグの公式データやIn Play Bettingの為の情報提供を有償で供与する仕組みを設けたりする等の動きが活発化した。
制度ではなく、市場で交渉により利権を確保したことになる。
当初からのスタンスを変えていないのはNCAA(全米大学体育協会)のみでアマチュアスポーツ試合を賭け事の対象にすることは断固反対とし、懸念と慎重さを崩していない。
では様々な州はアマチュアスポーツを各々の制度の枠組みの中でどのように位置づけているかに関しては、全くバラバラである。
ネバダ州の様に、昔から全てのスポーツ種を対象としている州もあるが、大学スポーツを賭け事の禁止対象にしている州もある。
もっとも自州の大学でなければOKとか自州で試合が行われなければOK等その判断基準は一貫性に欠ける。
一方、諸外国からオンラインで提供されるスポーツブッキングは(違法だが)米大学スポーツを堂々と賭け事の対象にしており、全米が熱狂する大学バスケNo1を決めるMarch Madness(3月中旬から4月上旬迄)等では米国民は外国のスポーツブッキングサイトで巨額の資金を賭けている。
もっとも米国では大学スポーツも商業化しており、放映権、ブランドライセンス料、広告料、スポンサーシップ等巨額の金が動いているという事実もある。
この実現を助ける大学を顧客とする専門的なアドバイザー企業もいる位だ。
こうなると賭博行為の対象になることで大学にとっても財政的にメリットを得られるならばいいではないかという意見が出てきていることも事実になる。

大学生によるスポーツは本来クリーンで、腐敗や汚職、いかさま等とは無関係なはずなのだが、現実には学生スポーツの周辺で金が動くという現代社会の環境は、学生にとり悪への誘いや金銭的誘惑には弱い状況をもたらしているともいえる。
これをProactiveに防ぐ政策や制度の枠組みが本来必要なのだろう。
もっともスポーツ行為自体の廉潔性や健全性の保持はこれら周辺の商業活動とは無関係に遵守されるべき規範でもあり、どうこれを実現するかは世界のスポーツ界の今日的課題となっている。

(美原 融)

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