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2022-08-15

170.スポーツブッキング ④対象はどんなスポーツ?

我が国において許諾されている賭博行為とは、明確にその対象や賭け行為の内容を法律上限定的に定義し、これを制度上認めることが通例となっている。
よって施行者がかってに対象となるスポーツ種を選んだり、顧客の興味をそそる様々な賭け方を自由に考え、提供したりすることは現行の公営賭博やIRカジノではできない。
誠に頭が固いといえば固いのだが、刑法上違法なことを特例として認める以上、制度の枠内であればなんでもありということは我が国の制度上ありえないということだろう。
いずれも賭け事の対象となる競技を限定的に定義し、賭け事の在り方・手法も限定的で、主催者に自由は無く、個別の省庁が個別の法律に基づき、これら施行をバラバラに管理監督しているのが我が国の実態になる。
競馬、競輪、競艇等の競技はあくまでも賭博行為の対象としての競技であって、一般人がこれら競技自体を楽しむものとはいえない。
但し、これらもスポーツの一種ではないのかという人もいる。
一方サッカーは誰もが楽しめるスポーツで、プロスポーツとしての競技もそチーム毎の対戦試合を楽しむことが本来の目的だ。
この人気をベースに全く第三者的な立場からその勝敗を賭け事の対象にしているのがTotoになる。
プロバスケットボールもその対象になる様に法改正がなされため、同じような考え方をとり、Totoの範囲を更に拡大・延長すれば、スポーツブッキングができるのではないかという印象を持つ人もいる。
残念乍ら、ことはそう単純ではない。
 
一般的にスポーツブッキングとは、限定列挙方式でその対象となるスポーツ種を認めることが通例となるが、基本的にはあらゆるスポーツ種、スポーツイベントがその対象になりうる。
もっともスポーツとして人気がなければ賭け行為は商業的には成立しにくい。
公式統計があるわけではないが、この道のプロ業者であるSportradar社によるとスポーツブックの世界市場は2021年レベルで約1.5兆㌦、一体どんなスポーツ種が対象なのかというと何とサッカーが51%、その他はテニス、バスケットボール、アメリカンフットボール、Eスポーツ、卓球、野球という順になる。
スポーツブッキングの市場は現状欧州諸国が主市場となるためこうなるのだが、要はスポーツとして人気があり、人々がその推移や結果に熱中するからこそスポーツブッキングにも人気が集まるということだ。
これは国単位で見ればまた違った様相になるはずで、例えば米国はこの分野では新興市場になるのだが、スポーツの人気は野球、アメフト、バスケット等で欧州諸国とはちょっと異なる。
もっとも全てのスポーツ種が対象となるといっても、スポーツブッキングには不向きのスポーツ種もある。
例えばフィギュアスケート等だ。
審判が点数の多寡をつけることが基本となり、勝者となる可能性を統計的・数学的に予測することが難しい側面があるからである。
もっともボクシングは対象になるのだが、これは審判の判断以上の計測可能な勝ち負けの可能性評価が可能ということらしい。
かつまた国、地域によっては一部スポーツ種を賭け事の対象にすることを禁じる国や地域がある。
例えば米国では高校生のアマチュアスポーツは賭け事の禁止対象にすることが通例である。
一方大学関連スポーツは対象にする州もあれば、禁止している州もあると共に、自州の大学チームが自州内でやる試合は禁止とする例等も多い。
要は人気が高まりすぎて、不正行為を誘発しかねないのは駄目ということなのだが、他の州の大学チームの試合は可能となるわけで、かなりいいかげんな判断基準になる。
大学生が担うスポーツやリーグ戦は米国でもプロスポーツと同様に国民の人気が高いのだが、大学生のスポーツ試合を賭け事の対象にすることは教育的に問題、選手や関係者が不正や八百長に染まるリスクが高まることを認めるべきではないとする主張は米国でもかなり強い。

一方、プロスポーツ団体・組織は自らの試合がスポーツブッキングの対象になることに長年巨額のロビーイング費用を用い反対していたが、最高裁がPASPA法を破棄した途端に態度を豹変し、売り上げの一部が自分の団体・組織に交付される場合には話は別と認める立場にたった。
要は金次第ということで他人が儲けるならば、自分達も儲けたいということだろう。
アマチュアスポーツやプロスポーツ振興のためには、スポーツブッキングの収益から一定の交付金ないしは金銭的支援がスポーツ界になされることは確かに否定されるべきではない。
スポーツを対象にメデイアに対する放映権という権利が存在するのと同様に、スポーツ試合やその結果は一種の知的財産であって、これを賭博行為の対象にする場合には、売り上げの一部を当該スポーツ団体に交付すべきという考えを認めている国、地域等もある(これをProduct FeeとかIntegrity FeeないしはDoit de Pari~仏語で賭博の対象に付す権利~等と呼称する)。
一定の国内である限り、確かにかかる考え方は成立しうるが、国境を越えた外国での試合、プロ・アマを含む国際スポーツ試合等の場合には、全く別の話になる。
今や世界中のスポーツ試合がリアルタイムでネットやTVを介在し、見れる時代だ。
スポーツブッキング事業者が勝手に人気のある海外のスポーツ試合を賭け事の対象にしたり、オリンピック等の国際試合を賭け事の対象にしたりすることはいとも簡単にできるし、世界中のファンを結集させ、賭け事へと誘うこともできる。
もっとも実態は一部中間的に介在する企業が試合履歴やデータの売買、不正行為のモニタリングサービス提供や様々なサービス提供に絡んで、これら国際試合の主催者や競技団体に売り上げの一部を直接的、間接的に支払ったり、費用を分担したりする慣行が成立している様だ。

スポーツブッキングとは胴元がかってにスポーツ種を決め、第三者的に賭博行為をできるというものではない。
やはり関連スポーツ団体・組織の同意と連携・協力が無ければうまく成立できず、行政との調整や国民・市民の支持も必要だ。
これら利害関係者との合意形成がスポーツブッキング実現の最大のネックになるのかもしれない。

(美原 融)

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